20代社員とどう向き合う まずは言い分聞き、指導を

 

 

By Pilita Clark

 

米メタ(旧フェイスブック)のザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)が6月末、オンラインで開かれた従業員との質疑応答集会に参加した。筆者としてはぜひ、その様子を見てみたかった。

イラスト Kenneth Andersson/Financial Times

具体的には、シカゴ在住のゲイリーという名前の従業員が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中にメタが導入した追加の有給休暇制度を2023年も続けるのかと質問した際のザッカーバーグ氏の顔を見たかったという意味だ。

 

「会社にいるべきでない人が相当いる」とも発言

米ネットメディア、ザ・バージが報じたところによると、ザッカーバーグ氏はこの質問に「目に見えていら立った」表情をしたという。

質問は、同氏が景気はこの先失速すると思われ、競合である中国系の動画投稿サービス大手「ティックトック」の台頭が脅威となっており、メタとしては採用を一部、凍結せざるをえない事態にあると説明した直後に出てきた。

したがって、ゲイリー氏にとっては残念だが、追加の有給休暇はなくなるし、従業員をちやほやする時代も終わったということだ。同社で働くならもっと一生懸命働かなければならないということで、ザッカーバーグ氏は追加休暇がなくなるなら辞めるとしても痛くもかゆくもないと発言。「本当のことを言うと、この会社にはおそらくいるべきでない人が相当数いる」とも語った。

筆者はゲイリー氏が何歳なのか知るよしもないが、メタの従業員の平均年齢が28歳前後で推移してきたことを考えると、彼が1969年の人類初の月面着陸の時に既に生まれていたとは思えない。また、部下を抱える管理職で今、この記事を読んでいる多くの読者は、ザッカーバーグ氏の発言内容に同意するだろう。

働き方がコロナ禍前の通常の形に戻るに従い、筆者は甘やかされて育ち、責任感が薄く、何事にも無関心になりがちな20代の部下について、数えきれないほどの不平不満を多くの管理職の人から聞いてきた。その多くは30代後半から40代のマネジャーだ。

どんな不満なのか、いくつか紹介しよう。

 

「顧客との会議のための海外出張は嫌だ」

ある投資会社の幹部は若い従業員に顧客が来社する時は出社しているべきだと伝えたところ、指摘はありがたいが自分はこのまま在宅勤務を続ける方がよいという返答が返ってきて困惑したという。

別のテレビ局の幹部は若いスタッフに、本社から離れて長時間の撮影をしなければならない場合は勤務時間を短縮してほしいと言われたという。

また、あるコンサルタントは若い部下に、顧客との会議や打ち合わせのために海外出張をするのはもう嫌だと言われたという。そんな打ち合わせはオンラインでできると言うのだ。あるフィナンシャルアドバイザーは、重要なオンラインで開かれた社内会議に参加はしたが、自分の顔を映し出すカメラをオフにしたまま一言も発言しない若い世代に腹を立てていた。

これらは単に聞いた話にすぎない。筆者が知る最もよく働く人々の中には30歳未満の人もいるし、世の中には「若い世代は甘い連中が多い」という根拠のない思い込みが結構ある。

 

若い世代への不満はソクラテスの時代から

昨年、「Generations(世代)」という素晴らしい著書を出した英ロンドン大学キングス・カレッジのボビー・ダフィー教授は、若い世代に不満を抱くというのは古代ギリシャ時代に遡ると指摘する。ソクラテスも若者が権威を軽視したり態度が悪かったり、欲深かったりするのを嘆いていたという。

ただ、最近、若者に対する不満があまりにも多く、かつその不満には共通点があることから、何か新たな要因が浮上しているのではないかとも考えたりする。

世代についての研究者で、20代の若者の採用の仕方や管理の方法を企業に助言しているエリザ・フィルビー博士も別の要因が関係しているとみている。

フィルビー氏は筆者の取材に対し、コロナ禍によって20代と30代や40代との考え方やものの見方の違いが一段と顕著になったと指摘した。特に働き過ぎだったり、働き過ぎて燃え尽き症候群みたいになっていたりする30代、40代を見て彼らは違和感を感じている、と。

これら年上の上司は2008年の世界金融危機で非常に不確実になった時代を生き抜き、コロナ禍をも乗り越えてきたにもかかわらず、いまだに金銭面で親に頼っている人が少なくない。

そうした状況をみれば、若い世代が上司に対し「なぜそんなに一生懸命働くのか。それだけ働いて、一体何を手に入れることができたのか」という疑問を持っても不思議ではないともフィルビー氏は指摘した。

また、若い社員はソーシャルメディア上に様々な投稿が尽きることなく上がるおかげで、自分の仕事やその報酬が他の人と比べてどうなのか、世間ではどんな募集が出ているのかを常に把握している。

彼らは、いざとなれば英ディポップのようなフリマアプリを使ってお金を稼げばいいという考え方で育ってきた世代だ。10代だった頃は学校での競争がその前の時代よりも厳しくなっていたこともあり、上司の世代がその年齢だった頃にやっていたアルバイトの経験も少ない。

こうして過保護に育てられてきた若者の多くは、正規の仕事に就けることが(アルバイトでするような)ビールを運ぶ仕事よりどれだけましかをほぼ知らずに最初に就職した職場にやって来る。そしてその仕事を続けていれば人生に必要な資金をすべて稼げるとも信じていない。

 

野心ある勤勉な若者にとっては絶好の時代

では、若者にどう対応すべきなのか。フィルビー氏はこう助言する。まず20代の若者の言い分をよく聞いて、質の高い訓練を与えよ。しかし、いかなる状況でも彼らの気まぐれな要求をいちいち聞き入れてはならない。なぜなら「彼らの生活まで支援するのが会社の役割ではないからだ」。

筆者も同感だ。一方、今は若くて野心のある勤勉な従業員にとっては、かつてない絶好の時代ともいえる。大いに満足できる仕事を見つけるのは容易なことではない。だが、もし見つけることができれば、周りはやる気のない同世代ばかりという可能性が高いだけに成功をつかめるチャンスは大きいからだ。

 

 

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