現代ビジネス

 

中国が西側諸国から「締め出し」を食らうことで待ち受ける末路…予想される中国の「異常事態」


中島 精也 によるストーリー

 

バブル崩壊以降、最高値をつけた株価、相次ぐ世界の半導体大手の国内進出。コロナ明けで戻ってきた外国人観光客。なんだか明るい兆しが見えている日本経済。

じつはその背景には、日本を過去30年間苦しめてきたポスト冷戦時代から米中新冷戦時代への大転換がある。

いま日本を取り巻く状況は劇的に好転している。この千載一遇のチャンスを生かせるのか。

商社マン、内閣調査室などで経済分析の専門家として50年にわたり活躍、国内外にも知己が多い著者が、ポスト冷戦期から新冷戦時代の大変化と日本復活を示した話題書『新冷戦の勝者になるのは日本』を抜粋して、前編に引き続きお届けする。

今回は、新冷戦時代のキーワード、経済安全保障とフレンド・ショアリングを解説する。

前編記事【「ロシアリスク」と「中国リスク」がヤバすぎる…直近の事例が証明すること】

 

フレンド・ショアリングの構築

米バイデン政権は2021年に半導体供給強化を目的とした米国とEUの「貿易・技術評議会」を設立し、22年の会合では半導体やレアアースなどの重要物資に関する米EU間のサプライチェーン強化で合意した。一方、21年の東アジアサミットでバイデン大統領は「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」構想を発表しており、米国が主導して欧州、アジアとのフレンド・ショアリング(同盟国や友好国間に限定した新しいサプライチェーン)の構築に動き出している。

すでに見てきたように中国やロシアなど専制国家は外交関係が悪化すれば、グローバル・サプライチェーンの寸断を戦略的に実行する。よって、経済安全保障の観点から専制国家にサプライチェーンの拠点を置くことはリスクが大き過ぎる。

そこで、エネルギー、原材料、部品、製品、物流など既存のグローバル・サプライチェーンを根本的に見直す動きが始まっている。民主国家が採用すべき方法は生産拠点のリショアリング(国内回帰)、ニアショアリング(近隣友好国への工場移転)、フレンド・ショアリングである。

リショアリングとして米国では半導体製造のための施設投資額の25%の税額控除が受けられるCHIPS法の成立もあって、米メーカーのマイクロンが国内工場新設を発表するなど、電気自動車用バッテリー、ソーラーパネル、半導体、バイオテクノロジーの業界が相次いで国内に生産工場を建設すると発表している。

日本では半導体大手ルネサスエレクトロニクスが2014年に閉鎖した甲府工場を24年から再開する。京セラは半導体部品増産に伴う生産スペース確保のために鹿児島川内工場の増設、日本電産(現ニデック)は川崎に半導体ソリューションセンターを設ける。ダイキンは中国で生産する家庭用エアコンの国内回帰を検討している。

しかし、国内回帰だけでは低コスト生産には限界があるので、民主国家連合間でのニアショアリングやフレンド・ショアリングが今後ますます重要になってくる。その政治的枠組みの一つが先に述べた米国主導の経済圏構想IPEFである。

IPEF閣僚会議ではショックに強い弾力性のあるサプライチェーンの構築のために、重要セクターや製品の基準明確化、重要セクター・製品への投資で弾力性を高める、情報共有と危機対応メカニズムの設定、サプライチェーンの物流面の強化などで合意しており、経済安全保障の観点から中国やロシアに依存しないサプライチェーンの構築を目指している。

 

新冷戦時代はインフレは必至

さて、新冷戦時代はブロック経済による生産要素価格の上昇と経済安全保障を意識したグローバル・サプライチェーンの再構築により、コスト高は必至である。

よって、世界のインフレ率はポスト冷戦時代よりも高くならざるを得ない。ポスト冷戦時代の金融政策はデフレ突入の阻止に大きなエネルギーを費やしたが、新冷戦時代にはインフレが悪性インフレにならないように管理することが大事になってくる。

現在、米連邦準備制度理事会(FRB)は急激かつ大幅な利上げを実施しているが、現状5%のインフレ率をできる限り早めに2%目標に近づけないと、アンカーされている期待インフレが漂流しかねないからだ。

FRBのFF金利は2022年3月より10回連続引き上げられて、23年5月時点で5.0〜5.25%のレンジとなっている。米シリコンバレー銀行(SVB)の破綻など不透明な要素もあるので、いったん利上げは打ち止めを示唆しているが、バランスシートの縮小は着実に進むだろう。同じくECBも主要レポ金利は3.75%だが、利上げは続くし、バランスシートの縮小も粛々と実行されるだろう。

それに比べると、日銀は異次元緩和の黒田東彦前総裁に代わって植田和男新総裁が誕生したが、欧米と異なり金融政策の正常化を急ぐと金利が高騰して保有国債の巨額の評価損が発生しかねない。下手をすると債務超過に陥るリスクもあり、出口戦略は慎重な上にも慎重であらねばならない。

株価の爆騰はしばらくない

いずれにせよ、世界の金融緩和局面は終わりを迎え、マネー収縮と高金利の時代に移行していくとすれば、マーケットの視点では株価にプラスということはない。ポスト冷戦下の過剰流動性のおかげでNY株価が3000ドルから3万ドルへ10倍も上昇したような相場はもはや期待できないだろう。

債券価格も下落して長期金利が上昇するので、住宅投資や設備投資、さらに耐久消費財の重しとなり、成長を下押しすることになるだろう。金利が上昇すれば国際間の資本フローも縮小に向かうので、新興国の成長減速も避けられない。

為替については米ドルの復権がメインシナリオになると思われる。世界的にドルの流動性が低下してドル需給がタイトになること、新冷戦下におけるサプライチェーン再構築で米国が主導権を握ること、国際緊張激化で有事のドル買いが意識されること、米国の技術力の優位性などからである。

ユーロについては天然資源をロシアに、輸出先を中国の巨大市場に依存する欧州成長モデルが崩壊するので先行きは悲観的にならざるを得ない。

人民元は中国が西側の先端技術、重要部品のサプライチェーンから締め出されること、共同富裕という社会主義政策への回帰による国内投資の落ち込みもあり、成長にブレーキがかかるので下降に向かうと予想される。

日本円は海外工場の国内回帰、フレンド・ショアリングの一角を担うこと、潜在的な技術力の高さもあって、日本経済復活に向けた動きも見られ、必ずしも円の先行きを悲観することはないと思われる。

 

 

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