アフガン、米国時代の終焉

 

人権不問の中国、実利狙い接近

 

ギデオン・ラックマン

 

 

アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンが政権の座を追われてから20年。だがそのタリバンが、首都カブールを制圧したことで、米国は今後数十年間、アフガンでの影響力を失うことになるだろう。

イラスト James Ferguson/Financial Times

その意味で今回の事態は、1979年のパーレビ国王が追われたイラン革命、ベトナム戦争における75年の南ベトナムの首都サイゴン(現ホーチミン)陥落、59年のキューバ革命に匹敵する。

「地上部隊なくしてアフガンの対テロ戦は戦えず」
米軍が撤収したことで、タリバンは中国やパキスタン、湾岸諸国などとの関係構築を目指すだろう。アフガンの新たな支配者は、国際社会に認められることを切望しているようだ。貿易や支援を得るには、それが必要だからだ。そのため狂信的な行動は抑えていくかもしれない。

国際社会は、特にアフガンの女性やタリバンに敗北した様々な敵対勢力をどう扱うかを注視するだろう。タリバンの一部の広報担当は、前回の政権とは違い、女性の就労と教育を認めると英BBCなどによるインタビューで答えている。だが多くのアフガン人女性、特に政治や市民社会に携わっている女性は、この見方に極めて懐疑的だ。

タリバンが「自分たちのことを見ている」と意識している相手は世界の各国政府だけではない。暴力的なイスラム主義運動が米国を打ち負かすのに成功した事実を受け、世界中のイスラム過激派は勢いづくだろう。彼らはタリバン率いるアフガンに指導を仰ぎ、タリバンのやり方を学ぼうとする可能性がある。

アフガン駐留米軍およびその連合軍の司令官を務め、今は米ブルッキングス研究所トップを務めるジョン・アレン氏は、国際テロ組織アルカイダが「米軍撤収に伴い、(ヒマラヤ西方の)ヒンズークシの山岳地帯でおおっぴらに活動するようになる」と予測する。

バイデン米政権は、そんな事態になれば反撃すると主張しているが、アレン氏は「地上に信頼できる司令官を含む統制部隊なくしてアフガンでの対テロ作戦に乗り出すのは至難の業だ」と指摘する。

アフガンは中国、イラン、パキスタン、中央アジア各国と国境を接し、インドにも近い。これらの国はいずれも、タリバンに感化されて暴力が広がる事態を懸念している。

インドは、国内で唯一イスラム教徒が多数を占める地域であるジャム・カシミールの治安悪化に危機感を募らせているだろう。中国政府が、新疆ウイグル自治区で同政府による弾圧と戦おうとするウイグル族がアフガンに拠点を見いだすのではないかと懸念するは当然だ。

イランは米国の敗北を喜ぶ一方、アフガンにいるイスラム教シーア派を信仰する少数派で、タリバンに迫害されてきたハザラ人の状況を心配するだろう。そしてアフガンの全ての隣国と欧州連合(EU)は、同国から大量の難民の流入に戦々恐々とすることになる。

 

最も危険な隣国はパキスタン

最も不透明で危険な状況にある隣国はパキスタンだ。同国政府は、特に情報機関の3軍統合情報部(ISI)が数十年にわたりタリバンをかくまってきた。パキスタンは「戦略的深み」、つまりアフガンがインドの影響下に入らないよう阻止する必要があるとして、この政策を一部否認しつつも半ば正当化してきた。パキスタン国内にイスラム強硬派がいたこともタリバンの存在を許すような環境をつくる一因となってきた。

パキスタンでは2014年に同国の反政府勢力「パキスタンのタリバン運動(TTP)」が北西部ペシャワルの学校を襲撃し、生徒132人を含む150人が死亡した。パキスタン政府は、過激なイスラム主義者らがこうした大量殺りく事件を起こしても、イスラム武装勢力をひそかに支援し続けた。

パキスタン政府は、タリバンを交渉のテーブルに着かせるため「最大限の影響力」を行使してきたと主張し続けるが、これを信じる向きはほぼない。あるアフガン政府高官は最近、筆者にこう不満を述べた。「パキスタン当局者との会合が険悪なムードに陥ったことは一度もない。ただ、彼らは約束をとにかく守らない」

それでも、タリバンが隣国アフガンで政権を奪回したことは、パキスタンに危険な事態をもたらす。タリバンの勝利に伴い、パキスタン国内のイスラム過激派も勢いづくからだ。約2570キロに及ぶ両国の国境は昔から自由に行き来できた。

実際、TTPは既に再び勢力を増しているようだ。7月14日には北西部で水力発電所の建設現場に向かうバスで自爆テロを起こし、中国人技術者ら9人を含む多数の死者を出し、このほどパキスタン国内で起きたテロ攻撃26件について犯行声明を出した。パキスタン政府の中で宗教的影響を受けていない高官たちも攻撃の対象になっている。

アフガンと国境を接する全ての国は、タリバンが1996〜2001年に政権を担った経験から学び、自国を再び国際的なテロ組織の拠点にしないよう切に望んでいる。

 

新たな時代の幕開けを喜ぶ中国

もしタリバンがイスラム原理主義を輸出しようとしなければ、タリバンによるアフガン政権奪取は、中国にとっては歓迎すべき展開になりそうだ。

中国政府の外交政策の基本方針は「内政不干渉」だ。つまり、タリバンが中国の「核心的利益」を尊重する限り、中国政府はアフガン国内の政治体制や人権の扱いなどに対し中立の立場を崩さない、ということだ。

既に中国政府は7月28日、王毅(ワン・イー)国務委員兼外相がタリバン幹部のバラダル師と天津で会談し、タリバンと協力することに前向きな姿勢を示している。会談が実現しただけでなく、中国政府がこれを宣伝する価値があると捉えている点が重要だ。

中国政府がタリバン率いるアフガン政権と実務的関係を構築できれば、それは中国に経済的恩恵をもたらす。アフガンを通り抜けて、中国がパキスタン南部に建設したグワダル港に至るまでの交通動脈の整備もそうした可能性の一つとなる。タリバン政権との関係構築は、インド政府に自国が包囲されていくという懸念を高めさせることになり、中国のインド政府への圧力を強める戦略的好機にもなるとして歓迎だろう。

そして何よりも、「米国の時代の終焉(しゅうえん)」という新たな時代の幕開けを伝える証拠がさらに示されたことを中国は喜ぶだろう。

 

 

もどる