グローバルオピニオン

 

中国はこれからも強いのか 

 

イアン・ブレマー氏  米ユーラシア・グループ社長

Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。52歳。ツイッター@ianbremmer

 

中国は今後10年でさらに強くなるだろうか、それとも弱くなるだろうか。中国の経済力や国際政治での影響力、増強しつつある軍事力をみると、繁栄かつ安定した未来は、中国の巨大な経済力と優れた技術力のどちらが重要になるかにより決まるだろう。経済の先行きには陰りが見えるが、新興テクノロジー超大国としての地位の方が重要になるかもしれない。

中国の大国への台頭は、国内だけでなく世界全体でかつてないほど多くの人に新たな機会をもたらし、国内外で中間層を生み出した。土台になったのは中国の2つの強みだった。1つ目は中国が数十年前、史上最大規模の低賃金の労働力という恩恵を享受できたことだ。2つ目は低賃金に促され、先進国の製造業がコスト削減と利益増のために中国に生産拠点をこぞって「移転」したことだった。

だが今や、2つの強みは失われた。中国人労働者のスキル向上に伴い賃金が急上昇し、より発展途上の国が中国の工場にはないほどの低賃金を提供できるようになった。さらに「一人っ子政策」で長期間、人口の伸びが抑えられた結果、労働供給量が相対的に減り、賃金に一段の上昇圧力がかかっている。世界経済はサービス貿易の比重が増し、工場労働の需要が減っている。そして米国など各国の政府や民間企業は中国に移した製造業の雇用を「回帰」させるよう求める政治的圧力を受けている。

こうした理由から中国の台頭はついに頭打ちになった可能性がある。多くの新興国は「中所得国の罠(わな)」に陥るとエコノミストは指摘する。経済成長を手柄としてきた支配政党は危険な状況に陥る。国民の期待をよそに成長が頭打ちでも非を認めないからだ。

中国は巨額の公的債務、特に中国企業の債務問題も抱えている。政府は何年もの間、多くの雇用と国内銀行の支払い能力を維持するため、各分野の最大手企業をデフォルト(債務不履行)から救ってきた。借り手も貸し手も救済してもらえると高をくくるようになり、問題がさらに悪化している。解決には経済の痛みに耐える必要がある。だが、新型コロナウイルスや、ウクライナ侵攻によるエネルギーや食料の価格の上昇で、市民の忍耐は既に限界に達している。

それでも中国は急成長しつつある技術力のおかげで、経済の脆弱性のダメージを一定程度に抑えられるだろう。ここ10年、独裁国家や巨大テック企業が、膨大なデータを収集し、私たちがどんな人物で何を欲しがり、それを手にするのにどう行動するかを熟知する「データ革命」に移行している。

中国はこの分野で圧倒的な強みを誇る。中国企業は電子商取引(EC)だけでなく顔認証や音声認証も急速に高度化し、独裁国家が権力の集中が制限される政治制度よりもはるかに円滑に技術を開発できるという強みを示した。

もっとも、最大の強みは国家が国内テック企業に政治的に有用な製品の開発を命じ、巨額の資金を投じて活動をとりまとめ、監視技術を他国に売って国際社会での影響力を拡大できる点だ。自国やほかの独裁国家、民主主義国もこうした製品を購入するだろう。

中国の未来を決めるのに、もう一つ重要なのは、欧米や日本が中国の次の段階にどう対処するかというさらに難しい問題だ。ウクライナ侵攻で、欧米は今のところ冷戦終結後で最も固く結束している。一方で中国はロシアへの支援を限定的ながらも続けており、西側諸国は中国の外交政策の意図に根深い疑念を抱いている。

グローバル経済での中国の重要性を考えると、中国の脆弱性が今後も世界のアキレスけんになるのは明らかだ。中国と西側諸国の指導者が、この点を肝に銘じながら変わる関係に対応できるかが、何よりも重要な問題になるだろう。

 

米国、AIに自信を

米国は人工知能(AI)技術で中国に圧倒的優位に立たれる恐怖に取りつかれているようだ。議会が設置した特別委員会は昨年、このままだと10年以内に中国のAI技術力が国家安全保障上の大きな脅威になると警告した。

確かに人権保護の制約がない中国では米国をはるかに上回るデータを収集できる。だが、それだけでAIの総合力は決まらない。

AI技術は、読み込ませたデータから得られる経験則に基づき診断や予測を導く「機械学習」だけにとどまらない。人類の「知識」や「常識」をプログラムに織り込んでおく「ルールベースAI」という方法論もある。世界の先端研究者たちは両者の良さを融合したAIの確立を急いでいる。

現在、中国が全土に構築しているAI監視システムには個人の尊厳に関わる「ルール」も「常識」もない。欧州や日米が導入しつつあるAI利用の倫理規定にも完全に違反する。それでは民生市場で競争できないし、人類の科学技術のリーダーたりえない。米国はもう少し自信を持ってよい。

 

 

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