「福祉」訴えるイタリアの極右

 

 

7月23日と24日、地中海でおんぼろ船から救出される移民の数が急増した。イタリア政局の混乱に呼応しているかのようだった。同国南部ランペドゥーサ島にある移民受け入れ施設には、2000人余りが殺到した。

メローニ党首が率いる極右「イタリアの同胞」が9月に総選挙を控える中で台頭しつつある=ロイター

その2日前、マッタレッラ大統領はドラギ首相の辞任を受けて、9月25日に総選挙が実施されると発表した。今よりもはるかに大きな危機下にあった2014〜16年と同様に、移民数の増加はイタリアの極右勢力にとっては好都合だ。

18年の前回総選挙では、移民の無秩序な流入を懸念する声を追い風に、極右政党「同盟」(旧・北部同盟)が左派「五つ星運動」のジュニア(格下)パートナーとして連立政権入りするのに十分な票を獲得した。

五つ星は同盟のブレーキ役を果たしたが、ポピュリズム(大衆迎合主義)を掲げる2つの政党は欧州全体に不安を巻き起こし、欧州連合(EU)の欧州委員会と何度も衝突した。当時は同盟と、同じく極右の「イタリアの同胞(FDI)」を合わせた得票率が22%に満たなかった。

 

支持率伸ばす「イタリアの同胞」

それから約5年で状況は様変わりしている。同盟は支持を大きく失ったが、女性のメローニ党首が率いるFDIは人気が急上昇している。世論調査では2党の支持率が約37%に達している。

これに、ベルルスコーニ元首相率いる中道右派「フォルツァ・イタリア」と一部の小政党の支持率を合わせた8〜9%が加わり、右派勢力は圧倒的勝利を収めるとみられている。おそらく議会の過半数を確保し、5年間の任期を通じて政権運営を担う可能性が高い。

右派はFDIを中心にイデオロギーで結束し、最もリベラルな要素は排除されることになるだろう。崩壊した前政権の閣僚3人を含むフォルツァ・イタリアの議員数人は7月、ベルルスコーニ氏がドラギ氏を辞任に追い込んだことに抗議して離党した。

一方、右派の対抗勢力は喜劇のような迷走ぶりだ。中道左派「民主党」を率いる元首相のレッタ党首は、同じくドラギ氏を失脚させたという理由で五つ星との選挙協力を撤回した。

フォルツァ・イタリアの離党者数人を取り込んだ中道派政党「アツィオーネ」のカレンダ党首は、民主党との協力に前向きのようだが、首相候補として擁立したいのはレッタ氏ではなくドラギ氏だ(編集注、アツィオーネは民主党との協力を解消した)。左派の小政党2党は、カレンダ氏が加わる政治勢力への参加を拒否している。

19年に民主党を離党して新党「イタリア・ビバ」を立ち上げたレンツィ元首相は、単独で選挙戦に挑むことを表明している。

投票前に多くの変化が起きる可能性もある。ドラギ氏が首相の座を追われて以来、民主党の支持率は急速に伸びているようだ。

 

EU復興基金の確保に課題

歌手のエロディ・ディ・パトリツィさんなどの著名人は、メローニ氏の率いる政権が発足する可能性に警戒感を示している。選挙戦が進むにつれて、FDIの急進主義がどの程度のものなのかが中心的な争点になるとみられる。

これには2つの部分がある。一つは、EUの新型コロナウイルスからの復興計画からイタリアに割り当てられる2000億ユーロ(約27兆円)超の補助金と低利融資を極右政権が全額確保できるかどうかだ。

復興計画の実施状況を調査するシンクタンク「ビジョン」のディレクター、フランチェスコ・グリーロ氏は「これまでに達成されたのは簡単な部分」だと指摘する。

ドラギ政権が達成したEUの定めた96の目標のうち、3つ以外はすべて、投資のための行政側の枠組み構築を伴うことが調査で分かったという。

実際に投じられた額は200万〜300万ユーロにすぎず、総額の0.0015%に満たない。年間150億ユーロ程度の資本投資に慣れきった政府は、26年までにこれをほぼ500億ユーロに引き上げねばならなくなる。「スーパーマリオ」と呼ばれたドラギ氏でさえ、これは難しかったであろう。

危険なのは、後任の首相が変革を主張し、この課題をさらに複雑にしてしまうことだ。ドラギ氏の辞任表明以降、メローニ氏はEUと合意した計画の一部に不満を表明している。

FDIとしての方針は、党のサイトに目立つよう掲載された電子パンフレットに示されている。その内容はこれまでの計画とは大きく異なる。例えば、FDIは南部シチリア島と本土を結ぶ橋の建設に資金の大部分を充てたい考えだ。

選挙戦を特徴づけるもう一つの問題はイデオロギーだ。FDIは、第2次世界大戦後にムッソリーニのレガシー(遺産)を受け継いだネオファシズムの流れをくむ。

英監視機関「急進右派分析センター」のバレリオ・アルフォンソ・ブルーノ氏は、FDIが外交政策において他の保守政党と大きく異なることはないとみている。

しかし、経済政策に関する考え方は、保護主義と社会集団の有機的な関連と協調を重視するコーポラティズム(協調主義)の色合いが極めて濃い。FDIは空港や鉄道など幅広い産業の国有化を支持している。また、大企業の育成よりも小規模企業の保護に重点を置く。

 

強烈な移民排斥主義も

ただ、FDIのイデオロギーを最も強く感じられるのは、国内政策と社会政策においてだ。メローニ氏の伝記を執筆したフランチェスコ・ジュビレイ氏は、欧州議会の保守系会派「欧州保守改革(ECR)」にFDIが加わったことが転換点になったと指摘する。

党として「英語圏の社会よりも福祉国家への愛着がより強い保守主義」に転向したと同氏はみている。こうした国家統制主義的なアプローチは昨今、ハンガリーのオルバン首相率いる「フィデス・ハンガリー市民連盟」のように、ポピュリズムやナショナリズムを掲げる政党によくみられる。

ECRにはキリスト教民主主義政党だけでなく、スペインの「ボックス」などの極右政党も含まれる。FDIの電子パンフレットには、イタリア国旗に包まれた白人の若者の写真が掲載されており、強烈な移民排斥主義を映し出している。

FDIは、移民を両親に持つイタリア生まれの子どもに市民権を与えることに反対している。また、極めて低いイタリアの出生率を高めるために育児支援を大幅に拡充し、海上封鎖によって不法移民の流入を阻止することを望んでいる。

メローニ氏が自身の運動方針を広くアピールすることで、「FDIの源流である『(今は存在しないネオファシスト政党)イタリア社会運動(MSI)』に依然として忠実な、より閉鎖的な要素」は見えにくくなるとブルーノ氏は分析する。

FDIは、MSIのシンボルである3色の炎のロゴを今も使用している。「それはなぜか。穏健派の政党がそんなロゴを残したいと思うだろうか」とブルーノ氏は問いかける。

欧州はまもなくその答えを知ることになるかもしれない。

 

 

多様な観点からニュースを考える

吉田徹

同志社大学政策学部 教授

ひとこと解説 ドイツと異なり、イタリアではファシズムの政治的正当性が戦後も残存したこともあり、ファシズムを名乗った「MSI」の後継政党「イタリアの同胞」のような右派勢力に対する忌避感は少ない。他方で、2000年代以降の極右勢力は「福祉排外主義」と呼ばれる、福祉国家擁護の路線を掲げたことで支持を集める方程式を発見した。移民が社会保障の負担となっていると主張することで、生活苦にある庶民からの支持を得て、これが北欧やフランスでの極右勢力台頭の要因ともなった。福祉国家の完成は、20世紀後半からのナショナルな意識形成の大きな要素となってきた。その事実に寄りかかるナショナリズムは、意外と手ごわいかもしれない。

 

 

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