第4章  ソーシャルーネットワークの可能性



常時接続と常時オンライン、ソーシャル化されたスーパーグラウトの世界は、車や電化製品などにも広がる。

一方で一社支配に対する懸念も強まり、政府の規制が予想される。

 

 

フェイスブック以前、以後

 世界は今、前代未聞の集団的実験のまっただ中にある。あなたが本書を読んでいるころ、フェイスブックはソーシャルーネットワーターサービス(SNS)として初めて、登録利用者が10億人を突破しているかもしれない。これを1つの国と考えれば、中国、インドに次ぐ世界第3位の人口規模だ。執筆時点でのアクティブ・ユーザーはおよそ8億人と言われているが(図4.1を参照)、

10億人の金字塔を打ち立てるという保証はもちろんない。しかし、フェイスブックのこれまでの成功は、物理世界における友情の概念を、仮想世界へうまく移行させられることを示してきた。わたしたちはまだ、サイバー空間におけるソーシャル化革命の揺籃期にいる。現在から2050年までのあいだに、この革命はさまざまな分野で進行していくはずだ。

 SNSと同様、ほかの数多くの。ソーシャルーメディア、も、インターネットの内外の人間関係を強化している。例えば、オンラインで友情を育んだあと、オフラインで実際に顔を合わせるというように……。ソーシャル・メディアには、ブログや、ウィキ(誰でも編集に参加できるウェブページの集合体)や、出会い系サイトや、友人たちと位置情報を共有するフォースクェアのようなサービスが含まれる。

 フェイスブックを含むこれらのサービスの一部は、ネットワーク化が進む世界においてプライバシーの未来はどうあるべきか、という激しい論争を喚起してき

た。しかし、ソーシャル・メディアの比較的短い歴史を概観するかぎり、ネット上での情報公開は間違いなく拡大の方向へ進んできている。2003年末で終わりを迎えたソーシャル・メディア史の第1期は、”BFF期”と言い換えることができる。BFFとは、10代の若者がよく使う”永遠の大親友(Best Friends Forever)”の略ではなく、”フェイスブック創設以前(Before Facebook's Founding)"の略である。

 

 

ソーシャル・メディアの進化史

 ソーシャル・メディアの先カンブリア時代が始まるとき、オンラインでの交友と情報共有は、ほとんどテクノロジーおたくの専売特許だった。彼らは”The WELL”や電子掲示板などのオンライン・コミュニティにたむろし、互いにメッセージを投稿し合ったり、オンラインーゲームに没頭したりした。1980年代に大流行した討論掲示板やチャットルームでは、実名を使う人も一部にはいたものの、多くはハンドルネームの後ろに隠れたまま、仲間に入りたがる新参者たちを愚弄して楽しんでいた。

 ソーシャル・メディア史の次段階では、徐々にツールの大衆化が進み、一般の人々がワールド・ワイド・ウェブを通じて意思疎通を図れるようになった。〈コンピュサーブ〉や〈アメリカ・オンライン〉などの企業が、電子メールや電子掲示板やチャットサイトを導入し、登録利用者の数はどんどん増えていった(途方もないフェイスブックの数字には遠く及ばないが)。商業用サービスが提供する電子版の”壁に囲まれた庭”では、比較的安全に情報を交換できたため、人々はサイバー空間で本物のIDを使うことに、以前ほどの不安を感じなくて済むようになった。

 そして1990年代半ば、ワールド・ワイド・ウェブが次々と打ち出した新機軸によって、ようやくソーシャル・メディアは一般大衆の手元に届いたのである。ブログの数は爆発的に増えた。調査会社の〈ニールセン〉によれば、2011年11月の時点で、公開されているブログは16000万以上(表4.1を参照)。

ウィキの数も激増しており、最も有名なウィキペディアは、2001年の創設以降、屈指の人気を誇るインターネット・サイトに成長してきた。無名の病気から無名の俳優まで、あらゆる分野の2000万項目を擁するこのサイトは、オンライン共作のめざましい成功例であり、毎日、数百人の利用者によって既存の項目が編集され(すべてとは言えないまでも、ほとんどの場合で内容の向上が見られる)、新規の項目が付け加えられている。

 しかし、1990年代の最も重要な進展は、シックスディグリーズ・ドットコムのようなSNSの隆盛かもしれない。個人のプロフィールと、データを検索する機能と、ユーザー同士を接触させる機能を組み合わせたサービスは、フレンドスターやマイスペースが登場する道を開いた。フレンドスターとマイスペースは、21世紀初頭に多くの人々から注目を浴びたが、韓国の〈サイ・ワールド〉、フランスの〈スカイロック〉、ロシアの〈Vコンタクテ〉を含めた新興のSNSは、従来型のソーシャル・メディアと二つの点で大きく違っていた。第一の相違点は、トピックやテーマによってサイトを構成せず、恥ずかしげもなく”個人中心主義”を標榜して、オンライン・コミュニティの中核に人間を据えたこと。第2の相違点は、簡素なインターフェイスを導入して、テクノロジーおたく以外の人々の参加と使用を可能にしたことだ。

 しかし、フレンドスターとマイスペースは消えゆく運命にあり、入れ替わるようにして飛躍を始めたのが、2004年、マーク・ザッカーパークがハIバード大学の寮で創業したフェイスブックだった。ソーシャル・メディア史がフェイスブック時代に入ると、ネット上で友情を育てて形にするという概念は、少数者のみに追求される対象から、世界じゅうで主流の活動へと移行してきた。おそらく今後もさまざまな意味で、友情と共作の概念は変化していくだろう。

 

 

ソーシャル・グラフ

 最大級の変化として挙げられるのは、人々がオンラインで本物のIDを使うようになった点と、人々が他人とのつながりを明示するようになった点だ。例えばフェイスブックは、結婚しているかどうか、恋人がいるかどうか”友達”の中に家族が含まれているかどうかを、公開するよう利用者に推奨している。SNSを運営する技術屋たちは、利用者がサイバー空間に描き出した蜘蛛の巣状の接続図を”ソーシャル・グラフ”と呼びたがる。技術屋たちの主張によると、特定の個人の”ソーシャル・グラフ”を掘り下げていけば、人間関係のネットワークと興味対象のネットワークをより良く理解できるという。

 フェイスブック時代は、人々がネット上で友達と共有したいと望む情報の量を激増させてきた。この背景には、社会の情報公開化のトレンドがあり、テレビのリアリティ番組の流行も、同じトレンドに沿ったものと言っていい。情報共有を促した別の要因として挙げられるのは、SNS各社がきめ細かいプライバシー管理体制を構築してきたという事実だ。じっさい、SNSの利用者たちには、最新の講入品目や現在の健康状態など、デリケートな情報を共有する際、安全性をより重視する意識が植えつけられている。もちろん多くの人々にとって、ネット上のプライバシーは依然として心配の種だが、位置情報を共有するフォースクェアやループトの急成長は、利用者側の態度が驚くほど変化したことを如実に示している。

 SNSは世代間の断絶に橋を架けているようにも見える。オンラインで互いに”あいさつする”と”友達になる”を押し合ったり、パーティーで半裸になった友人の写真を投稿したりする確率は、相変わらず若者たちのほうがずっと高いものの、彼らの祖父母世代も次々と利用登録を始めている。2010年、非営利調査機関のピュー・リサーチセンターは、2000人以上の成人を対象に”インターネットとアメリカ人の生活プロジェクト”という調査を行なった。この調査結果によると、2009年4月から2010年5月のあいだに、65歳以上の年齢層のSNS利用率は、13パーセントから26パーセントに倍増していた。18歳〜29歳の80パーセントと比べれば色槌せてしまうが、オンライン共有を知る”白髪のサーファーたち”が増えれば増えるほど、今後40年間に老若の利用率の差は縮まっていくはずだ。

 では、フェイスブックなどのSNSはどのようにして、膨大な数の人々を利用登録に踏み切らせたのか? 答えの一つは、テクノロジーおたくの言う”ネットワーク効果”だ。たくさんの友達が登録しているサイトには、きっとあなたも登録したくなるに違いない。もう一つの答えは、SNSの多くがフェイスブックを見習って”プラットフォーム”を提供し、ゲームから寄付まで、ありとあらゆる”アプリ”の開発を他社に許可していることだ。この手法は、サイ卜の価値と既存ユーザーの満足度を高めるだけでなく、新規ユーザーを呼び込む誘因にもなっている。

 前世代と違って現世代のソーシャル・メディアは、家電機器の発展からも恩恵を受けてきた。デジタルカメラやスマートフォンの発達により、簡単かつ安価なデジタル媒体が山のように生み出されたのだ。フェイスブックが大成功した秘訣の一つは、友達との写真共有を扱いやすい機能で実現したこと。フェイスブックの利用者たちは毎月、写真やブログ投稿を含め、300億以上のコンテンツを共有している。ほかの多くのコンテンツ共有サイト――写真共有サービスのフリッカーや動画共有サービスのユーチューブ――は、この動きに対抗するため、ソーシャル・ネットワーキング機能の強化に努めてきた。

 今日のソーシャル・メディアのはっきりとした特徴は、位置情報に基づくサービスだけでなく、共有サービスの一部もリアルタイムで行なわれる点だ。ミニブログ・サービスのツイッターは、この分野を主導してきており、多くの場合、ニュースの拡散速度は昔ながらのマスコミより速い。2011年7月に5周年を祝ったとき、〈ツイッター〉社は一日の”ツイート”が約2億回であることを披露した(2009年1月には200万回だった)。1回の投稿が140字に限定されるコンテンツの総量は、1日だけでトルストイの『戦争と平和』8163冊分に相当するわけだ。

 

 

SNSが開く未来の3つのトレンド

 これらの変化が生み出したいくつかのトレンドは、今後数10年間にもっとはっきり姿を現わしてくるだろう。第1のトレンドは、意思決定に友達の影響力が強まること。人間は昔から仲間に助言を求めてきた。しかし、相談相手に電話をかけまくったり、大量の電子メールをやりとりするのは、かなりの時間と手間を要する作業だ。

 SNSはこのプロセスを大幅に簡素化してくれる。例えば、誰かが質問を投稿すれば、接続中の友人全員に一瞬で伝わり、友人たちはすぐに答えを返すことができる。また、用意されている”ソーシャル・プラグイン”を使えば、ほかのサイト上の友人と交流することもできる。現在、フェイスブックだけで、アプリやサイトとのリンクが700万以上も貼られている。このように、SNSによるインターネットの植民地化が進めば進むほど、社会にあふれるコンテンツの濾過装置として、友達の重要性はどんどん大きくなっていくだろう。

 第2のトレンドは、情報が”クラウドソース化”すること。著名な例としてはウィキペディアが挙げられる。もうひとつの例であるクオーフは、オンラインの質疑応答機能にSNSの風味を付け加えたものだ。フェイスブックの元幹部たちによって創業されたクオーラでは、利用者の疑問にほかの利用者たちが答えを提供するだけでなく、最高の答えを選び出す投票も行なわれる。すばらしい回答を寄せた利用者たちには、ネット上の好評という報酬が与えられ、彼らの回答はまわりから一目置かれるようになる。今後数10年のあいだ、人類の知識を向上させるべく、このようなオンラインの集団的努力が数多く試みられていくだろう。

 ブログとSNSは、第3のトレンドにも影響を与えている。大規模な情報伝達と情報共有がたやすくなった結果、人々は自分にとって大切な主義や問題に対して、以前よりもすばやく組織的行動をとれるようになった。今では、新聞やテレビ局などのマスコミに頼らなくても、不平不満を広く公表することが可能だ。じっさい、2011年に北アフリカと中東で起こった民衆蜂起では、抗議者たちがフェイスブックやツイッターのサービスを活用した。ソーシャル・メディアが蜂起に果たした役割は、おそらく過大評価されているだろうが、間違いなくブログとSNSは、アラブ世界に渦巻く一般民衆の不満が増幅される一因となっていた。

 この世論の増幅効果は、富裕諸国にも新しい政治形態を芽生えさせている。2008年のアメリカ大統領選挙は、ソーシャル・メディアが政治参加を促す可能性を際立たせ、以降、ソーシャル・メディアの影響力は増大を続けてきた。ピュー・リサーチセンターの別の調査によれば、2010年の米国中間選挙の前と最中に、成人のインターネット利用者の5分の1以上が、ツイッターやフェイスブックなどのSNSで選挙戦の情報を得ていた。そして、該当者たちのおよそ7パーセントは、同時期に政治活動を開始したり、政治組織に参加したりしていた。

 SNSで政治運動とつながっている人々の多くは、これまで積極的に政治と関わってこなかった若者たちだ。さらに言うと、ブログやSNSを通じた政治目的の達成は、ほかの政治活動形態と比べた場合、個人の社会経済的地位や所得や学歴との関連が薄いように思える。この2つのトレンドは、人々の政治参加の形が一変していることを示唆するだけでなく、今後数10年のあいだに、ソーシャル・メディアが伝統的な政治関与のパターンを激変させることを予測させる。

 すでにブログやSNSを含むソーシャル・メディアは、ほかの市民活動の形態にも影響を与えている。例えば慈善活動の分野では、津波などの自然災害で心に傷を負った人々をケアする動きや、幅広く寄付金を募る動きが見られる。慈善サイトのコージズでは、特定の慈善活動に適したプラットフォームの立ち上げを支援するだけでなく、各活動家の交友ネットワークをうまく利用する方法を伝授している。

 

 

社内協業と求職活動に影響を与える

 ソーシャル・メディアの右肩上がりの影響は、人々の私生活だけでなく職業生活にも及ぶ。多くの企業は組織内にブログやウィキなどのツールを設置し、社内共作を後押しするとともに、新しいアイデアの循環を加速させようとしている。ソフトウェアの開発会社は、フェイスブック風の法人向けソーシャルーネットワーキング・ソリューションの売り込みに必死だ。”ぺちゃくちや(チャター)”や”ぶつくさ(ヤマー)”――次は”たわごと(ブラザー)”か?―と名付けられた各ソリューションは、安全なデジタル・ファイアウォールの内側で運用することができる。技術進歩を通じた社内共作が競争優位性の刺激剤となる、という点を理解する企業が増えれば増えるほど、社内のソーシャル化の傾向は加速していくだろう。

 もう一つ、将来重要性が高まりそうなトレンドとしては、求職活動のソーシャル化が挙げられる。現在、SNSの多くは、親しい友人との絆を形成することに使われている。例えば、平均的なフェイスブック利用者が持つ絆は130人分だ。しかし、研究結果が示すとおり、友達のネットワークのように見えるものは、実際のところ、仕事上の知人――そして、知人の知人――のネットワークであり、このネットワークは最高の職業紹介所となりうる。だからこそ、共同経営者や納入業者や赤の他人とのネットワークを築ける、リンクトインやヴィアデオのようなサービスが急成長するわけだ。採用候補探しにソーシャル・メディアを使う人事担当が増えるにつれ、求職者にとってネットワーク作りの成否は死活問題となっていくだろう。

 ソーシャル化が進むのは仕事だけではない。遊びの分野も同様だ。マフィア・ウォーズやファームヴィルなど、SNSのプラットフォームを用いたオンライン・ゲームの大成功は、人々がバーチャルな野菜を育てる最中でさえ、友達との交流を熱望していることを明らかに
した(表4.2を参照)。

 このような流れに対応すべく、ゲーム開発会社は操作端末として、〈マイクロソフト〉のXbox360などの採用を余儀なくされ、人々は友達と協力するにせよ敵対するにせよ、バーチャルな悪党どもを本っ端みじんに吹っ飛ばせるようになった。将来的には、ほとんどのゲームがソーシャルーネットワーキング機能を実装するようになるだろう。また、インターネットテレビなどの電化製品は、娯楽のためだけでなく、友人との手軽な交流にも利用されていくだろう。

 接続性の拡大へ向かうすべての動きは、わたしたちに利益をもたらしてくれる。しかし、フェイスブック時代の論争には必ず、徐々に進むネット上のプライバシー侵書がついて回る。フェイスブックをはじめとするSNSは、利用者情報の完全公開をデフォルトにしようと試みてきたが、そのたびに、個人情報の管理権を失いたくない人々から猛反発を受けた。また、SNSから生まれる情報の一部を商業利用しようとする企業の姿勢も、一般大衆からの非難の対象となってきた。

 今後数10年のあいだ、位置情報を採り入れたSNSなどの新技術が普及するにつれ、プライバシー問題はさらに人々の不安をかき立てることとなるだろう。政府は対応策として”デジタル版権利章典”を制定し、顧客データの所有権と、第三者によるデータ利用の条件を明確化する可能性が高い。とはいえ、このような措置の実現は簡単ではない。プライバシーは文化によって捉え方が違うため、最善の方法についての世界的合意を形成することは特にむずかしいだろう。

 

 

車などあらゆるものにソーシャル機能が搭載される

 たとえプライバシーを巡る緊張が続いたとしても、地球社会における相互接続性の進行が止まるとは考えにくい。SNSを含む各ソーシャル・メディアは、インターネットの前例にならって、人間生活のさまざまな部分へ入り込んでいくと予想される。2050年の世界では、すべての人々がソーシャル化された国家に住み、どこからでもオンラインの交友ネットワークに接続できるはずだ。集団的知性という概念は、SFの専売特許ではなく、当たり前のものとなっているだろう。

 ソーシャル・メディアとの常時接続へ向けた動きは、すでに早期の兆候がいくつか観察されている。最初に取りあげる兆候は、フェイスブックなどのサービスと接続する際、多くの人々がパソコンではなく携帯電話機を使っていることだ。この状況からは、2つの重要な示唆が読みとれる。第1に、携帯経由の利用者は、パソコン経由の利用者よりもSNSを活発に使う傾向が強いため、情報共有の絶対量は劇的に増加すると予想される。第二に、今後数10年間、新興諸国でブロードバンドの無線接続が普及するにつれ、数10億人の新規利用者が携帯電話機――途上国ではコンピューター機器を選ぶ際の第一候補となってきている――を通じて、友人と知人のネットワークを新しく築き上げていくと予想される。新興諸国におけるこの傾向は、ソーシャル・メディア革命をもっと世界的な現象に発展させるだろう。

 常時接続化の2番目の兆候は、ありとあらゆる機器にSNSとの接続機能を搭載しようとする趨勢だ。例えば、〈トヨタ〉は2012年中に”トヨターフレンド”というSNSを開始する計画を発表している。このサービスの利用者は、〈トヨタ〉の販売店と常時つながるだけでなく、ほかの〈トヨタ〉車ドライバーとリアルタイムで情報を共有できる。ほかの自動車メーカーも、運転中のドライバーにSNS接続を提供する方法を模索している。2050年までに、すべての車が音声起動式のネット接続機能を備え、走行中に運転手とネットワーク上の友人たちとを結びつけるようになるだろう。未来の世界では、車と同様のオンライン・ネットワーキング機能が、自宅の調理器から商店のレジまで、数多くの機器に搭載されているはずだ。

 

 

SNSの1社支配は続くか?

 ソーシャル化された国家では、将来にわたり、1社による支配が続くのだろうか? 極めて短いソーシャル・メディアの歴史を振り返ると、どの時期をとってみても、SNS業界は一社支配体制に置かれる傾向が強かった。”ネットワーク効果”があまりにも大きいため、一極集中が避けられないのだ。とはいえ、今では見る影もない〈マイスペース〉の運命は、気まぐれな利用者がいとも簡単に従来のサービスを捨て、もつと便利そうなライバル会社に乗り換える可能性を示唆している。

 フェイスブックはこの点をよく認識しているらしく、懸命な努力を通じて社会インフラになろうとしてきた。具体的に言うと、人々がインターネット用のデジタル人格を預ける場所になろうとしてきた。また、フェイスブックは利用者を惹きつけるため、他社製のアプリで”生態系”を創り上げている。しかし、これは難攻不落の城ではない。〈グーグル〉は自社SNS、グーグル+の立ち上げを成功させた。グーグル+では、友人グループ、同僚グループ、家族グループなどのサブネットワークを簡単に構築することができる。グーグル+が多くの利用者を惹きつけた事実は、新しい野心的な実験に参加しようという意気込みを、人々が今でもまだ持ちつづけている証しと言つでいい。

 SNS業界の一社支配が続くなら、影響力に神経過敏な政府が、厳しい規制を課してくるのはほぼ間違いない。すでに、フェイスブック――フェイスブック・クレジットという独自通貨を持ち、オンライン経済を繁栄させている――を一国家になぞらえる風潮もある。さらなる巨大化が見られれば、草の根の積極的政治活動からネット上のプライバシーまで、あらゆるものへの影響を懸念する為政者たちは、フェイスブックを注視するようになるだろう。そして、フェイスブックを追い越すライバルも、将来、同じような厳しい監視態勢下に置かれるだろう。 

 

 

人間が安定した関係を保てる上限の数

 常時接続化の第3の兆候は、クラウド・コンピューティングの成長だ。クラウド・コンピューティングとは、大量の情報をサーバーに蓄積しておき、ほぼすべての場所から、さまざまな機器を通じてアクセスできる仕組みを指す。さらなる技術革新がコンピューターの演算コストを大幅に低下させれば、どんなソーシャル・メディアが流行しようと、より簡単でより安価な利用が可能となるはずだ。2050年までには、人工知能などの進化とグラウドが組み合わさ
れ、ソーシャル・スーパークラウドとでも呼ぶべきものが誕生するだろう。そして、個人の交友ネットワークの中から、最も適切な情報や人物が自動的に抽出されるようになるだろう。

 しかしながら、2050年のソーシャル・メディア業界の風景は、まったく違う様相を呈している可能性もある。プライバシーを巡る不安の高まりは、民間の怪物企業に見切りをつけるかもしれない。そして、消費者のためだけに働く非営利団体が、デジタル人格を預かるようになるかもしれない。このような公共データ保管所は、個人に関する大量の情報を整理統合し、持ち主の指示があったときのみ他のサイトに情報を公開する。

 将来、人々はフェイスブックやグーグル+の登録者という枠をはずれ、興味のあるサイトへ自由にデジタル人格を持ち運びし、親交を深めたい友人を多数のサイトから選んでいるだろう。情報配信の技術が進化を続け、ターゲット化の精度が格段に向上すれば、超巨大ネットワークの副産物、すなわち不適切な情報とニュースの洪水に煩わされることはなくなるだろう。そして、常時接続とリアルタイムな情報共有が標準化されるにつれ、自分から要求しなくても、適切な情報が届けられるようになるだろう。

 今後数10年のあいだに、ソーシャル化に関する破壊的な新技術が登場し、ネット上の相互交流の性質が根底から覆されるのはほぼ間違いない。新技術が生み出される場所は、シリコンパレーの車庫かもしれないし、ケニアの掘っ立て小屋かもしれない。しかし、情報共有の基幹インフラがどう変化しようと、世界の相互接続性を向上させる動きは加速される一方だろう。

 一部の予測によると、わたしたちが管理できる交友ネットワークの規模は、技術進歩のおかげで段違いに大きくなるという。現在、平均的なフェイスブック利用者は、およそ130人規模のネットワークを持っている。人類学者のロビン・ダンパーの主張によれば、人間が安定した関係を保てる上限は148人(しばしば150人に切りあげられる)なので、今のところ両者の差はそれほど大きくない。しかし、マフィア・ウォーズとファームヴィルを運営するオンライン・ゲーム会社、〈ジンガ〉のマーク・ピンカスCEOは、2,30年以内に上限数が500まで伸びると予測している。

 実際の数字はもう少し低くなるとしても、本章で説明してきたさまざまな変化によって、インターネットがティム・パーナーズーリーの描く未来像に近づいていくことは、ほぼ確実だ。インターネットの生みの親と呼ばれるパーナーズ=リーは、自著『Webの創成』の中で、インターネットはどんな場合でも技術の産物というよりは社会交流の産物であると述べた。2050年の世界のインターネットは、間違いなく、生みの親が言うとおりの姿になっているだろう。

 

 

 

 

 


 

第4章のまとめ

 

 

 

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