第6章 それほど模範的ではない企業−モデルの崩壊

 

 

 

 かつて、「メイド・イン・ジャパン」が伝説となっていた時代があった。しかしここ数年、スキャンダルが相次いでいる。日本企業もついに――あまりよいことではないが――、汗水たらして働くサラリーマンと製品の質まで犠牲にして、グローバル化の規準に迎合するようになったのかと、心配になるほどだ。下手をすれば、競合する外国企業の手に落ちて、大きな代償を払うことになる。天敵ともいえるこれらの外国企業は、長年、日本企業に食指を動かされながらも歯が立たなかった。ところが近年、少しずつものにすることに成功し、これで終わらないことも明らかになっている。

 

「メイド・イン・ジャパン」はどこへ行ったのか?

 2015年、6か月も経ないあいだに、世界的に有名な日本の製造企業3社が、目にあまる欠陥商品でメディアを大いに賑わせた。エアバッグ・メーカーとして世界に君臨していたタカタは、爆発の恐れのある自社製品を装備した車4000万台以上をリコール、莫大な費用の支払いを迫られた。加えて、米国の司法が10億ドルの罰金を科し、タカタはあえなく中国グループが管理するアメリカ装備品会社の手に落た。ゴム・メーカーの王、TOYOTIRE(トーヨータイヤ)は、地震の揺れを吸収する巨大な免震ゴムの性能データを改ざんした。これは多くの日本のビルが装備していたもので、トーヨータイヤはそれ以前の2007年、すでに断熱パネルのテスト・データ偽装で処罰を受けていた。建築メーカーの巨人、旭化成のグループ会社である旭化成建材が、基礎工事の手抜きをしていたのがわかったのは、横浜で長さの足りない杭の上に建てられた750部屋の分譲マンションが横に傾いた日だった。マンション所有者にとっては大損害、分譲価値は暴落し、建物はいつ崩壊してもおかしくなかった。その後の調査で明らかになったのは、旭化成建材で100件もの偽装があったことと、ほかの同業9社でも同様の偽装が行なわれていたことだった。昔のことをよく覚えている人はこの事件で、1995年、6000人以上の死者を出した阪神・淡路大震災時、多くの高速道路が崩壊した件ですでに、コンクリートエ事の手抜きが告訴されていたのを思い出しただろう。

 2016年、今度は三菱自動車が燃費試験のデータを偽装、歴史と格調のある社名は、ヨーロッパの自動車メーカーと同じように地に落ちた。この衝撃が由緒正しい企業を揺るがしたあげく、三菱自動車はルノー・日産アライアンスの傘下になった。しかしそれで終わらない。翌2017年、その日産自身で、無資格者による完成検査と、認証に偽装用の印鑑が使われていたことがわかった。それにより100万台以上の車がリコールされ、250億円以上の出費となった。それから1か月後、今度はSUBARU(スバル)が一部の工場で10年前から検定を偽装していたことを告白した。2018年の終わりには告白が相次ぎ、70万台以上の車のリコールを計画せざるをえず、全体の費用は2000−万ユーロ相当〔約25億円〕になると算定された。

 2017年、創業110年の歴史を誇る神戸製鋼が、台度は品質検査の手抜きと、データ結果の偽装を告白、ここでも一部の工場で10年以上前から不正が行なわれていたことが判明した。数万トンもの無検査の製品が、自動車、鉄道備品、航空・宇宙産業、原発関連の数100社に納品されていたのだ。神戸製鋼の株価は、一時的に40%下落、9基の原発の周辺地域の住民は不安を抱きはじめた。フランスの大手原発企業アレヴア〔現オラノ〕も、フラマンヴィル原発で配管の溶接の手抜きと、第3世代の加圧水型原子炉のタンクでの異常が見つかっていたが、しかし、私たちフランス人は日本のほうがましだろうと思い込んでいた・・・。信頼を失った金属メーカーはもう一つ、川崎重工が欠陥部品を供給し、新幹線は台車トラブルで危うく脱線するところだった。この一件で、川崎重工は莫大な費用をかけて、全車両の部品を交換しなければならなかった。

 2018年、安全装置の専門企業で新しい問題が発生した。新規市場で地震の揺れとショックを吸収する油圧システム装置界のリーダーKYBが、免震装置の品質管理データ改ざんを告自する事態に追い込まれたのだ。問題の装置を配備していた建物には財務省、農林水産省ばかりか、多くの都道府県庁、さらには自然災害時に避難場所となる約100か所の施設があった。KYBはまた、日本の技術の象徴、塔としては世界一の高さ634メートルを誇る東京スカイツリーにも装置を配備、一部のオリンピック関連施設にも関係していると言われている。これらの免震装置の取り換えには、建物全体の構造的な解体が必要なことと、不正装置の被害にあった分譲マンションの価格の暴落が明らかになったことから、スキャンダルによって想定される費用のために、KYBは競合する外国企業にひれ伏す可能性がある。

 

ベンゼンからヒ素まで含む寿司?

 1960年代と70年代、日本は世界の産業汚染で最大のスキャンダルと言われるもののいくつかを体験した〔水俣病、光化学スモッグ、水質汚染など〕。水と空気、土壌の汚染での犠牲者は数千人。それを教訓に対応策を学んだ日本は、世界で最初に、被害全体にかかる諸費用は汚染させた当事者が支払う原則を導入し、各工場に専門の管理者を置くことを義務づける国となった。現在、東京の空気の質はパリより格段にきれいである。それでも、汚染問題は定期的に浮上する。

 観光名所にもなっていた築地に代わって豊洲市場がオープンしたのは2018年だが、東京都知事の座を自民党から奪い取った小池百合子が市場移転計画の見直しに着手したのは2017年のことだった。新市場が建設されたのは、東京ガスの旧工場があった土地で、東京ガスには汚染を除去する義務があった。東京ガスは、自民党が牛耳っていた都議会の権限を得て、除染作業は90%の補助金で行ない、結果が納得のいくものでなかったとしても、罰金も損害賠償も発生しないことになっていた。結果はそれどころではなかった! 小池知事が目を通した資料で明らかになったのは、盛り土にされているはずの新市場の地下が空洞で、汚染されてよどんだ水に浸っていたことと、地下水をモニタリング検査した結果、大量のベンゼン、水銀、(なかでもとくに)ヒ素が含まれ、それぞれ環境基準値の上限を100倍、7倍、3倍超えていたことだった。その前に行なわれた9回の「鑑定」では何も指摘されていなかった・・・。このスキャンダルが小池知事に有利に働き、就任後に行なわれた東京都議会選挙では、圧倒的与党だった自民党議員の3分の2を落選させることになった。

 

卑劣な原子力業界

 しかし、原子力業界における安全対策上での犯罪的な過失に匹敵するものはないだろう。監視役であるはずの原子力規制委員会は、設立当初から長く経済産業省の管轄で、2011年の福島原発事故後は環境省の外局になったものの、政権にきわめて迎合的な組織である。日本では最初の原子力発電所が1966年(フランスのわずか3年後)に稼働して以降、多くの事故が発生している。1995年、高速増殖炉もんじゅで、火災後にナトリウムが漏出、停止を余儀なくされ、以降再稼働していない。先の原子力規制委員会は、義務とされる増殖炉の何千個という部品の管理が実施されていなかったことを確認、もんじゅの廃炉を決定した。もんじゅと同じ運命が待っていそうなのが六ヶ所村の核燃料再処理工場だ。1997年に稼動するはずだった工場は、繰り返される技術的な問題が原因で、一度も動いていない。250億ドル相当を投資して、日本には貯蔵施設がここ1か所しかなく、そこに現在、3000万トン以上の使用済み核燃料が貯蔵されている。これらは冷却システムの事故や故障で発火の恐れがあるものだ。さらに1999年、東海村の核燃料加工施設でウラン溶液が臨界に達して核分裂の連鎖反応が発生、2人が死亡し、700人近くが被曝、31万人が家に閉じ込められた。2004年には美浜発電所で、放射性蒸気が噴出して5人が亡。2007年は、世界最大級の原子炉である柏崎刈羽原子力発電所で、新潟県中越沖地震により火災が発生、大量の放射性汚染水が流出した。事故当時、施設内には緊急用の消火ポンプを搭載した大型トラックが一台もなかった。稼働させていたのは東京電力だった。

 その東京電力は福島の大惨事のあと、事故は想定外の自然災害によるもので、賠償などはすべて税金を使って然るべきだと啖呵をきった。しかし、事故後の国会議員の調査委員会では「人災」としている。ちなみに東京電力は、2008年に国際原子力機関が稼働原子炉は1970年代の古い安全基準で建設されていると警告したことに対しても、さらに内部資料に、津波対策の堤防の高さが不充分と明記されていたことに対しても、そしてまた経済産業省自体が、非常用発電機が浸水の恐れのある地下に設置されているのを不安視していたことに対しても、沈黙を守っている。東京電力の指導層は、メアィアが原子炉を取材で訪れるたびにヘルメットをかぶって安全対応しているが、彼らにとって莫大な投資を必要とする安全対策は後回しになっていたのである。

 

不正会計の大きな代償

 会計の規則を軽視している日本企業もある。2010年代は、世界的に有名な企業の会計不正が相次いだ。まずオリンパス(カメラと医療用画像光学機器の企業)は何年間も、14億ユーロ相当の損失を隠蔽していた。それが発覚したのは2011年、社内改革のために突然、社長に任命されたイギリス人マイケルーウッドフォードが、頼まれてもいなかった役割に真摯に取り組み、秘密を嗅ぎつけたのだ。その時点で即刻解任された彼は、慎重に判断して母国へ帰国した。なぜなら、関連資料にヤクザの影がちらついていたからだった。オリンパスの株価は一時的に大暴落した。2016年、同社はまたイギリスでの賄賂事件で、6億4600万ポンドの支払いを命じられた。さらに2018年以降は米国で、内視鏡の院内感染に関するスキャンダルに直面、強硬な米司法省がタカタの場合と同様の罰金を科し、ここでもまた外国企業に買収されるリスクをはらんでいる。

 企業の崩壊は、かつて日本産業の成功のシンボルだったエレクトロニクス部門にも及んでいる。日本製品は技術的には最先端でも、高価格で売れなくなったのだ。シャープは2012年から、世界最大の電子機器メーカー、台湾のフォックスコンに狙われ、60億ドルの支援を提示されていた。その後、30億ドルの負債の申告漏れが暴露されて支援はいったん棚上げになったのだが、最終的には2016年、新たな会不正が明らかになったにもかかわらず、台湾企業の傘下になって事件は決着した。2018年、今度は東芝が、もっとも利益をもたらしていた部門(電子回路の半導体メモリ部門)を、日米韓のコンソーシアム企業連盟に売却する事態におちいった。東芝は米国の原発市場での巨大損失を隠蔽するため、利益を過大申告していたのだ。米国での原発建設に必要な鑑定調査を行なわず、不用意に参入したのが原因だった。その後は財政状態を保証する適任の法定監査人も見つけることができず、「日本の奇跡」を牽引した花形企業でさえ、東証第2部に格下げになる憂き目を味わった。

 これらの不正にもかかわらず、日本は現在、世界経済フォーラムがランクづけする生産機構と商品市場の質では、いまだにトップである。しかし前述したように、中国と米国はタカタとシャープ、東芝の優良部門を横取りすることで、日本のモデルを崩壊させてしまった。いずれも政権が国の威信をかけて必死に守り、戦後わずか20年余りで日本を世界第2位の経済大国にしたモアル企業だった。2009年、経済産業省はハイテクノロジーの日本企業を支援する官民出資の投資フアンド、産業革新機構を創設したのだが、シャープや東芝が外国企業の手に落ちるのを防ぐには不充分だった。これらの有名企業が株価の暴落や、膨大な損害賠償に脅かされていることを考えれば、品質スキャンダルに巻き込まれたほかの企業もまた、外国企業の買収の餌食になる可能性があるだろう。

 日本企業はもはや以前のように国の手厚い政策にも、系列企業が持ち回りで乗り切ってきた伝統的な体制にも、守られていない。それ以上に、国際的な競争にさらされており、技術的にも、財政的、品質の面でも、以前のような力がなくなっている。この点に関しては、日本とわがフランスの状況は似ていると言えないだろうか?

 

 

 

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