東洋経済

 

ネット時代、「新聞」はどう読むのが、効果的なのか

 

知るべき「3つの大前提」と「読む秘訣」は?

 

 

佐々木 俊尚 : 作家・ジャーナリスト

 

テクノロジー、政治、経済、社会、ライフスタイルなど幅広い分野の情報を発信し、日本のインターネット論壇で注目を集める佐々木俊尚氏。
「ノマドワーキング」「キュレーション」などの言葉を広めたことでも知られ、2006年には国内の著名なブロガーを選出する「アルファブロガー・アワード」も受賞している。

その佐々木氏が、このたび、『現代病「集中できない」を知力に変える?読む力?最新スキル大全』を上梓した。

「ネット記事」「SNS」「書籍」などから、「読むべき」記事をいかに収集し、情報を整理し、発信していくか、自身が日々実践している「新しい時代の読み方」の全ノウハウを初めて公開した1冊で、発売後たちまち4万部を超えるベストセラーになっている。

そんな佐々木氏が「ネット情報時代に『新聞』を効率的に読む方法」について解説する。

 

かつては新聞の情報を信頼していればよかった

わたしが新聞記者をしていたころはインターネットという「もうひとつのマスメディア」が存在せず、新聞やテレビがニュースの情報源を独占していた。

当時は「新聞の情報を信頼していればよかった」のだ。いきなりそんなことを言うと、「佐々木は何を言っているんだ、新聞が信頼できるなんて嘘だ」と反発する人もいるかもしれないが、少し待ってほしい。

わたしは「新聞が信頼できた」とはひとことも言っていない。「信頼していればよかった」と書いているだけである。

インターネットがなかった時代は、彼らが誤ったことを書いても、その誤りを知る機会を国民が持つことがあまりなかったのだ。

なかには気骨のある雑誌もあり、マスメディア批判をおこなっていたが、そういう雑誌はたいてい裏通り扱いで、多くの人の目に触れることはなかった。街の目ぬき通りは新聞とテレビに占拠されていたのだ。

当時一般人は、新聞を通じて受け取った情報を、とりあえずは信頼するしかなかったのである。

しかしネット時代になって、その偏りや知識の不足が指摘されるようになり、新聞は非常に焦っている。新聞の発行部数は激減し、わたしも紙の新聞は一紙もとらなくなった。

とはいっても、新聞にも「使いよう」はある。現にわたしもうまく使っている。そこで今回は、ネット情報時代の「新聞を有効活用する方法」を、「知っておくべき3つの大前提」と「1つの読み方」に分けて紹介する。

まず「知るべき大前提」の1つめは、新聞は「必ずしも公平ではない」ということである。新聞が公平なのは分野だけということを知っておかなければならない。

 

【大前提1】新聞が公平なのは「分野」だけである

新聞は知ってのとおり、30ページほどのコンパクトな容量の中に、政治から社会、経済、文化、スポーツにエンタメまであらゆる分野のニュースが詰め込まれていて、広く知見を高められるようにつくられている。

ページをめくっていけば、政治面・経済面・文化面・スポーツ面とあって、それらはたしかにフラットに公平に提供されている。しかし、それぞれのジャンル単体に目を向けると、いまの新聞はとても公平とは言いがたいのだ。

新聞のプロパガンダにだまされてはいけない。新聞がフラットで公平なのは「分野」だけだと考えたほうが賢明である。

 

「高齢者に忖度する記事」が増えている

ネットが台頭し若者が紙媒体を読まなくなったいま、結果的に新聞の定期購読者はネットが使えない70代・80代の高齢者がメインになっていった。

新聞社も「高齢者が喜ぶ記事」を増やしている印象で、それによってますます若者が離れ、「負のスパイラル」に入っているように思えてならない。

いまの新聞には年金問題や社会保障費増大に関する記事はあまり見かけない。「高齢者に都合の悪い情報」はあまり載らないからだ。

また、新聞のウェブ版は、残念ながらウェブになったからといって、紙の新聞に書かれている内容から大きく変わることはない。ウェブ版は有料課金であることが多く、そこもハードルとなってシェアもされにくい。インターネットの世界での存在感もどんどん弱まっている。

例外は『日本経済新聞』である。高齢者への忖度はなく、現役世代のビジネスマン向けに書かれている。あくまで私の個人的な印象であるが、まっとうな記事が多い。

また、日本の新聞は内政に関してはいい加減な記事が少なくないが、外政はわりとまともでよい記事がある。今回のウクライナ情勢に関して言うと、『朝日新聞』の記事は個人的には結構評価が高い。

ただし、そうした優良な情報は10本中1本、2本あるかないかではある。

「2つめの大前提」は、新聞の発行部数が減った影響で「各新聞社は社会的な立ち位置を明確にせざるを得なくなった」ことである。正しい情報を得るためにも知っておいてほしいことだ。

 

【大前提2】各紙の「政治的立ち位置」は、左右が明確になった

たとえば経済で考えてみよう。

ネット上では2010年代以降、大胆な金融緩和と財政出動を求める「反緊縮派」と呼ばれる経済学者を中心とした人々と、過大な財政出動は国の財政赤字を増やしてしまう危険があると主張する「緊縮派」のあいだで、熱い議論が闘わされている。

しかし、たとえば『朝日新聞』などの記事には「反緊縮派」の主張が紹介されることは比較的少ない。また新聞社の専門記者自身の意見も「緊縮派」に寄っていることが多い。

この背景はいろいろ取り沙汰されているが、新聞社のニュースソースが主に霞が関の官僚であり、「緊縮派」の牙城である財務省の影響を新聞社が大きく受けていることが指摘されている。

政治に関する記事も、問題が少なくない。1990年代末、世紀が変わるころまでは、どの新聞社も比較的に不偏不党で、政治には中立的だった。

しかし、21世紀になってインターネットの影響力が強まり、新聞の部数が激減して構造不況になっていくなかで、各紙の政治的立ち位置は、逆に左右に明確になってきてしまった。

東京新聞』は、以前は都会的でわりに気楽で、中庸的な印象の新聞だったが、いまは左派的な立ち位置を非常に強くしている印象を受ける。

産経新聞』は、以前から保守系の新聞だったが、最近はますます右派の色が濃くなり、『東京新聞』やその記者を紙面で公然と非難したりしている。

新聞は「有料デジタル版」を定期購読

わたし自身についていえば、一般紙にはまったくお金を払っていないが、先ほども紹介した『日本経済新聞』と『ウォール・ストリート・ジャーナル』はウェブで定期購読している。

経済という非常に幅広く、さらに深い知識も同時に必要とされる分野の知見を得るためには、この2紙はとても価値が高いのだ。

「3つめの大前提」は、新聞記事を読むには「政治的意図や、背景を知る能力が必要になった」ということである。まずは各新聞社の立ち位置を把握してほしい。

 

【大前提3】「背景を読み解く力」が必要になった

新聞社がこのような構図になってきているので、ある新聞が何かの「問題」や「事柄」を取り上げて記事にしていても、以前のように真に受けるわけにはいかなくなってしまった。

「この記事には、何かの政治的意図があるのではないか」「この記事は意図的に、全体の一部だけを切り取ってきているのではないか」と、まず疑ってかかってから読まないといけない。これは面倒だし、そもそもの「公正で中立な報道機関」という前提をすでになくしてしまった。

もちろん新聞には、いまでも重要なスクープや分析が掲載されているがそれらの背景を読み解く能力なしでは読んではならないものになってしまったのだ。

 

「苦手な分野を知る足がかり」」に新聞は最適

では、これらの「3つの大前提」を踏まえたうえで、どのように新聞を使うのが効果的なのか。

【読む秘訣】自分があまり詳しくない分野のとっかかりにする

「私のおすすめは、「苦手な分野を知る足がかりとして使う」ことだ。

新聞は、世の中で起こるたいていの出来事を網羅している。とくに自分があまり詳しくない分野について、新聞をうまく活用したい。

自分が詳しい分野だったら、ウェブの専門メディアやブログなどで日々チェックできるから、新聞に頼らなくても情報は入ってくる。しかし、自分が詳しくない分野の情報はこぼれ落ちてしまいがちになる。そういうときに新聞は使える。「情報の足がかり」として新聞をうまく使うのが効果的だ。

インターネットが普及しはじめたころ、「ネットはタコツボ化しやすい」とよく言われていた。

新聞を開けば興味のないニュースも目に入ってくるが、ネットだと自分の興味のある情報しか読みにいかない。まるでタコツボにハマったタコのように、ネットユーザーは狭いところしか見なくなると皮肉ったのだ。

このタコツボ論は半分正しくて、半分間違っている。たしかに興味のない情報を読みにいかなくなる問題はある。しかしだからといって、新聞の記事だけを読んでいるとどうなるか。

新聞記事には表面的な記事も多く、専門家が読んだら「えええ?」と首をかしげたくなるようなものが少なくない。だから薄っぺらく、時に間違った知識が入ってしまうことになる危険性があることも、新聞を読むうえでは注意しなければならない。

 

世の中を知る「入り口」に新聞は有効

つまり、「情報のタコツボ化」を避けるためには、表面的な新聞の情報と、もっと濃くて深いウェブの情報の両方を「いいとこどり」すればいいということになる。

世の中を知る「入り口」に、新聞は向いているのだ。新聞の見出しを斜め読みにして、ざっとチェックしておけば、興味がなくてこぼれ落ちてしまう情報も目に入ってくる。

そして世の中でいま起きていることがざっとわかったら、それぞれの出来事についてさらに深く掘り込んでいくためには「別の情報」を探そう。その方法は『読む力 最新スキル大全』でも詳しく解説している。

ぜひみなさんも「新聞の読み方の最新スキル」を身につけて、幅広い分野の情報を集めて「知力」に変えていってほしい。

 

 

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