2021年の音楽

 

フェス・音楽祭苦境の中に若手活躍の光


吉田俊宏

 

「フジロックフェスティバル」のメインステージで演奏を聴く観客(8月、新潟県湯沢町)=共同

 

新型コロナウイルスの影響を最も強く受けてきた大規模音楽イベントは2021年、フジロックフェスティバルとスーパーソニック(千葉)が開催、ロック・イン・ジャパン・フェスティバルとスーパーソニック(大阪)は中止と対応が分かれた。

年末に開催予定のカウントダウン・ジャパンの総合プロデューサー、渋谷陽一氏が公式サイトに出した次のメッセージが、今年の音楽業界の苦境を端的に表している。

「今年、いくつかの夏フェスが開催されました。しかしその多くが採算的に厳しい結果だったと聞いています。今、私たちの業界は赤字を覚悟で開催するか、開催を断念するかの二択を迫られています」

例年にも増して「今年を代表するヒット曲がない」といわれる。しかしヒット曲がなかったわけではない。優里の「ドライフラワー」やAdoの「うっせえわ」をはじめ、SNS(交流サイト)や動画配信サイトを発信源として人気を集めた曲はむしろ数多い。

ただし、アンテナを張っておかないと何がヒットしているのか分からない。短いサイクルで次々と新しい曲に光が当たり、前の曲は忘れられる。音楽が情報として消費されている感が強い。

一方、国民的な流行歌を生んだ作詞家の松本隆や作曲家の故・筒美京平の作品を歌うトリビュート公演も開かれ、中高年層を中心に盛況だった。

ライブ活動が制限される中で、パンデミックと真摯に向き合い、深みのあるアルバムを発表した音楽家も少なくなかった。特に2人のジャズピアニスト、小曽根真の「OZONE60」と上原ひろみの「シルヴァー・ライニング・スイート」は内省的で、かつ希望を感じさせる秀作だった。

クラシック界ではショパン国際ピアノ・コンクールで反田恭平と小林愛実がダブル入賞を果たすなど、若手の活躍が目立った。エリザベート王妃国際音楽コンクールピアノ部門でも務川慧悟が3位、阪田知樹が4位に入賞。リーズ国際ピアノ・コンクールでは小林海都が2位に入った。いずれも演奏活動の実績豊富なピアニストだが、さらなる飛躍が期待される。

ミュンヘン国際音楽コンクールでバイオリンの岡本誠司、ジュネーブ国際音楽コンクールでチェロの上野通明がそれぞれ優勝するなど弦楽器奏者も負けてはいない。コロナ下でクラシックでも配信が根付きつつある。国際コンクールの楽しみ方としても定着しそうだ。

音楽祭は感染状況に振り回された。小澤征爾が総監督を務める「セイジ・オザワ松本フェスティバル」は直前に中止となり、オーケストラの演奏を配信した。国際教育音楽祭「パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌」は会期途中で中止となった。一方、開催にこぎ着けた「東京・春・音楽祭」ではリッカルド・ムーティがオペラ「マクベス」(演奏会形式)などを指揮した。

ムーティはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団日本ツアーも指揮した。来日できた演奏家は少なかったが、ダニエル・バレンボイム、ペーター・レーゼル、クリスチャン・ツィメルマンら名ピアニストの音楽は聴衆の胸に深く刻まれた。

小曽根や上原と親交のあったジャズピアノの名手チック・コリアをはじめ、フィル・スペクター、ミルバ、チャーリー・ワッツ、原信夫、すぎやまこういち、小林亜星、寺内タケシ、村上"ポンタ"秀一ら個性的な才人たちが逝った。米メトロポリタン歌劇場を率いたジェームズ・レバイン、世界的ソプラノのエディタ・グルベローヴァ、日本を代表するバスの岡村喬生、戦前から活躍したバイオリニストの辻久子が亡くなった。

 

 

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