広がる海洋散骨

 

推定年1万件超、旅行会社も参入 配慮不足に懸念も

 

 

神奈川県横須賀市沖で海に散骨し、手を合わせる葬祭業者の渡辺さん(12月)

海で故人を弔う海洋散骨が全国的に広がりを見せている。業界団体によると、年間で1万件超が行われていると推定され、従来の葬祭会社や専門業者のほか、最近は大手旅行会社も参入。厚生労働省の研究会がガイドラインをとりまとめるなど制度の整備が進んでいる。一方で周囲への配慮を欠くような行為への懸念もあり、対応が課題となっている。

12月12日午前、横浜市の横浜ベイサイドマリーナから、埼玉県を中心に葬祭業を手掛ける「セレモニーグループ」の社員らを乗せた小型船が出航した。目的は、60〜90代で亡くなった5人の代行散骨。遺族はいなかった。

約40分後、神奈川県横須賀市の沖合約1キロの目標海域に着くと、担当者の佐野篤史さん(45)はまず、パウダー状に処理された遺骨が入った大学ノートほどの大きさの白い紙袋と故人のネームプレートを並べ、東京湾の入り口に突き出す観音崎を背景に記録用の写真を撮影した。

同僚の渡辺悟さん(53)が「ありがとうございました」と故人に感謝の言葉を伝えながら紙袋を海に投じると、小さな音を立てて群青色の海に吸い込まれていった。同じように他の4袋も写真撮影と弔いを済ませ、最後は花びらを海面に散らし、鐘を鳴らすと、小型船は辺りを周回して帰途に就いた。

同グループによる海洋散骨は家族が乗船して自ら遺骨を海に投じるほか、担当者による代行を選ぶこともできる。料金は粉骨代を含めて代行が9万9千円で、同行は16万5千円から人数に応じて増額する。

ここ数年は家族の乗船が増えているが、新型コロナウイルスの感染拡大で一度に乗船させる客数を通常時の半数程度の5、6人に抑えている。佐野さんは「行きはお客さまも神妙な顔つきで言葉数が少ないですが、帰りはほっとされているようです」と話す。

少子化の影響で墓参りする人の減少や子どもや孫らに負担をかけたくないといった理由から、墓じまいを求める例が増えていることに加え、テレビの情報番組などで海洋散骨の実態が紹介されて認知度が上がった。

2020年12月には旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)が東京湾や相模湾に加え、ハワイでも可能とするプランの提供を開始。同社は「新型コロナが落ち着き、海外渡航者が増えた際は他社が取り扱っていない国での展開も考えている」としている。和歌山県美浜町では19年11月から、町の沖合での散骨サービスをふるさと納税の返礼品にしている。

こうした中、厚労省の研究会は21年3月、散骨による周辺環境への配慮を念頭に「海岸から一定の距離以上離れる」「焼骨は粉状に砕く」などと定めたガイドラインを策定。乗船する遺族らのため、ライフジャケットの準備など安全措置を講じることも求めて関係先に通知された。

ただガイドラインに法的拘束力はなく、一般の人の心情や日常生活への配慮を欠く行為や、船の事故なども懸念される。研究会の代表を務めた日本環境斎苑協会の喜多村悦史理事は、散骨を墓地埋葬法に盛り込む必要性があるとし「許可制にし、変なことをすれば取り消せばいい。葬送にはおのずから倫理がある。一般の人が納得できるやり方でなければならない」と話す。

 

 

 

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