明日への話題
競争社会
前公正取引委員会委員長 杉本和行
小学校の運動会の徒競走で、順位をつけないために全員が手をつないで一緒にゴールするということが行われていたなどと、話題になったことがあった。
こうした教育現場を経験した子供たちがどういう人材に育ったかについて、興味深い報告を聞いたことがある。このような、いわば競争を否定する教育を受けた人たちは、利他性が低く、協力に否定的で、互恵的ではなく、やられたらやり返すという考えを持つ傾向が強いということであった。このことについて私は、「競争によって個人の能力を磨くインセンティブが与えられる。それが他の人の能力を評価することにつながり、それぞれに異なった能力を持った人たちが力を合わせることの必要性が認識されるようになる」ということではないかと解している。
競争という言葉を聞くと、「和をもって貴しとなす」という日本人の考え方に合わないといった印象を持たれる傾向がある。これは、競争という言葉が「争(あらそい)」という語を含んでいることに由来するのかもしれない。「競争」という日本語は、福沢諭吉が英語の「コンペティション」を翻訳したものとされているが、当時から「争」という語は穏やかではないといった意見があったとも聞く。
競争という言葉の本来の意味は、競い合うことを通じて、それぞれが能力を磨き上げ、ともに向上していこうというインセンティブを与えるというものではないかと思う。競争(コンペティション)という言葉は能力(コンピテンス)という意味につながるものではないだろうか。