継命論説
ルール厳守と制度適正化
カレーハウスCoCo壱番屋から冷凍カツの廃棄を委託された業者が、これを転売して不正な利潤を得ていた事件が発覚した。
この業者はその後の調査で、ビーフカツのみならず味噌や魚に肉など、108品目の廃棄品を横流ししたことが判明している。まったく日本人の道徳観念も地に堕ちたものである。
日本最古の説話集である『日本霊異記』に、酒を水増しして売る話がある。讃岐国で裕福に暮らす妻女・広虫女は、生まれつき慳貪で人に施しをしたことがない。それどころか酒に水を加えて売る。何かを人に貸し出す時には小さな升や秤で、返却に来れば大きなそれを使って余分に徴収する。時には貸した量より十倍、百倍も回収するため、人々はおおいに憂え、やがて家を捨てて他国に逃げ出す者まで出る始末であった。
ある日、妻女は病に臥せて夢を見た。そして閻魔王から三つの罪状を宣告される。一には寺の物を何度も使いながら、一切返報しない罪。二には酒を水増しし、不当な利益を得た罪。三には少なく与えて、多く取り立てた罪。閻魔王は「この罪により汝は現世で報いを受けるだろう」と告げた。
広虫女は病で死ぬが7日後に蘇った。その姿は異臭を放ち、腰から上は牛に、額には角が、手は蹄のようで、腰から下だけが人の形をしていた。噂を聞いた野次馬が大勢集まり、見物者が絶えない。家族はおおいに歎き、丁重な廻向と莫大な供養をした結果、妻女はようやく普通に死ぬことができたという。
また、鎌倉時代の『沙石集』には、京都の嵯峨で酒屋を営む裕福な尼さんの話。この尼さんが法事を行うため、能説房という説教の巧みな僧侶を導師に招いた。それを聞いた近所の人々が、能説房に「あの尼さんはを水で薄めて売るので、ひとつ注意をして下さい」と訴えた。
能説房は法話で、酒に水を入れて売る罪障を懇々と諭すと、驚いた尼さんは以後あらためることを約束した。一同が安心していると、精進落としに出された酒が以前にも増して水っぽい。能説房が尼さんに理由を聞くと、「酒に水を入れては罪だと仰ったから、これは水に洒を入れております」と答えた。ずいぶんと人を喰った話だ。
さて、ルールを無視した業者の転売も悪質だが内心では、まだ食べられる品と罪悪感も少なく、転売を続けたのではないか。
仏教では因果応報を説き、どれだけ財を蓄え名誉を得ても成仏の因にならない。むしろ人を欺き、自分だけがいい目を見ようとすれば、必ずや悪の報いを受けること必定と説く。
しかし、飽食日本の食品観念と制度は現状で良いのか。農薬や保存薬の使用、遺伝子阻み換えなどには今後も厳しい監視が必要だが、生産過剰な野菜をトラクターで潰し、コンビニやスーパーの弁当は賞味期限切れで大量に廃棄する。これで現在の消費・賞味期限の設定は適正といえるのか。
では信仰はどうか。我々信仰者たる者が気をつけるべきは、くれぐれも法華経に傷をつけることなく、正信膚の継承を心がけることである。