(学びのツボ)進歩の動向、未来を読む
科学の知識って何? 素朴な疑問深く探る
大学生の皆さん、「科学」と聞くとどんな印象を持ちますか。文系なので縁遠い、理系だけど詳しくは知らないという人もいるでしょう。人工知能(AI)から医薬品まで現代社会は科学の進歩で生まれた技術や製品があふれています。学業や生活など様々な場面で科学の知識を生かしてみませんか。
なぜ科学を学ぶのでしょうか。高校時代に物理の公式が難しくて勉強に挫折したという苦い経験を思い出す方も多いでしょう。
一方、科学者を目指して大学の研究室で日々、研さんを重ねている学生さんも少なくありません。政府はデジタル分野や脱炭素など成長分野の人材を増やすため、理系学部の拡充を掲げています。今後も科学を学ぶ機会はますます増えていきそうです。
そんな科学の役割とはそもそも何でしょうか。一つは直感的には分かりにくい自然界の仕組みを理解することです。
地球は太陽の周りを回っていると言われています。これは常識と思われるかもしれません。でも、人類がこれを広く知るようになったのは今から約500年前。天文の観測技術が発展したイタリアのルネサンス期でした。天体の観測から太陽が地球を回る天動説に疑いを持った人たちが地球が太陽の周りを回ることを明らかにしました。
科学はこうした日常生活の素朴な疑問から始まります。疑問を持ち、知りたいという知的好奇心が原動力になります。科学を学ぶことは、好奇心を育むことにもつながります。
科学を学ぶときにお勧めなのが、身の回りの出来事から知ることです。「なぜ火は燃えるのか」「携帯電話はどうして通話できるのか」「がんはどうやって発生するのか」といった疑問を持つことで、新しい知識が得られます。そんな疑問から仮説、検証、観察などの手順を経て一歩ずつ新しい知識を獲得してきたのが科学の歴史です。
科学のもう一つの役割が自然の仕組みを利用して新しい技術を生み出すことです。英国で始まった産業革命では蒸気機関が発明されました。蒸気という化学反応を力に変える技術が生まれ、工作機械や鉄道などが誕生したことで生活は飛躍的に向上したのです。
こうした科学が新技術を生み出す流れは、「科学者」が本格的に活動を始めた20世紀から加速します。20世紀は「科学の世紀」と呼ばれています。飛行機やテレビ、半導体からインターネットまで現代を支える新技術が次々と生まれました。数十日かかった地球一周はわずか十数時間で行けるようになりました。
最近では新型コロナウイルス感染症が広がったときに、ワクチンが短い期間で実用化されて感染拡大の防止につながりました。ワクチン開発に貢献した研究者は2023年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。新しい科学の進歩が社会に役立った成果の一つといえます。
科学の急速な進歩に不安を抱く学生さんもいるかもしれません。その代表例が生成AIでしょう。玄人並みの文章が簡単に作成できるとあって、大学でも授業に活用するかどうか議論になっています。AIは生活を便利にする半面、人間の仕事を奪うのではないかとも指摘されています。
過大な不安を抱く必要はありませんが、これからはAIの進歩に耳を傾けながら、卒業後の社会生活を営むことが大切です。科学の進歩は未来を先取りしている面もあります。新しい発見や発明が社会生活に広まっていきます。100年前にSF小説などで紹介された宇宙探査や無線通信などが現代に実用化した事例は数多くあります。
地球温暖化や持続可能な開発目標(SDGs)、原子力発電など科学が関係するニュースを見ない日はありません。社会人となって様々な仕事にかかわる際には、科学の知識が必要になる場面に立ち会うことになるかもしれません。
それでも科学の全貌を理解することはきわめて難しくなっています。研究分野が細かく分かれ、深くなり、その分野の専門家でなければわかりにくくなっている面もあるからです。
そこで全体を俯瞰(ふかん)しながら最新の動きを追い続ける心構えが大切です。情報源はネットだけでなく、本や新聞、雑誌など様々あります。科学の進歩に関する情報を食わず嫌いしないで、常にアップデートしながら、主体的に人生を切り開いていってほしいと思います。