【日蓮生誕800年】天変地異、疫病の流行……災難が続くいま、救いの道を示せるのはこの男しかいない。鎌倉中期。人々は天変地異や疫病、飢饉に苦しめられていた。僧侶・日蓮は、為政者が悪法に染まり、仏たちがこの国を去ったが故に災難が続くと結論づける。鋭い舌鋒で他宗に法論を挑むが、それは浄土宗や禅宗を重用する幕府の執権・北条氏を敵に回すことでもあった―。苦しむ民を救うため、権力者たちと戦い続けた半生を描く感動作。

 

 

書評

副題の「Passion」が本書が持つエネルギーの源泉を表す。全編に渡って高い緊張感をもってスピーディな物語展開で、読み飽きない。個人的には、ある種の極端さが読後感として強く残る。まず、権力者や他宗の僧との対決場面では、強すぎる主人公の「Passion」がロジカルさを伴い「絶対的な正義」となり、相手を圧倒する。読者は、同時に主人公の揺ぎ無さに、他者が存在する余地を感じえない。他方、自らの損得に即して、いともあっさりと転向する大衆の生々しさは、今に通じるリアリティがある。もし映像化されたら是非見てみたいなと。

 

 

 

日蓮がこの小説のような人物なら、あれだけ烈しい迫害を受けたのも納得できる気がする。法然を貶し、禅宗、真言宗を否定し、ただ法華経のみが正しいと言う。元寇を見事に予言した日蓮を、流罪先の佐渡から呼び戻し、寺を建て保護してやると言う幕府の提案に、他宗を禁じる約束をしない限り受諾できないと言い張る強情。宗教的な信念は立派だが、人間としての、この不器用さ、可愛げのなさ、空気の読めなさが歯痒くて、イライラしつつ読む生涯だった。でもそれは、「信念」を失って社会に迎合する技ばかりを身につけた現代人ゆえの感想かもしれない。

 

 

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