発明王の血気、EVが継承 エジソンのGEは解体へ

 

By John Gapper

 

米国の新興電気自動車(EV)メーカー、リヴィアン・オートモーティブが10日、860億ドル(約9兆8000億円)の企業価値と魅力的なストーリーを掲げて米ナスダック市場に上場した。

Ewan White/Financial Times

「自分はずっと車に夢中だった」。創業者のR・J・スカリンジ氏(38)は上場目論見書でこう打ち明けた。「ベッドの下にはボンネット、クローゼットにはフロントガラス、机の上にはエンジン部品があった」

以下の話と似ているようにみえる。「素朴な洋服をまとい、単純、かつ平易な言葉を使う素直な若者」。1879年、米ニューヨーク・ヘラルド紙が電気時代の偉大な起業家にして発明王として知られるトーマス・エジソンを評した際の言葉だ。

当時のエジソンは32歳で、米ニュージャージー州メンロパークにある自身の研究所で炭素フィラメントの白熱電球を発明したばかりだった。

 

退屈な企業になったGE

リヴィアンの株式時価総額が米フォード・モーターや米ゼネラル・モーターズ(GM)を抜いたころ、コングロマリット(複合企業)の米ゼネラル・エレクトリック(GE)が会社を3分割すると発表した。

1892年にエジソンが創業した電力会社と競合する送電会社との合併で生まれたGEは、2000年代に入ってからは、過去の栄光を取り戻すために悪戦苦闘し続けたが、ようやく敗北を認めた。その「死因」は「退屈」な企業となったことだ。

EVの販売が急増している今、電気技術の創意工夫で発展してきたGEにとっては好機到来となるようにみえた。確かに、GEは風力タービンや航空エンジン、医療機器を生産する世界屈指の有力メーカーで、今年1〜9月期に540億ドルの売上高を計上した。しかし、熱狂を生み出せる存在ではなくなった。

GEはかつて、ジャック・ウェルチ氏というカリスマ経営者を擁する人気銘柄だった。同氏は投資家を説得し、GEがメディアから金融サービスに至る幅広い事業を他社よりうまく経営していると信じ込ませることに成功した。

1999年、同社の時価総額が4800億ドル超のピークに迫るなか、ウェルチ氏は年次報告書で、「創業から3世紀目に入るGEの未来はますます明るい」と宣言した。同氏は2001年に退任し、おごったGEはすぐさま転落の道をたどった。

今の時代の英雄はウェルチ氏のような経営の第一人者ではなく、懐疑的な声を無視し、幾つもの産業に創造的破壊をもたらすために数十億ドルの資金を調達する技術系の創業者だ。

リヴィアンは目論見書で「我が社は事業の歴史が極めて限られており、大した収益も出していない」と認めている。だが、同社には壮大なビジョンがあり、実績がないことを気にしていない投資家が支えている。

 

創業者自身がブランド、エジソンが元祖

著名起業家イーロン・マスク氏が率いる米EV大手テスラの社名は、発明家のニコラ・テスラにちなんで付けられた。テスラは当初、エジソンの下で働いていたがたもとを分かち、GEの合併につながった送電方法を巡る論争「電流戦争」ではエジソンと敵対関係にあった。

マスク氏は、技術と名声の双方を駆使して話題を提供することにかけては名人だ。最近では自身のツイッターをフォローする6300万人に、自身が保有するテスラ株の10%を売却すべきか否かについての投票を実施し、テスラ株の急落を招いた。

エジソンも、当時勃興しつつあったマスメディアの時代には、創業者が強力ブランドになり得ることを知っていた。そして、起業した多くのベンチャーに自分の名前を冠した。生粋のショーマンではなかったが、プロデュース能力にたけていた。

1877年にはニューヨークの科学誌サイエンティフィック・アメリカンのオフィスに新たに発明した蓄音機を運び込み、机の上に設置してハンドルを回した。「はじめまして。蓄音機をどう思いますか」と機械が問いかけると、目を見張った編集者たちは輪転機を止め、急いでエジソンの評判を世に広めた。

「十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない」というのは、SF作家アーサー・C・クラークの第3の法則だが、19世紀の終盤には発明家が魔術師として尊敬を集めた。

エジソンの伝記を記した作家のランダル・ストロス氏は「当時は科学技術が複雑怪奇にみえた時代」であり、そのため「(エジソンのことを)超常の力を授かった人とみなして面白がった」と指摘している。

1984年に米アップルがパソコン「マッキントッシュ」を発表する際、共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏はエジソンの手法をまね、パソコンが会場に話しかけるようにした。同氏は、情熱を込めて優雅に売り込めば、技術が未知でも消費者は満足することを知っていた。

この11月上旬にカリフォルニアのオークションで40万ドルで落札された1976年発表の「アップル1」は、機能美と人が熱狂するデザインにこだわったジョブズ氏の初めての製品だ。

こうした巧みな売り方は、人心をとらえる企業を投資家がファンとなって支える「ミーム株」の時代に適している。

当然ながら、こうした売り方は消費者向け商品で最も効果を発揮する。新しい風力タービンや医療用映像装置の発表会に列をなす人は、ほとんどいないだろう。技術がどれほど革新的であっても、万人向けではなく、発電所の中に潜んでいるようなものは、関心を集められない。

 

熱狂させる企業もいずれはマンネリに

かつて、GE製品は電球から家電まで家庭のどこにでもにあったが、やがてアジアの競合製品に圧倒されるようになった。

ウェルチ氏はGEをコングロマリットに変え、代わりに経営理論を語るようになった。売り込むにはスキルが必要だったが、ウェルチ氏は放送大手NBCを買収し(GEは後に売却)、傘下のケーブルテレビ局CNBCの番組を通じて、世間に直接語りかける手段を手に入れた。

マスク氏のアプローチはもっと単純だ。同氏はEVを造り、ツイッターで語りかける。今のピックアップトラック専業に転換する前にテスラと競おうとしたスカリンジ氏は、こうしたマスク氏の手法を学んでいる。

投資家は、魔法のような製品を作るために大きな障害を克服しようとする謙虚な発明家をこよなく愛する。エジソンは定番となったこのストーリーの開拓者で、こうした話は資本が潤沢で熱狂しやすいときにはとりわけ強力な支持を得やすい。

だが、興奮もやがてマンネリを招く。GEについて驚くべきことは、投資家を退屈させるようになったことではなく、退屈させるまで1世紀以上も投資家をひき付けたことだ。リヴィアンとテスラが、それだけの長きにわたって人を熱狂させ続けることを願うばかりだ。

 

 

 

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