ジョブ型雇用や要職立候補制も急ピッチで拡充

 

富士通「幹部3000人の希望退職」に映る覚悟と焦り

 

山田 泰弘:東洋経済 記者

 

本体と国内グループ会社で募集した早期退職に幹部社員3031人が応募。「過去の人員整理と根本的に違う」という大胆施策をバネに、何を目指すのか。

「DX(デジタルトランスフォーメーション)企業へのシフト」というゴールに近づけるか。ITサービス国内首位の富士通が、幹部社員の”入れ替え”を急ピッチで進めている。

同社は3月8日、本体と国内グループ会社で募集していた早期退職に、主に50歳以上の幹部社員3031人の応募があったと発表した。退職金の積み増し分や再就職支援にかかる費用650億円を計上するため、2022年3月期の営業利益予想を下方修正。過去最高益の計画が一転、営業減益となる。

富士通のグループ従業員数は、グローバルで約13万人、国内で約8万人だ。今回の希望退職で会社を去る人数は、国内従業員の4%弱に当たる。

2019年3月期にも大規模な早期退職を実施し、45歳以上で総務や人事などの間接部門、支援部門の一般社員と幹部社員2850人が退職したが、今回はそれを上回る規模だ。

 

過去の人員整理と根本的に違う

同社には従前から「セルフ・プロデュース支援制度」という、早期退職支援にあたる仕組みが存在する。それでも今回、同制度を一時的に広げる形で大規模な早期退職を実施したのには、成長事業を牽引できる人材の登用という狙いがある。

1月の決算説明会で磯部武司CFO(最高財務責任者)は、「富士通が自らのDX、事業モデルやプロセスの変革を進める中で、人材配置をタイムリーに実施していく必要がある」と説明。今回の早期退職は「過去にやってきた事業撤退に伴う人員整理的なものと、根本的に趣旨が異なる」と強調した。

2019年に就任した時田髏m社長のもと、「IT企業からDX企業へ」を旗印に変革を進める富士通。従来の”御用聞き”的なシステム構築や機器販売から脱却し、コンサルティングを起点に顧客企業のDXや事業構想のパートナーを担う収益性の高いサービスへと軸足を移そうとしている。

 

体制を整えるため、全社的な人事制度改革や人材配置の最適化を急いでいる。制度面ではまず、ジョブ型雇用への移行を推進。以前から導入する海外に続き、国内でも2020年4月から課長以上の幹部社員1万5000人に導入した。

ジョブ型は年功序列を廃し、職務(ジョブ)の範囲を明確化しつつ最適な能力の人材を起用する、いわば「適所適材」を目指す雇用方式だ。幹部社員に続き、今後は国内の一般社員6万5000人にもジョブ型の対象を広げる予定だ。

加えて、公募の役職(ポスト)に社員自ら立候補できるポスティング制度も大幅に拡大した。新任の課長についてはすべてポスティングで決めているという。

大和証券の上野真アナリストは「さまざまな部署で中堅幹部のポストが空くので、DXやクラウド、セキュリティーといった成長分野に精通する人材や、若手で能力の高い人材の登用が進むだろう」と指摘する。さらに「幹部の顔ぶれが変われば現場の雰囲気も一新され、収益性や成長性の面で有望なビジネスの加速につながるだろう」と評価する。

 

連続最高益を断念して目指すもの

富士通が手がけるシステム構築や、クラウド化などのDX関連事業に対して、足元の需要はおおむね良好だ。コロナ禍に対応するため、大手を中心に顧客企業はテレワーク環境の導入やシステムのクラウド移行などを急いでおり、それをサポートする富士通のビジネスには追い風が吹いている。

前期の2021年3月期は営業利益が2663億円に達し、過去最高を記録。今期も早期退職に伴う費用計上で下方修正をするまでは連続最高益の見通しだった。

その目先の最高益を断念してまで早期退職に踏み込んだのには、2023年3月期が中期経営計画(3カ年)の最終年度にあたるという事情もありそうだ。「IT企業からDX企業へ」の変革達成を占ううえでも、この計画の達成は1つの重要な布石になる。

同計画では2023年3月期、売上収益全体の8割超を占める事業柱で、システム構築やDX関連を担う「テクノロジーソリューション」事業において、売上収益3兆5000億円、営業利益率10%の達成を目標に掲げている。

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ただこの目標のうち、売上収益については達成が厳しくなっている状況だ。時田社長は2021年12月の東洋経済の取材に対して「半導体不足も影響し、トップライン(売上収益)は思っていた道筋からやや鈍化している」と語った。

磯部CFOも直近の決算説明会で「(営業利益率10%は)ハードルは高いが必ず達成できる」と決意表明した一方、売り上げ目標については「よりハードルが高い」と、慎重な言い回しにとどめた。

時田社長の話すとおり、世界的に広がった半導体不足の影響は甚大だ。

半導体部品を扱う「デバイスソリューション」事業の業績は期初想定を大きく上振れて推移しているものの、それとは対照的に、テクノロジーソリューション事業では一部のサーバーやネットワーク機器の調達に遅れが生じるなど、悪影響が次第に深刻になった。

 

一時的費用は減るものの

2023年3月期はどうか。半導体不足については「上期(2022年4〜9月)は今の水準で影響が続くと想定し、2022年12月あたりから緩やかに改善するとみている」(磯部CFO)。売り上げへのマイナス影響がしばらく続くとの見立てだ。

一方、今回の早期退職には費用の圧縮につながるプラス効果がある。同社の平均年収などから概算して、来期の同事業において約300億円の費用減につながる見通しだ。目下かさんでいる、オフィスの改築・移転費用や社内DXなどの成長投資負担も減る見通しではある。

とはいえ、仮に来期の同事業の売り上げ規模を今期見通しと同水準と想定すると、中期経営計画で示す「10%の営業利益率」の達成には3100億円超の営業利益が必要になる。翻って、今期の同事業の営業利益は、早期退職の影響を除く実力ベースで考えると約2050億円。つまり来期は今期比で1000億円超、50%以上の増益が求められるのだ。

目標達成は一筋縄ではいかなそうだが、全社の営業利益率が15%超の野村総合研究所をはじめ「同業他社ではすでに達成している企業も多い」(大和証券・上野氏)。富士通には、次世代を担う人材の幹部登用を足場に、収益性改善のスピードをもう一段引き上げることが求められている。

 

 

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