未来をひらく私の夢

 

池上彰さん、増田ユリヤさん、パックンの愛称でおなじみのパトリック・ハーランさんが、リーダーとして活動を率いてきた大学生たちと対話しました。その模様を2週にわたって紹介します。第1回のテーマは新年にちなんで「私の2022年の夢」です。(文中敬称略)

増田 昨春以来、大学生の取材を通じて、コロナ禍でも既成概念にとらわれない若者たちの活動を知ることができました。みなさんの活動を教えてください。

中村欧介(立教大学経営学部3年) ゼミの活動で、持ち帰り弁当店を展開する企業のプレナスにアイデアを提案し、弁当が商品化されました。高カロリーで罪悪感すら覚える「ギルティ弁当」が注目されたのです。池袋キャンパス周辺にあるグループ店舗で期間限定販売されました。

前田美樹(津田塾大学総合政策学部3年) キャンパスのある渋谷区千駄ヶ谷で社会連携活動「梅五輪プロジェクト」に取り組みました。東京五輪・パラリンピックに合わせた地域貢献です。たとえば浮世絵や日本茶の文化を発信したり、英語表記の地域案内図を制作したり、学生のアイデアを生かしました。

生川優衣(芝浦工業大学システム理工学部4年) 学生団体「すみだの巣づくりプロジェクト」の活動で、木造密集地が広がる東京都墨田区で災害に強い街づくりを考えました。避難場所を確認する映像の制作や、防災に関する意識調査などをしたのです。人と人とのつながりが大事だと思いました。

大学生は人生の夢や目標を語った(左から中村さん、前田さん、生川さん。立教大池袋キャンパス)=BSテレビ東京提供

増田 22年はどんな夢や目標がありますか。

中村 オンラインで培ったゼミの運営ノウハウやコミュニケーションの経験を後輩に残していきたいです。個人的には4年生になるので、働き方や人生のやりがいを見つめ直して就職活動に臨みたいと考えています。

前田 東京五輪・パラリンピックに備えて、計画してきた活動をすべて実現できたわけではありません。改めて地域貢献の成果や活動の意義を考えながら、私たちの体験を後輩につないでいけたらと思います。

生川 4月に建設コンサルタント会社に就職予定です。愛着の持てる街づくり、公共施設に人の流れを生み出すアイデアをかたちにしていきたいです。後輩たちには「1、2年かけて、自由に好きなことに取り組んでほしい」と伝えたいです。

 

■働くモチベーションになる

パックン 先輩としての責任が伝わってきますね。みなさんにはこれから長い人生がある。人生の夢は何でしょう。

中村 父と会話して気づいたことがあります。仕事は自分のためではなく、人のためにすることが大事だということです。それが働くモチベーションになるのでしょう。そんな人生を送りたいです。

前田 女性として社会でのキャリアを積んでいきたいです。就職を控えて、賃金や昇進など男女の格差を考えるようになりました。30年後、すべての人々が働きやすい社会に変わっていることを願っています。

増田 私は男女雇用機会均等法が施行された1986年に、就職活動をしました。当時に比べれば男性の理解も進み、働く環境は改善されてきたと感じています。

生川 日本は人口減少社会を迎えています。高度経済成長期とは異なる街づくりの視点が欠かせません。IT(情報技術)も活用しながら、どの世代も幸せに暮らせるような街づくりのアイデアを探っていきたいです。

パックン 住民の声を直接聞き、地域防災のあり方を考えた経験は社会に出て役立つでしょう。

チーム池上の講師陣は学生にコロナ禍の活動体験を聞いた(右から池上氏、増田氏、パックン。立教大池袋キャンパス)=BSテレビ東京提供

 

■幸せな人生とは?

増田 学生から人生の先輩に聞きたいことはありませんか。

前田 人生は幸せだと感じますか。

池上 総じてみれば幸せかな。還暦を過ぎたころから、生きてこられたことに感謝するようになりました。

増田 若いころは早く親が亡くなって、「なぜ自分が」と悩んだこともありましたね。でも、多くの人々に助けられ、教えられながら生きてきた。いまは幸せだったと感じる瞬間が増えました。

増田 学生たちにアドバイスはありませんか。

池上 大学時代の貴重な体験の一つは、学問的に物事をとらえることだと思います。活動の成果を経営論や政策論といった学術的な視点でまとめ、後輩に継承してはどうだろう。その体験は働き始めてからヒントになるでしょう。

パックン 若者の夢は仕事や恋愛といった身近なテーマもあるけれど、日本のあるべき姿や社会貢献を意識しながら自らの人生を考えることも大事だと思います。

増田 学生が話す表情を見ていて、人へのまなざしがやさしいと感じました。自らの目標がハッキリしています。まさにコロナ禍で仲間を率いてきた成果でしょう。目標を見失わず、前に進んでほしいと思います。(番組を再構成しました)

 

■講師チームの夢  「海外での取材を再開」

池上 コロナ禍によって2020年の春から全く海外取材ができなくなりました。米大統領選の現地取材ができなかったことはとても残念でした。やっぱり人々の声を直接聞いたり、社会の情勢を確かめたりする取材をしたいですね。

世界情勢は大きく動くでしょう。たとえばドイツではショルツ首相が就任しました。フランスでは大統領選挙があり、米国では連邦議会の中間選挙が控えています。中国やロシアの動きも気になります。一日も早く世界を飛び回りたいですね。

増田 この1年、リモートを使って海外の人々にインタビューをしてきました。これも新しい取材方法なのでしょう。でも、これまでの海外取材の経験を生かしながら理解を深めていくためには、早く現地取材を再開したいと願っています。

私は50代後半を迎えました。会社で働いていたら定年を意識する年齢でしょう。「どんな風に生きていこうか」と、将来を考えることも増えましたが、これまで通り、自分がやってみたいと思えることを精いっぱいやってみたいですね。

パックン 個人的には特別な1年になると感じます。22年は「パックンマックン」のコンビを結成して25年を迎えます。単独ライブのために新しいネタを書いています。芸人としての新しいかたちを生み出し、お笑いの初心に戻ります。

50歳を過ぎたあたりから、離婚や大きな病気をしないなど、人生を守りたい気持ちが強くなっています。これからの芸能活動を考え、発見をしていきたいです。もちろん米国の中間選挙にも興味がありますよ。取材にも行きたいですね。

 

 


 

〈講師略歴〉 

池上彰さん

池上彰(いけがみ・あきら) ジャーナリスト。1950年長野県出身。慶応義塾大学経済学部卒業。NHKの社会部記者として事件・災害・教育取材にかかわった。人気番組「週刊こどもニュース」でお父さん役を11年間担当した。2005年に独立。東京工業大学のほか複数の大学で教壇に立つ。

 

増田ユリヤさん

増田ユリヤ(ますだ・ゆりや) ジャーナリスト。1964年神奈川県出身。国学院大学文学部卒業。私立高校の社会科講師のほか、NHKでリポーターなどを務めた。国内外の政治・教育問題を中心に取材している。新著に「世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ」(ポプラ新書)。

 

パトリック・ハーランさん

Patrick Harlan(パトリック・ハーラン) タレント。1970年米コロラド州出身。米ハーバード大学で比較宗教学を専攻。来日後、97年に吉田眞氏とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成した。テレビの情報番組などのコメンテーターも務める。新著に「逆境力」(SB新書)。

 

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〈お知らせ〉コラム「チーム池上が行く!」はBSテレビ東京の経済報道番組「日経ニュース プラス9」で放映中の同名コーナーとの連携企画です。日本経済新聞社とBSテレビ東京が協力して編集しています。同番組でこれまでに放映した映像は動画配信サービスの「テレ東BIZ」などで視聴できます。

 

 

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