財聚まりで害除かる
田中智学
「世聚住職」とは、子孫をしてその寺を永久に嗣がしむるの権利を確かむる謂なり。すなわち、古にいわゆる「寺家僧制度」たり。はじめてこの権利をその子孫のために獲得せんとするものは、世襲権獲得の報酬として、必ず下の諸件の義務を負わしむ。
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総じて宗制を奉じ則して寺院法を確守すること。
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中にも宗命布教の周旋疏通を奉行し、平時信徒の安心解行を調養して宗政施行の牧民者たること。
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寺院伝持の動産不動産は、宗有財産なるがゆえに厳重に管督保護して減損せしめざること。
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所轄信徒の宗税義資を介措転納して、遅滞失算なからしむること。
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その寺格に規定せられたる課金上納を怠らざること。(この条あるいは除くべし)
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児女の教育を等閑にせず、男子は本山の相当学院に、女子は宗主優婆夷林に入学せしめ、必ず宗風教育を受けしめて、法器宗材を造るべきこと。
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世襲住職の申請者は、その権利獲得のため必ず一千円以上、寺格相当の世襲料を宗納せしむべし。
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現住職にしてその権利を獲んとするものは、数回分納または年賦(一定の年限)漸納を許すべし。
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以上の諸項中、その一つをも違反せば即時、世襲権を失うべし。
等の確実厳密なる規約のもとに、一意宗門の弘通に忠実なるべき旨の堅誓をなさしめ、ここにはじめてその寺のために忠実なる護持者を得ると同時に、宗門には無数恒沙の末生予約的宗民教族を有することとなり、また布教の敏活誠良なる機関を得、かねて夥多の護法資金を一挙に網収するなり(一力寺三千円とすれば約三千の寺院より九百万円の宗有財産を得)。ある人、予がこの「世襲住職案」、すなわち寺院株の立論を難じて、これ寺院の売買に類せずやというものありき。予これに対していわく、「寺院の売買は今すでに行なわれつつあり。宗門これを売るにあらずして、前住これを後住に売り、当住もまた後住に売り、転々売買してひそかに僧衣の袂を出入りするのみ。今これを収めて宗有となさば、宗門の用給わり、支出者の権利、また永久に確認せらる。一挙両得の活案ならずや」と。僧位を売り、衣格を売り、法瀆神符を売る、ひとしくこれ売るなり。あに、独り寺院株を怪しまんや。しかもなお、かれは私事なり、これは仏軍なり。彼は乱売なり、此は浄資なり。彼は散ず、此は聚まる。あに、精妙公正の宗門経済にあらずや。
ひとたびこの方針によりて、「経営面の宗是」を成功せぱ、宗資ここに聚まり、浄財泉のごとく涌出し、学教振起し、人材続出し、宗門の盛況、ついに国力の大部分を占むるに至らんこと、実に数年を出でざるなり。