スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟へ 

 

「中立」「非同盟」からの脱却へ

 

 

 長く軍事的中立を守ってきたスウェーデンとフィンランド。なぜNATOに加盟するのか。北欧を中心とした欧州国際政治が専門の大島美穂・津田塾大学総合政策学部教授に聞いた。AERA 2022年8月8日号の記事を紹介する。

ウクライナ国旗が掲げられたフィンランドのヘルシンキ中央駅

 

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――北欧のスウェーデンとフィンランドが北大西洋条約機構(NATO)加盟全30カ国による同意手続きを経て加盟することになる。

 きっかけはロシアのウクライナ侵攻で、2国は5月18日にNATO加盟を申請。トルコのエルドアン大統領が加盟国で唯一、難色を示していたが、NATO首脳会議当日の6月28日にスウェーデンのアンデション首相、フィンランドのニーニスト大統領、ストルテンベルグNATO事務総長と会談し、トルコの武器売却制限の撤廃とその「テロとの戦い」への協力を条件に加盟に合意した。

津田塾大学の大島美穂教授へのインタビューは、2国が中立を保ってきた背景から始まった。

大島美穂教授(以下、大島教授):「スウェーデンは1796年から1815年の『ナポレオン戦争』以降、200年近く『中立』『非同盟』を掲げてきました。東にフィンランド、西にノルウェー、南にデンマークと『緩衝地帯』に囲まれ、過去に何度もロシアとも戦争をしていますが、戦場はフィンランドやバルト海など。北欧の中で最も中立を守りやすい場所でした」

■第2次大戦でも中立

「北欧諸国は欧州の『周辺』に位置することで戦争から自国を遠ざけ、そのことで利益を得る孤立的中立で20世紀初頭まで中立を守りました。特にスウェーデンは第2次世界大戦でも北欧で唯一中立を守り、戦渦を免れた結果、米国と並んで戦後の経済的繁栄を享受しました。利益が福祉政策の充実という形で国民に還元されていますし、中立は同国の国是とも言うべきものでした」

「フィンランドは1917年にロシアから独立しましたが、第2次世界大戦期にロシアと2回、大きな戦争をしています。その中ではカレリア地峡(ロシア西北部)を求めて大国ロシアに戦争をしかけるという、パワーポリティクスからすると無謀なナショナリズムの高揚も経験しました。その反省もあり、大戦後のフィンランドは『大国との関係をうまくやっていくことが、自分たちの平和につながる』という現実主義的な外交姿勢に転換していきます」

――では、なぜ中立政策を破棄してまで加盟するのか。NATOのジョアナ事務次長は6月、「(2国にとって)ロシアが差し迫った軍事的脅威になっているとは考えていない」と述べている。ウクライナと異なり、ロシアとは民族も違う。それでも、自分たちも「侵略される危機感」があるのだろうか。

大島教授:「あると思います。侵略の理由づけなら『民族』以外にも可能です。実際に北欧諸国は近年、ロシアによる他国への侵攻などがあるたびに、自国への侵攻を想定しながら軍事的な役割分担や防衛協力関係の整備を進め、2020年ごろからは特に強化してきていました」

■「中立政策でいいのか」

大島教授:「NATOとの連携も、今回の加盟申請が青天のへきれきだったわけではありません。東側諸国が次々に欧州連合(EU)、NATOに加盟していくことにロシアが態度を硬化させていく中で、2国ともに『中立政策でいいのか』との声が出てきていたことも事実。NATOとの間で軍事力の相互運用性の整備は着々と進んでいました。また、ロシアがカリーニングラード(バルト海に面し、リトアニアとポーランドにはさまれたロシアの飛び地)などでの軍備増強を進めるバルト海の状況を考えると、NATOとの間で積み上げてきていたものを、『北欧各国がつながってNATOとして存在する』ことで即効性があるものにしておくことが重要と考えていると思います」

――一方で、NATOにとってはフィンランド、スウェーデン両国が中立のまま、ロシアを刺激しない「緩衝地帯」として存在してくれたほうがいいという面はなかったのだろうか。

大島教授:「バルト海周辺の事情を考えたときに、バルト3国から『NATOとロシアの国境線』がさらに北に広がることは、有事に北側からロシアを攻めることができるなど、戦略的に多様な選択肢が広がる。NATOにとって非常に重要なことでしょう」

「米国にとって大きいのは、ロシアのコラ半島(同国北西部、北極地方の半島)の存在。ロシアの原子力潜水艦の集積基地です。私たちが地図で見ると、コラ半島から米国は大西洋を挟んで遠いと思いがちですが、地球儀で北極側から見ると『米国への最短距離』であることがわかります。北極海は米国の大陸間弾道ミサイルの目的地でもあり、米ソ対立のホットな地域であることは今も変わっていません。コラ半島と国境を接するのはノルウェーですが、フィンランド、スウェーデンもすべてNATOという状況になれば、コラ半島を押さえる意味で米国にとっても意味があるでしょう」

 

 

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