「共産党100周年」中国の若者達が語る党への本音

 

20代が考える入党のメリットとデメリット

 

 

浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト

 

 

 

中国共産党が7月に結党100周年を迎え、中国は祝賀ムードが高まっている。アメリカに対抗しうる国力を得て、コロナ禍から早期に抜け出したことは、中国人の愛国心や自信を揺るぎなくしているように見える。

では、今の若者は自国や共産党をどう思っているのか。何気なく北京在住の20代女性に聞くと、意外な答えが返ってきた。

「私は愛国者ですけど、共産党は支持していません。党員の私がそうなんだから、党員じゃなければもっと支持してないですよ」

 

就職に有利、親も喜ぶ

その女性、王甜甜(仮名、25歳)さんは、「共産党を嫌いというわけではないが、特段の感情がない。党員であるメリットも感じない」と付け加えた。

王さんが党員になったのは6年前、大学3年生のときだ。「1年生のとき、学生幹部から推薦されて党の研修を受け始めた。私はクラスで成績が1番だったから選ばれたのではないか。うちのクラスからは3人が選ばれた。残り2人は学生会の幹部とか、教員と関係がいいとかそんな基準じゃないかな」

1年以上かけて党の思想やマルクス主義などの座学を受け、予備党員になった。ここからさらに半年ほど「教育」が続き、優秀だと認められたら正式な党員になる。かなりの時間が取られるため、予備党員止まりの人も多いという。

王さんは「就職に有利と言われていたし、親も『大きなチャンスをもらえた』と喜んだので、党員になった。でも実際には何も有利なことはなかった。年間100元(約1700円)くらい党費を払っているけど、それ以上の関わりはなく、(党員になるのに費やした)時間がもったいなかった」と話した。

大学時代に王さんと同級生だった趙心さん(仮名、26歳)は、「王さんはSaaSを手掛ける北京のIT企業で働いている。グローバルな実力主義の会社だと、党員の恩恵は感じにくいけど、公務員や教師にとっては、共産党はやっぱり箔ですよ」と強調した。

昨年重点大学の大学院を修了した趙さんは、地元に帰って中学校教師になった。今は結党100周年に伴う学内活動の運営や広報を担当している。

趙さんは共産党員ではない。高校や大学で、共産党員になりたい人はとても多かったが、推薦されるのはクラスで数人。エンターテインメント企業に就職して、30歳で喫茶店を開く夢を描いていた趙さんは「党員を目指すと品行方正が求められるし、競争も激しいし、学生時代はあまり興味がなかった」という。

気持ちが変わったのはこの1〜2年だ。

著名企業に入りかった趙さんは、「自分の大学はそれほど有名ではなく、競争に勝てない」と考え、海外に1年留学し、さらに中国の大学院に進学した。そのため就職活動が大学の同級生より2〜3年遅れ、先に働き始めた友人からリアルな現実をたくさん聞くことになった。

「友達のほとんどはすでに1回転職して、北京や深?で働いている。王さんは学生時代とても優秀で、今は給料の高いIT企業に勤めている。私が学生時代に憧れてた生活を送っているのに、『もっと頑張らないと淘汰される』と危機感が強くて、幸せそうじゃない」

年内に共産党に入党予定
趙さんは就職をすっ飛ばしてコーヒーショップを開こうと考え、カフェオーナーのコミュニティーに入ってもみたが、オーナーの大半も生存競争にさらされていた。

半年ほどの就職活動を経て、趙さんは地元に戻って教師になることを決めた。海外留学、大学院修了の経歴は、小さな街の学校で歓迎された。

 

年内には共産党入党の申請もするつもりだ。

「学生の頃は、党員になるのは競争が激しいと思っていたけど、民間企業で働いたり、起業するほうが競争は熾烈だった。安定路線を選んだからには、党員になっておくべきと思う」

中国の若い世代と話していると、彼らは「愛国」ではあるものの、それが「愛党」と直結していないと感じる。共産党員になることへの20代の共通見解は、「就職や昇進に有利」「希望者は大勢いて競争が激しい」「親が喜ぶ」だ。

中国西部の省で銀行に勤める20代女性は、「昨年のコロナ禍のとき、党員がボランティアで感染者を輸送したり、住民を統率しているのを見て、共産党が社会の安定に貢献していると実感した」と愛党精神を口にしたが、同時に「私は予備党員だけど、早く党員になりたい。昇進にも有利ですし」と、やはり「昇進」という言葉が出てきた。

日本の大学院に留学し、日本企業に就職した李強国さん(仮名、26歳)は、日本社会と比較しながら説明してくれた。

「僕は愛国ですが愛党ではありません。日本人だって母国を愛していることと政府を支持するのは同じことではないでしょう」

中国人は総じて、地縁血縁を重視する傾向があり、その延長に愛国がある。最近は、アメリカとの対立によって「中国が理不尽にいじめられている」という認識が広がっていることや、「党と国民が一致団結してコロナを早期に封じ込めた」という自信も、愛国心を高めているように見える。

李さんは、「愛国と愛党は別次元です。僕たち庶民にとって、共産党員になるのは『上級国民』になるという感覚です」という。

 

入党できなかった父の影響

大学時代に成績優秀だった李さんは、党員になる研修を受けられたが、思うところあって距離を置いた。

「僕は高校の頃から、大人になったら海外で暮らしたい、できれば国籍も取得したいと思っていました。海外で中国の共産党がどう見られているか、大学に入る頃には知っていたし、海外就職で不利になりたくなかった」

ただ、李さんは「中国人は義務教育で愛国、愛党教育を受けるので、世の中のことが分からないうちは愛党精神が強いのが普通。僕は特殊なパターン」とも言った。

李さんの父方の祖父は、共産党と対立して台湾に逃れた国民党のメンバーだった。李さんの父は身内に国民党関係者がいたため、共産党に入党できず、社会のさまざまな場面で不利な扱いを受け、望む道を歩めなかったという。

李さんは父から、「共産党は社会の基盤だから、お前は党員になってほしい」と言われて育った。だが、党員になれないコンプレックスを引きずり続けた父を重く感じ、むしろ党の支配の及ばない場所に行きたいとの思いを強めた。

選挙がない国で、国民が政治を変えることは現実的ではない。自分の力で変えられないものに、愛情や関心を保ち続けるのも容易ではない。だから中国政府は愛国・愛党教育に力を入れざるをえない。

都市部の若者は競争と変化の中で「自分で変えられるもの」、つまり学歴やスキルアップに投資する。党員になるかどうかも、キャリアの一環として判断する。

安定を望む人は、共産党の傘に入ることを選び、自身の安定の基盤である党を支持する。親が「共産党員になってほしい」と望むのは、日本人の親の一定数が子どもに公務員になってほしいと考えるのと似たような感覚だろう。

 

共産党機関紙は寝そべり族を批判

最近、寝そべるという意味の「躺平」という言葉が中国で大流行している。仕事も消費も最低限にとどめ、低燃費で生きる若者の生態を指し、中国青年報や南方日報など共産党機関紙は「快適な環境に隠れていても、成功は決して天から降ってこない」「奮闘する人生こそ幸福な人生だ」と躺平を非難する記事を掲載した。

「奮闘より安定を選んだ上級国民の集団」、それが若者から見た共産党の姿だ。

「上級国民に叱咤激励されてもね。格差の上にいる人たちは、自分たちが若者を?平にしていると思わないんですかね」。李さんは皮肉を交えて語った。

 

 

 

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