中国高齢化、日韓より深刻 若者に「苦労を耐えろ」響かず

 

 ギデオン・ラックマン

筆者は2016年に世界は、その重心が欧米(西)から東へとシフトしていく中にあるというアジア強気論の著書を出版した。その際、そうした見方に対し投げかけられた懐疑的な見解のほぼすべてについて、筆者は覆す答えを持ち合わせていると感じていた。ただ、一つだけ例外があった。

イラスト James Ferguson/Financial Times

それは中国の人口はどうなるかということだった。当時よくいわれていたのは、中国は豊かになる前に高齢化により衰退が始まる「未富先老」に直面するのではないかという見方だ。こうした決まり文句の多くがそうであるように、確かにこの懸念はいまや現実となりつつある。

中国政府は、自国の成長は独自の「中国モデル」によるものだとよく強調するが、中国経済の軌跡は日本や韓国と似通った道をたどっている。

つまり、経済発展の当初は低コストの労働力を強みに輸出主導で急速な工業化を遂げたが、ここへきて成長が鈍化している背景には人口の高齢化と減少が深く関係しているという点だ。

 

日本では「ひきこもり」、中国は「寝そべり族」

欧米では、中国経済がデフレや不動産バブル、債務危機に直面するのに伴い、まさに「日本化」しつつあるのではないかとの懸念が頻繁に語られている。

しかし、中国は経済面だけでなく社会面でも日本や韓国と類似性を抱えている点も懸念すべきだろう。これら3カ国はいずれも極めて低い出生率に悩まされており、これが人口の減少と高齢化につながり、経済への負担増を招いている。

中国では1980年頃から2016年まで導入されていた「一人っ子政策」が高齢化の到来を早めたのは否定できない。だが政府による介入がなかった日本と韓国も人口が増えない状況に直面している。

韓国は目下、出生率が世界最下位に落ち込んでおり、1人の女性が生涯に産む子供の数は0.78人という低さだ。転機となったのは1997〜98年のアジア通貨危機で、この際の経験が多くの若者に影を落とし、子供を持つことにさらに後ろ向きになった要因とされる。

また、日中韓は教育制度が試験中心で、競争が極めて激しいという点でも共通している。将来への希望が持ちにくくなるなか、割に合わないラットレースからの離脱を試みる若者が増えており、日本では最近、政府の調査で成人人口の1%を上回る150万人近くがひきこもり状態にあることが明らかになった。若い時に味わった挫折感や耐え難いほどの社会的圧力が、往々にして家から出られなくなるきっかけとなる。

中国当局から見ても、日韓の状況は自国に恐ろしく似ていると感じる部分があるかもしれない。中国では経済成長が減速し、若年層の失業率が20%を超える。こうしたなか報酬などが魅力的な職は減りつつあり、よい仕事に就くための熾烈(しれつ)な競争を諦めて、代わりに最低限の生活でよしとする「寝そべり族」が増えているからだ。

 

塾の規制で大卒の最大の就職先の一つが消失

日本では2011年、韓国は20年から人口が減少に転じた。中国も昨年、約60年ぶりに減少に転じた。中国当局にとって懸念すべきは、中国の人口減少が始まった時の国民の平均資産が日本や韓国が人口減少に転じた時よりも少ないことだ。

中国政府は目下、出生率の引き上げに躍起だ。だが日本と韓国の取り組みを見れば、これがいかに容易には実現できないかがわかる。それどころか中国の場合、就職先が見つからず、自分が住むアパートも借りられない若者は所帯を持つ見込みも低いため、人口動態がさらに悪化する恐れもある。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は21年、若者への圧力を軽減し、子育てにかかるコストを抑えるべく塾など学校以外で営利目的で教えることを厳しく規制した。ところが、この施策は狙いに反し、大学を卒業した若者にとって最大の就職先の一つを奪う結果となった。

 

1919年以降常に学生運動を弾圧してきた中国

中国政府は15日、上昇の一途をたどる若年失業率を受けて新たな対応に乗り出した。年齢層で分けた失業率の公表を一時停止すると発表したのだ。これは、中国とその他のアジア主要国との違いを浮き彫りにする動きといえる。

日本と韓国は民主主義国として確立しているが、中国は中国共産党による一党独裁国家の下で経済成長が鈍化することになる。その中国政府には若者が抱く不平不満について警戒すべき歴史的な理由が十分にある。

1919年(編集注、五・四運動を指す)と1989年に社会を揺るがすような学生運動が起きている。中国政府はこれを弾圧によって抑え込んだ。香港でも2019〜20年に学生が中心となり民主化を求めるデモを展開したが、これも封じ込められた。中国が「ゼロコロナ」政策をあきらめるに至ったのは、同政策に反発して昨年、若者が起こした抗議行動が原因だった。

監視国家である中国が、学生の不満やデモ活動を鎮圧する術(すべ)を持っているのはほぼ間違いない。これに対し日本や韓国などの民主主義国の方が、社会的不満のはけ口となる安全弁が多くあり、政治的な試みを進める余地も大きい。

韓国では17年に朴槿恵(パク・クネ)大統領(当時)が罷免され、収賄などの罪で懲役22年を言い渡された(編集注、21年末に特別赦免となった)。日本では、1989年のバブル崩壊以降の20年間に首相が14人も入れ替わった。

だが中国の一党独裁制は常に警戒感を募らせており、こうした柔軟性は存在しない。習氏が推し進める自身への個人崇拝や「中華民族の偉大な復興」を必ず実現させるという強気の姿勢を貫いていることから、中国が直面する複雑な社会的、経済的課題について公に議論する道は閉ざされている。

習氏は経済成長よりも国家安全保障と政治統制を重視する考えだ。若年層との対話を試みようにも、実態をあまり理解していない様子がうかがえる。

希望を持てない若者に「苦労に耐えろ」と言っても響かないのは当然だ。苦境の中にいるからこそ国の一人ひとりの人格が磨かれるのだといった過去の考え方への郷愁も、全く異なる時代に生まれた今の若者にはまず共感できないだろう。

日本と韓国にも問題がないわけではないが、今のところ両国ともまだ安定した豊かな国であり続けている。だが中国における高齢化社会と低成長経済への移行は、日韓よりもはるかに難しく、一筋縄ではいかない可能性がある。

 

 

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 柯 隆 東京財団政策研究所 主席研究員

分析・考察

経済活動よりも、人口動態は比較的予想しやすいものである。元統計が正しければ、予測はそんなに外れない。長い間、一人政策を前提にしていたため、高齢化の動きに直面してこなかったため、前もって対策を講じてこなかった。そのうえ、3年間のコロナ禍は出生率を押し下げ、高齢化をさらに加速させている。なお、日本と違って、介護保険はまったく整備されていないため、老後の生活がどうなるか、考えるだけでぞっとする。しかし、この結果は、今までの一人っ子政策を中心とする政策の失敗といわざるを得ない .

 

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