日刊SPA! の意見

 

創価学会3世が“宗教エリート”の悩みを告白したワケ「献金はクセになる」

 

「宗教2世」の生きづらさが話題となって1年――。2023年7月に『宗教2世サバイバルガイド』(ダイヤモンド社)を出版した正木伸城さん(@nobushiromasaki)は、安倍元首相事件後、いち早く創価学会3世であることを明かし、WebメディアやSNSを中心に情報を発信している。信者からいまも批判が寄せられるなか、発信を続ける理由、宗教2世をとりまく現状や変化について訊いた。

 


◆宗教エリートの悩みを告白した理由

――正木さんの父親は創価学会の元ナンバー2。母親も熱心な学会員で、自身も創価中学、高校、創価大学を進む、いわば宗教エリートです。宗教名を明かす葛藤はなかったのでしょうか?

正木伸城(以下、正木):声を上げれば、「創価学会も統一教会と同じなの?」と思われてしまわないかとすごく悩みましたし、いまも悩んでいます。しかしどの宗教でも、2世の悩みには多くの共通点があり、黙ったままではいられませんでした。 学会員からの反応は、意外にも応援8割、批判2割。一見すれば批判が多いようにみえるのは、応援はダイレクトメッセージのようにバックヤードで来るのに対し、批判はSNSのリプライのように周りにみえるかたちでおこなわれているからです(苦笑)。


◆引きこもったままの宗教2世の友人も

――宗教2世のかたにはどのような共通点があるのでしょうか?

正木:僕の両親もそうでしたが、2世の一部の家庭は、宗教活動のため親が家を留守にしがちです。僕は父親に「世界平和の前に家の平和をなんとかしろ」と言ったこともあります。愛情を注いでくれていても、親は学会の次世代を担う人材として子どもを見ている側面がどうしてもあって、それが「純粋に子どもとして愛してくれていないのでは?」といった疑念につながることもあります。 そもそも宗教2世は、物心つくときから信仰者のコミュニティのなかにどっぷりつかっているので、自分の意思とは関係なく人生が決められていくこともあります。ある友人は親を喜ばせたいという理由で創価大学に進学し、勉強したいことができずに心が折れてしまい、いまも引きこもったまま。 僕自身も夢を諦めて、腹を決めて学会職員になりました。宗教2世は家庭問題の面もありますが、家庭問題と割り切ってしまえば、時に問題を矮小化させてしまいます。宗教2世をめぐる問題は、宗教の問題と家庭の問題の両方の側面から捉えなければ実態はみえてきません。

 

◆創価学会と高額な献金ノルマ

――統一教会では高額な献金ノルマが問題となっていました。

正木:あのようなことは創価学会ではまず聞いたことはありません。もちろん自主的な献金はあります。僕自身も毎年貯金を全額献金していました。変な話ですが、貯金がゼロになると物欲から解放されて、一時的に晴れやかな気分になれるんです。しかも世界平和のために使ってもらえるという喜びもありました。だから献金はクセになるともいえるかもしれません。献金をしてしまう人の気持ちもわかります。僕は婚約を機に全額献金することはやめました。親がムリな献金をしたため、子どもの進路が狭まるのは避けなければならないと思います。


――創価学会は選挙活動にも熱心です。影響はありますか?

正木:かならずしも信仰と公明党の応援はイコールで結ばれるわけではないと僕は思っています。 それなのに創価学会は選挙活動にかなり時間や労力を割いています。僕は大学生の頃、「小学校の卒業アルバムを持ってきて」といわれました。卒アルに載っている連絡先の1軒、1軒に公明党に投票してもらうために電話するのです。 当時は、選挙活動に疑問を持っていなかったので、言われるまま電話しました。仲のよかった人でも怒るんですよね。絶縁されたこともあります。学会の人に相談すれば、「その程度の友情だったんだよ」と何の救いもない言葉をかけられました。今から振り返ると、ほんとうに失礼なことをしてしまったと反省しきりです。


◆題名を「サバイバルガイド」にしたワケ

――「サバイバルガイド」というタイトルのとおり、著書では宗教上の悩みだけでなく、親子間や恋愛、キャリア形成についても幅広くQ&A形式で悩みと向き合うためのアドバイスを送っています。一方で正木さんは最後までタイトルにある「サバイバルガイド」が引っかかっていたそうですね。

正木:宗教2世のなかには、ほんとうに重いものを背負っている人たちがいます。とてもサバイバルなんかできない。ナイフひとつなく、テントも張れないなか、ただ嵐が過ぎ去るのをいつまでも待つしかない。この本を読んだだけで解決する問題は限られたもの――そんな宗教的環境に生まれたことを恨んでいる2世に、どんなタイトルが響くのかと最後まで悩みました。「サバイバル」では軽いのではないか、と。その一方で、そこまで深刻ではないけど、なんか生きづらいなと悩んでいる宗教2世が多いのも事実です。そういう人たちとって、悩みが深刻になるまえに対処するためにも「サバイバルガイド」は必要だと考え、この題名の採用に踏み切りました。発売してみると、若いかたからはかなり好意的に受け入れてもらえているので、ほっとしましたね。

 

◆自分史づくり活動を仕事に

――正木さんは自分史づくりというユニークな活動もされています。どういう経緯ではじめられたのでしょうか?

正木:2020年頃、音声SNS「クラブハウス」で僕がインタビュアーになって、相手の人生を根掘り葉掘り聞く企画をしていました。そこでインタビューを褒めていただける機会があり、「正木さんに話を聞いてほしい」と声がかかるようになったんです。 なにか戦略があったわけではなく、ニーズが先にあり、お願いされるようになったので、「自分史づくり」が仕事になったのが流れです。学会員からの依頼もよくあります。「自分の信心の歴史をまとめてほしい」とお願いされます。これは同じ信仰者でなければ書けませんから。
 どうしてインタビューが得意になったのか考えてみたところ、これは学会のおかげでした。学会の活動のベースになるのは、地域の仲間同士で悩みを聞き合い、励まし合うこと。相手に寄り添い、この人になら話してもいいと信頼を得なければできません。だから、学会員の中には聞き上手な人が結構いるんです。
 世間のイメージとは離れていると思いますが……。それは信者ではない人と接するときは、入会させようという目標が先走って、相手の話を聞くのが疎かになってしまう人もいるからでしょう。内部の人=学会員の仲間に接するように、外部の人=学会員以外の人にも接することができるようになれば学会も変わるのに、とは切に思っています。もちろん内部の人に対する時でも「人としてどうなの?」と思わせるような接し方をする学会員はいますが。

 

◆宗教2世問題は解決に向かうのか?

――宗教2世がクローズアップされてから1年が経ちました。事態は抜本的な改善が進まないまま、沈静化してきています。
正木:人々が関心を持てば、政治家も無視できなくなるのはわかりました。旧統一教会をめぐる被害者救済法案が成立したのは、まさに世論の力です。あのときの勢いは今はありませんが、これからは勢いに頼らなくても宗教2世の問題に社会が取り組んでいける息の長い運動を行っていく以外に道はないと思っています。

 


【正木伸城】
1981年、東京生まれ。文筆家、マーケター、フリーランス広報。数多くのメディアで連載を執筆しながら、大手・中小企業などの事業支援を行う。創価高校、創価大学工学部卒。2004年に創価学会本部職員となり、同会機関紙・聖教新聞の記者として社会人生活を出発。その後、2017年に転職、IT企業2社や人材ビジネス最大手などでマーケティングや広報を担当。2021年に独立し、現職。『宗教2世サバイバルガイド』(ダイヤモンド社)が初の著書

 

 

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