古刹再生担うボランティア 寺院残す意義、考え直す

 

 

そろいの法被姿で住職とコケの植え付け作業をする復興衆の人たち(6月、安祥寺で)

 

寺に人々が望むものは、いったい何だろう――。そんな問いを胸に、古刹再生に取り組む住職とボランティアがいる。手探りの復興は、混迷の世に寺院の役割を考え直す試みでもある。

京都市山科区の真言宗、安祥寺は9世紀の創建。かつては広大な地に別坊700余りを擁し、密教の僧侶を育てる国家的な機関の役割も担った。応仁の乱で灰じんに帰すが、徳川家康の令で寺域を回復している。

足を踏み入れると、緩やかな斜面にコケが覆う樹木が茂り、歴史の蓄積を秘めた厳かさがある。

しかし藤田瞬央住職(67)が就任した2018年当時、境内は荒れて堂を巡るのも難しく、拝観者を招く状態でなかったという。

「これでは伝統ある寺の役割が果たせない」。檀家のいない中、住職は少しずつ整備を進め、19年の春と秋、本堂の十一面観音菩薩立像(奈良時代、重要文化財)の公開にこぎ着け、それぞれ1万人超が訪れた。

この時、拝観していたのが東京都内の会社に勤める大江紀洋さん(45)らだ。

自然と調和した寺の幽寂な空気に引かれた。一方で貴重な寺宝を誇りながら、手入れが行き届かない境内の様子に「何かできないか」と心を揺り動かされた。

すぐさま住職に寺内の清掃や修復をする長期ボランティアを申し出たのだ。

以来、大江さんらは数人で週末ごとに関東から安祥寺へ通い、倒木の撤去や落ち葉かき、参道の整備などに当たった。本気度を感じた住職も、寺所有の近隣の家屋を活動の拠点として提供するに至ったのである。

実は、大江さんらはJR東海の社員や関係者。当人は最近まで「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンのリーダーだった。となると将来CMに使う目的かと誤解が生じそうだが「それは違う」と断言する。

仕事を通じ寺と関わるなか、仏教文化の持続可能性を考えた。「人々は寺に何を求めているのか」を模索するさなか、荒れた寺を目の当たりにし自発的に労務の提供を申し出たという。

空海につながる伝統の寺を護持するため、2年半、自分らが汗を流すうち、次代へバトンを継いでいる充実感が生まれたとか。歴史をつくっている一員としての自覚と誇りだろうか。

この経験をヒントに同社側は年間を通じ、寺でコケの植え付けや植樹、除夜の鐘つきなどを担う「復興衆」を募集。参加費用は1人10万円と決して安くはないが、愛知や岡山などから10人ほどが参加している。

最近も法隆寺が境内の整備のためクラウドファンディングで寄付を募ったところ、目標を大幅に超える1億5千万円超が集まった。何か寺の役に立ちたいと思う人は少なくない。

「そうだ 京都、行こう。」は来年で30年となる。「求められるお寺とはどんなものか。考え続けたい」。住職と大江さんの言葉には、コロナ禍後の観光の在りかが隠れていそうだ。

 

 

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