対中国、包括的戦略を

 

パネル討論 米中、衝突リスク管理必須

 

 

日本経済新聞社と米戦略国際問題研究所(CSIS)は22日、都内で第18回シンポジウム「戦略的競争時代における日米同盟の新たな役割と射程」(協賛・日本経済研究センター)を開いた。中国が台湾周辺や南シナ海での軍事活動を活発化するなか、バイデン米政権に日本を含めた同盟国との連携を強化し、包括的な対中戦略を立てるよう求める意見が相次いだ。米中の衝突回避に向けた取り組みが必要だとする指摘も多く聞かれた。

 

パネル討論する(右から)青山氏、北岡氏、モデレーターの田中氏。(スクリーン内右から)スタインバーグ氏、スタブリディス氏(22日、東京都内)

 

田中明彦・政策研究大学院大学長(モデレーター) 今後の米中関係はどうなっていくか。

ジェームズ・スタブリディス元米海軍大将 まず米国がすべきことはもっと耳を傾けることだ。日本、韓国、オーストラリアなどの識者の見解もちゃんと聞く。その後に戦略を作るべきだ。米国にはまだ一貫性のある対中戦略がない。

ジェームズ・スタインバーグ元米国務副長官 中国との衝突は管理できる。確かに対立はあるが、気候変動や感染症など共通の課題については両者も相違点を乗り越えて協力する道を見いだすのではないか。

北岡伸一・東大名誉教授 基本認識として中国は軍事的には慎重な国だ。中国は簡単に(力で問題を)処理できると思わなければ軍事行動に踏み切る可能性は低い。米中の衝突を避けるためには日本の抑止力の強化が必要だ。防衛予算は国内総生産(GDP)比の2%程度(への増額)を目標にすべきだ。

青山瑠妙・早大教授 米中の競争の管理は可能だが非常に難しい。中国は特に習近平(シー・ジンピン)体制に入ってから過剰な自信に満ちてしまっている。今の中国では10年後は米中の新たな2極体制に入るとの認識が主流だ。この認識に基づくと中国の対外、対米政策は強硬にならざるを得ない。

田中氏 米国の台湾政策は今後どうなっていくのか。

スタブリディス氏 台湾が自分たちの選択肢を選べるようにしないといけない。台湾が独立を宣言すべきかどうかの決定は台湾自身がすべきだ。そのためには台湾が防衛能力を持たなければならない。

田中氏 冷戦の時とは異なり、今の米中は経済的な相互依存が高まっている。米中関係をどう管理すべきか。

青山氏 経済的な相互依存関係そのものが米中関係の安定を維持し、戦争を予防する上で非常に重要な役割を果たす。経済のデカップリング(分断)には時間がかかる。そうした中で日本はユニークな立場だ。日米で協力して新しい経済関係を作ろうとしている。中国としては日本との経済関係の強化を非常に重視している。日本が戦略的な立場、利点を生かして今後果たせる役割は大きい。

スタブリディス氏 経済的に相互依存しているから米中で戦争はないと言う人もいるが、そのような考え方はお笑い草だ。(第1次大戦が起こった)1914年でも欧州の国々は経済的に相互依存していた。米中は自由な競争の機会をお互いの市場で持つことで対立の可能性を削減できる。それでも価値観や地政学的な課題は残る。

北岡氏 人類の歴史を見ると紛争を力で解決するのは当たり前に行われていた。第2次大戦後、平和的に解決すべきだと非常に例外的に合意された。紛争を力で解決しないとの原則を再確認する必要がある。

田中氏 米中衝突の最大のリスクは何か。

スタブリディス氏 誤算だ。航空機を飛ばすのは若い人たちだ。経験もないし政策立案者でもない。誤算の可能性は非常に高い。偶発事象に備えたメカニズムや、潜在的な誤算を減らす取り組みが重要だ。最も心配しているのは特に(中国が一方的に領有権を主張する)南シナ海における誤算だ。まだ緊張を緩和するメカニズムがない。

青山氏 中国の国内情勢も注目する必要がある。格差是正に向けた「共同富裕」のスローガンの下、不動産、教育などの改革を一気に進めている。改革によって経済成長と社会の安定に非常に大きな影響を与える可能性がある。国内の社会不安は中国の対外行動にも影響を与える。

 

 


 

特別対談 

 

ナイ氏「米のTPP加盟期待」

アーミテージ氏「地域の脅威に備えよ」

 

マイケル・グリーン米戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長(モデレーター) アジアや日米同盟へのバイデン米大統領のアプローチを継続的なものとみるか。

ジョセフ・ナイ米ハーバード大学特別功労名誉教授 中国に強く対処しなければと考えている点で継続性がある。日米同盟はトランプ前政権で少し揺らいだという懸念があったが、現在は以前より強固になった。

リチャード・アーミテージ元米国務副長官 アジアでの強力な同盟関係の必要性を理解する人が米国で増えてきた。日米同盟に精通するカート・キャンベル氏が国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官に就いたのがその証左だ。

グリーン氏 岸田政権にとって重要なアジェンダ(課題)は。

ナイ氏 緊迫する情勢にどう対処するかが興味深い。日本が防衛費を国内総生産(GDP)比で増やすべきかどうかという議論が出ているのは健全なことだ。政治家・指導者らは台湾を巡る問題の深刻さをより認識するようになった。

アーミテージ氏 日本が防衛予算を2倍またはそれ以上に増やすのは良い考えだ。同盟国としてあらゆる潜在的な脅威に立ち向かい、地域の平和を維持するための能力が重要だ。

グリーン氏 台湾情勢はどれほど緊迫しているとみるか。

アーミテージ氏 状況は少しずつ危険になっている。だが、中国が台湾への圧力を強めるなかで、多くの国々が台湾の側に立つようになっている。

グリーン氏 米国も台湾へのアプローチを考え直すべきか。

ナイ氏 伝統的な政策を捨てれば、蜂の巣をつつくことになる。台湾の独立は認めないものの、台湾海峡両岸の安定は交渉によって保たれるべきだとの立場を維持すべきだ。バイデン政権は台湾問題にうまく対処し、抑止力を強化しつつも危機を起こさないようにしている。

グリーン氏 米国、英国、オーストラリアの安保協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」創設は大きな動きだ。

アーミテージ氏 豪州にとって原子力潜水艦の保有は試練にもなり得る。オーカスで最も恩恵を受けるのは日本だ。潜水艦から日本に伝えられる情報は極めて重要なものになる。日本がオーカスに参加を望むなら、米国は歓迎できる。

グリーン氏 多国間の同盟関係を強化する意義は。

ナイ氏 中国との競争はチェスゲームだ。(中国の)支配拡大を止めるには、同盟国での米国の強いプレゼンスが欠かせない。日米豪印の枠組み「Quad(クアッド)」やオーカスは良いステップになる。米国が積極的に環太平洋経済連携協定(TPP)でも(加盟に向けて)動くのを期待したい。

グリーン氏 気候変動対策を巡る協議で、中国側は米国に対中圧力の緩和を求めている。

ナイ氏 中国で干ばつや農業被害が起きれば、共産党の支配にとって最大の脅威となる。気候変動はどの国も単独では解決できない。

アーミテージ氏 習近平(シー・ジンピン)国家主席の主な関心事は、中国共産党の優位性だ。経済的利益や感染症対策より党の優位性を重視しなければならないことに弱みも感じているはずだ。中国について語る時は、彼らの強みだけではなく弱さについても語るべきだ。

 

 

 

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