深刻化する「政治宗教」創価学会の組織的衰退


池田大作名誉会長を熱狂支持した世代が退場


小川 寛大 : 『宗教問題』編集長


統一地方選の「敗北」で創価学会の組織力低下が顕在化している。

6月5日発売の『週刊東洋経済』では「宗教消滅危機?消えゆく寺・墓・葬儀」を特集。少子高齢化や過疎化、葬儀の簡素化で宗教の出る幕が急速に失われつつある。宗教はこのまま消えゆくのか。機能不全に陥る伝統宗教、衰退する新宗教の「今」を追う。

5月24日、公明党が次期衆議院選挙において「東京都内の選挙区で自民党候補を推薦しない」方針を固めたとのニュースが、主要マスコミによって一斉報道された。早速「自公連立崩壊の兆し」といった論評がメディア上には躍っているが、筆者は逆にむなしい。いったいいつまで、こうした茶番は続けられるのだろうか、と。

このような騒動は以前にもあった。2022年の参議院選挙を前に、公明党はそれまで行ってきた自公間の相互推薦(自民が複数区で公明候補を推薦し、公明は1人区を中心に自民候補を推薦する)を見送ると宣言。兵庫県で自公間の調整がうまくいっていなかったことなどに端を発する騒動だった。山口那津男・公明党代表は「自力で戦う」と鼻息が荒かったが、結局選挙までに自公は歩み寄った。

 

茶番はしょせん茶番

このほか東京や大阪など、地方議会において自民党の力が弱まった地域では、公明党は自民党と距離を置き、都民ファーストの会や大阪維新の会などの新興政党に接近する動きも見せている。

が、それで自公が決裂しているわけではない。

このように近年、公明党が自民党にブラフを仕掛ける例が目立つ。しかし、茶番はしょせん茶番だ。次期衆院選に向けても、自公は結局手打ちをする可能性が高いだろう。

ではなぜこうした愚にもつかないけんかが繰り返されているのか。結局は公明党の弱体化、すなわち母体である創価学会の組織的衰退に、その原因がある。

かつて国政選挙のたびに全国から800万規模の比例票を集めていた公明党の力は、近年どんどん落ちている。昨年の参院選では比例票618万という、現行制度になって以降で、過去最低の数字となった。従来、創価学会によるぶ厚い組織票に支えられた公明党候補は出馬すれば当選が当たり前だったが、今年4月の統一地方選では12人が落選。とくに東京都練馬区議選では4人の候補者が落ちるという前代未聞の結果となった。

これらのことがなぜ起きたかに関しては、さまざまな要因が絡む。しかし、創価学会に従来の勢いがあればそもそも発生していない事態である。

創価学会のカリスマ、池田大作名誉会長が公の場に姿を現さなくなってすでに十数年が過ぎ、その池田氏を熱狂的に支持した、池田氏と同世代、もしくは若干下くらいの創価学会員は、いま次々と退場している。対して池田氏を欠いた創価学会に、若い世代を吸引する力はない。この組織の高齢化が、創価学会の最大の課題だ。

 

「自公の軋轢」の正体

しかし、カリスマの退場、組織の高齢化に苦しむのは日本の宗教団体の多くに共通する。その中で今なお公明党を連立政権に参画させ、衰えたりといえども全国から600万の票を集められる創価学会は、日本の宗教界全体の中ではむしろ勝ち組といっていい。創価学会がなお踏ん張れているのは、彼らがとくに近年、徹底して「政治宗教」であり続けてきたからだ。

現在の創価学会は、法要や修行といった宗教的な事柄よりも、公明党の応援に組織リソースの多くをつぎ込む、宗教団体というよりも選挙マシンと呼んだほうが的確な組織である。「会員を選挙に駆り立てれば、組織が団結してまとまる」というのは、池田氏の師だった戸田城聖・創価学会第2代会長の時代から言われていたことなのだが、今の創価学会はその路線をより徹底させている。

座談会などの日々の集まりでも、話題の中心は仏教の話よりも「次の選挙をどうするか」といった問題。かといって創価学会は、自分たちの宗教思想を政府・自民党に浸透させて操る、といった考えを持っているわけではない。むしろ「憲法9条を変えてはいけない」と言った池田氏のつくった公明党がマスコミから「改憲勢力」と呼ばれている現状は、公明党が自民党によって変質させられた実態さえ示している。

要するに現在の創価学会とは、選挙を一種の「お祭り」に見立て、神社仏閣がお祭りに信者を呼んで熱狂させるように選挙活動をさせ、公明党の勝利に酔わせるという「宗教行為」をしている団体なのである。この結果に対し言われるのが、「創価学会員は選挙には関心があるが、政治には関心がない」という言葉だ。「あの候補は仲間だ!」といってお祭り的に盛り上がる選挙では強いが、政策内容の判断が必要だった大阪都構想の住民投票で公明党が存在感を示せなかった原因の1つでもある。

しかし、従来ほど確実な勝利が見込めなくなった現在、公明党はアクロバティックなブラフを自民党に仕掛けて、事を有利に進めたがるようになった。これぞ「自公の軋轢」の正体である。とくに創価学会の地盤沈下で比例票の積み上げが絶望的となった現在、公明党は選挙区での当選者数を増やそうともくろんでいる。次期衆院選に向けた自民とのイザコザも、結局10増10減に絡む自公間の選挙区の取り合いが背景にある。

 

政治から手を引くことはない

公明党の党勢は長期的に見れば衰えていくしかない。しかし創価学会が政治から手を引くことはない。なぜなら創価学会の活動の中心は、いまや宗教ではなく選挙だからだ。それが組織の延命に役立ってきた事実はあるのだが、いよいよ限界が見えつつある。そして、少なくとも今の創価学会に、次の一手はない。

自民党は公明党のそんな態度に、いら立ってはいる。しかし弱い野党しかいない現状では、ほかに組むべき相手もなく、また漁夫の利をさらわれる心配もない。今後も政界でしばらくは、自公間の茶番じみたいさかいが繰り返されるのだろう。これが令和の日本政治の偽らざる姿だという、あまりに悲しい現実がある。

 

 

もどる