シニアサポーター

 

お寺へ行こう、疲れた心整える 社会経験生かし住職に

 

 

仕事に追われる現役生活でした。これからは自分と向き合える静かな時間がほしいと考えています。引退後に僧侶になった人や、修行を体験できるお寺があるなどの話を聞いたことがあります。宗派によって異なるとは思いますが、具体例を知りたいです。

柴田文啓さんは長野県千曲市にある開眼寺で住職を務める

長野県千曲市にある臨済宗妙心寺派の開眼寺で住職をする柴田文啓さん(88)は大学卒業後に大手電機メーカーに勤務し、米国法人の社長も務めた。「仕事中心の生活だった」と振り返る。

会社人生を通じて「世の中には不安や悩みが尽きない。心のよりどころや誰もが相談できる場所は大切だと思った」と住職を目指して65歳で出家した。

僧侶になるための修行で柴田さんは早朝からお経を読み、昼は掃除やまき割り、夜は座禅に励んだ。食事は主食に「一汁一菜」という生活を1年ほど続けて、住職になる資格を得た。

今では経験を生かして若いビジネスマンたちの相談にのったり、托鉢(たくはつ)で被災地への募金を集めたりして「人のために」住職としての務めを果たす。一方で、近所の人から野菜などのお裾分けをもらうことも多く「支え合う関係が楽しい」。

 

退職者向けにも

同宗派では「第二の人生プロジェクト」と称して僧侶になりたいシニア向けのプログラムを用意している。お寺で面談をした後、数カ月間にわたる体験入門を経て、仏道に入る儀式となる得度で僧名を得る。さらに1〜数年の修行をこなし、最終的にお寺に入ることになる。

体調が優れない場合や通院時には休むことができるように配慮したプログラムを用意するお寺もある。このプログラムは人気で、龍門寺(兵庫県姫路市)では開始から約9年で計500人を超える応募が全国からあったという。ただ、面談などもするため、全員が参加できるわけではない。

2月時点では60代の男性2人が住職を目指して取り組んでいる。22年9月から修行を続ける男性(66)は「約半年間の修行を通じて無駄な考え事が消え去り、自分と向き合う時間が増えた」と実感する。

もちろん宗派や寺院によって、修行の内容や僧侶になるまでの過程は異なる。各宗派での手続きや修行内容などについて、まずは確認してほしい。

 

1泊2日で体験

体験してみたいという人たちに向けたプログラムもある。曹洞宗の大本山のひとつである永平寺(福井県永平寺町)では、1泊2日の修行体験ができる。1日目は座禅の仕方や作法などについて説明を聞き、説法を受ける。2日目は午前4時から座禅が始まり、数十人の修行僧たちとともにお経を読む。

全国各地から毎月20人前後が参加する人気ぶり。80代以上の参加者も目立つという。ケガや病気などで足を組むことが難しい場合は、椅子に座って座禅をすることもできる。

このほか、精進料理を食べたり、僧侶による法話を聞いたりできる寺院もある。これら客室などを設けて泊まることができる「宿坊」は全国に多くある。なかにはバリアフリー化され、温泉を備えた寺院もある。旅行サイトで、体験内容や料金が紹介されており、予約もできる。

 

オンラインで学ぶ

社会人を主な対象に大学が設ける講座にも仏教を学ぶためにシニアが集まる。

仏教大学(京都市)はオンラインで仏教の歴史や思想などが学べる講座を開く。全国で約250人が受講しており、うち約3割が60歳以上とシニアは目立つ。

花園大学(同市)は50歳以上を対象に授業料の半分以上を免除する奨学金制度を設けている。仏教学科には毎年、3人ほどの高齢者が入学しているという。同校担当者は「シニアで入学する人は、生きる意味について考えたいという思いを抱いている」と話す。

花園大学の佐々木閑教授(仏教哲学)は「お寺では、外からの情報が届かない環境に置かれる。雑念なく、自分にとって大切なものは何か考えられる」と説明する。体験プログラムに参加すれば、同じ悩みや考え方を持った人と出会うこともできるという。佐々木氏は「仏道に触れて第二の人生に思いを巡らせてほしい」と語った。

 

 

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