2021年の美術

 

 国内作家の個展に力、ジェンダーにも脚光

 

 

森村泰昌は青木繁の「海の幸」に着想した連作を制作した(東京・京橋のアーティゾン美術館)

 

複数回にわたり一部地域で緊急事態宣言が出されるなど今年もコロナ禍に翻弄された美術界。ゴッホ展、メトロポリタン美術館展などが実現したが、海外から名品を借りる大型展の開催はまだ厳しい状況だ。勢い国内の芸術家らの個展やグループ展、所蔵品中心の展示が大きな比重を占めたが、質量ともに充実したものが少なくなかった。

年初の「100歳記念すごいぞ!野見山暁治のいま」展に画家の野見山暁治が出品した新作は、変わらぬ創意と画面にみなぎるエネルギーで観客を圧倒した。クリエーティブディレクターの佐藤可士和は自ら個展をキュレーション。ユニクロをはじめ誰もが知る有名企業のブランディングなどの仕事を、巨大ロゴや立体彫刻、商品、映像を使い、国立新美術館の巨大展示室を生かしてビジュアルに訴えかけた。

今年70歳になった美術家、森村泰昌の精力的な仕事ぶりには目を見張るばかりだ。現在アーティゾン美術館で「ジャム・セッション 石橋財団コレクション×森村泰昌 M式『海の幸』―森村泰昌 ワタシガタリの神話」展を開催中。青木繁の近代洋画の名作「海の幸」を、日露戦争や太平洋戦争、戦後の学生運動や東京五輪、バブル期といった時代に重ねて読み直す連作を発表した。コロナ禍でスタイリングから撮影を一人でこなし、85人の登場人物を自演しつつ、日本の来し方行く末を身をもって批評。その熱量はすさまじい。

東日本大震災で臨時の避難所の役割も果たした水戸芸術館は、震災後のアーティストたちの活動を定点観測し、今年の「3.11とアーティスト 10年目の想像」展へとつなげた。同じく被災地に立つせんだいメディアテークも震災にかかわる証言やものの収集を継続し、「ナラティブの修復」展を開催。地域に根ざし、アーティストや市民とともに歴史をアーカイブするミュージアムの存在意義を示した。

世界では西欧・白人・男性の視点で語られてきた美術史の見直しが進む。日本でも「女性がこれほどきちんとフィーチャー(特集)された年はない」とアーティゾン美術館副館長の笠原美智子氏が指摘するように、斬新な企画が相次いだ。

「ピピロッティ・リスト Your Eye Is My Island あなたの眼はわたしの島」展(京都国立近代美術館、水戸芸術館)、「アナザーエナジー展 挑戦しつづける力―世界の女性アーティスト16人」(森美術館)、「山城知佳子 リフレーミング」展(東京都写真美術館)、「ロニ・ホーン 水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」展(ポーラ美術館)、「ぎこちない会話への対応策―第三波フェミニズムの視点で」「フェミニズムズ/FEMINISMS」の両展(金沢21世紀美術館)などだ。

ジェンダーといったテーマや非西欧地域に光をあてる美術展が、入場者数ランキングの上位にあがることはほとんどない。「多くの観客がこうした内容に慣れていないし、鑑賞の仕方の教育も受けていないのだから当たり前」と笠原氏は話す。昨今、国主導で「文化で稼ぐ」政策に重点が置かれつつある。しかしコロナ禍でこれまでの社会や文化のあり方に影響が及ぶなか、動員数や経済効果だけで文化活動を評価すべきだろうか。

時局に流されなかった前衛活動を取り上げた「さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち」展(京都文化博物館、板橋区立美術館)、「美人画」ならぬ「美男画」を紹介する「美男におわす」展(埼玉県立近代美術館、島根県立石見美術館)。江戸東京博物館は近年人気の縄文展とはひと味ちがう「縄文2021―東京に生きた縄文人」展を開催。いずれも企画者の工夫が光った。

 

 

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