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廃れる寺社、跡継ぎ見つからず 不法侵入などトラブルも

 

 

 

不法侵入が相次いだ武尊神社(11月、群馬県みどり市)

過疎地を中心に寺社の担い手不足が深刻だ。地域住民の高齢化で氏子や檀家も減り、法事や祭りなどを通じて地域コミュニティーを結びつける寺社の機能が急速に失われつつある。本堂などの建物が放置され、不法侵入などの被害に遭う寺社も出始めた。取り壊そうにも所有する宗教法人の役員が分からないなど高い壁が立ちはだかる。

東京から車で約2時間半の群馬県みどり市。11月上旬、渡良瀬川上流部にある武尊(ほたか)神社を訪ねると、境内には草木が生い茂り、鳥居の一つが崩れていた。社殿の入り口のガラスは粉々に割られ、壁の至る所に落書きがあった。

「床にはたき火をしたような焦げ跡もあった。どうして、こんなことができるのか」。宮司の花輪守留さん(75)は憤る。インターネット上で心霊スポットとして話題になり、境内の防犯カメラには若者らのグループが侵入したとみられる映像が残されていた。

 

武尊神社の境内には草木が生い茂り、鳥居の一つが崩れていた(11月)

武尊神社は1960年代のダム建設に伴い、水没した集落に複数あった神社を統合して現在の場所に移った。過疎化で氏子が減り、ご神体は10年以上前に別の場所に移された。今は定期的に管理する人がおらず、閉鎖されている。花輪さんは計13の神社で宮司を兼務する身で、改修費を賄うことは難しいという。

神社がある東町地区は人口約1700人。ピーク時の47年から約5分の1に減り、法律で過疎地域に指定されている。5割超が65歳以上の高齢者だ。花輪さんは「後継者はおらず、10年後に地域の神社がどうなっているか分からない」と語る。

 

文化庁によると、2019年末時点で全国には約8万の神社がある。宮司などの神職は約2万1000人いるとされ、1人で複数を管理する場合も少なくない。50以上を掛け持つ宮司もいる。国学院大の石井研士教授(宗教学)の調査によると、14年に日本創成会議が示した「消滅可能性都市」に挙げられた896市区町村には約3万1000社の神社があるという。

神社本庁が15年に全国の宮司約1万人に行った調査では、約4割が自ら奉仕する神社の所在地を「過疎地域」と答えた。うち7割超の神社が年間収入300万円以下で運営されており、維持費の負担が難しい実情が浮かぶ。

寺院も同じ問題を抱える。島根県大田市にある浄土宗金皇寺(清算)。浄土宗によると、数十年前から過疎化が進み檀家が減少。住職も亡くなり、管理者不在のまま放置されていた。

他の寺院との合併も検討されたが、引き受ける寺院がなく、檀家らが宗教法人の任意解散を決めた。倒壊しても近隣に危険を及ぼす恐れがない本堂など一部の建物と土地だけが残され、国有地となった。

宗教ジャーナリストで僧侶の鵜飼秀徳氏によると、全国の寺院約7万7000のうち住職がいない無住寺院は約1万7000、宗教活動を停止した不活動寺院は2000以上あるとされる。

取り壊しには宗教法人の解散手続きが必要だが、代表役員と責任役員がいないと任意解散ができない。だが過疎化で信者が減り続け、役員の死亡後に新たな役員を選出できない寺社が少なくないという。

国学院大の藤本頼生准教授(宗教社会学)は「住民と行政が一体となって地域特有の魅力を発信し、人を呼び込める方策を考えることが寺社の再生にもつながる」と指摘する。岡山県美作市ではNPOが棚田を再生して地域の復興に取り組んだことで移住者が増え、神社の夏祭りが復活した例があるという。

一方で、鵜飼氏は「治安や景観の悪化を防ぐには、解散手続きを見直すなど宗教法人法の改正などを検討すべき時が来ている」と話す。

 

宗教法人格、ネット上で売買も

文化庁によると、法人格だけが残る不活動宗教法人は全国に3394(20年時点)ある。宗教法人には、賽銭(さいせん)や布施が法人税の課税対象にならないなど税制面の優遇があり、過去には実体のない法人格を悪用して、課税対象となるホテル経営などの収入を布施などと偽る所得隠しが発覚したこともある。

インターネット上には「節税に最適」などとうたい、宗教法人の売買を仲介するサイトもある。あるサイトでは建物付きの法人やペーパー法人が1千万円以上の価格で売り出されていた。宗教法人法に詳しい元東京基督教大教授の桜井圀郎さんは「売買は違法ではないが、購入後も建物などが放置される例があり、不法侵入などが深刻化する恐れがある」と懸念する。

 

 

 

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