職場を変える「雑談」の魔力 4つの心得
西武文理大学サービス経営学部専任講師 瀬沼文彰
テレワークをきっかけに職場での雑談の重要性が認識され始めている。写真はイメージ
テレワークが進む一方、従来職場にあった「雑談」が減ることを懸念する声が多い。テレワークをきっかけに雑談に対する関心が高まっているようだ。今回は、組織のなかの「雑談」の重要性について考えてみたい。
心理的安全性生む効果も
雑談は、組織のなかであれば、信頼関係を築く上で重要で、集団の絆を強める効果がある。チームとなればなおさらで、求心力など凝集性を高める。また、自分の話を聞いてもらえる環境があれば心理的安全性も生まれるだろう。さらには、それを前提に業務上のコミュニケーションも円滑になり、様々な状況で自分の意見をはっきりと伝えることにつながる。
初対面の場合は、雑談はあいさつや社交の一環としての機能がある。相手との共通点を探ったり、初対面ならではのお互いの緊張感を緩和したり、自己開示してみることで相手もオープンになってくれる可能性がある。沈黙の気まずさの回避でもあれば、相手への敬意や気遣いでもある。
営業でも、雑談で相手との距離感を縮めることは重要だ。雑談を通して、クライアントが何を考えているのか、直接は探れなくても、相手の興味などを含めて少なからず情報収集でき、同時に信頼関係が形成できる。
雑談を通じて、お互いの感情を伝えあったり、共有したりすることも雑談の重要な機能だ。さらに、業務上のメーンの話に入る前の導入に用いたり、仕事の話をするための両者の「コミュニケーションの温度」を調節してお互いに近いものにしていく効果もあったりする。
これまで本連載では、笑いのつくり方について様々な方法を提案してきた。それらの実践も試みてもらいたい。だが、テクニカルに考えなくても雑談を始めれば、誰でも、いつの間にかその状況に笑いが生まれているのではないだろうか。その意味では、笑いをつくるための最も簡単で単純な方法は雑談をしてみることである。同時に、各自でそれを楽しもうとする気持ちや余裕を持つことも大切だと主張したい。
コミュニケーションがますます重要視されるなか、笑いや笑顔には「他者に対しての承認」の意味も含まれてきた。同時に、自分の社交性や明るさの提示にもなる。笑い合うことで一体感も生まれるし、空気がガラッと変わることもある。また、笑いが発生したということは、お互いに共有している前提があることの証でもあるため、親しみや距離感ともかかわる。さらには、仕事で思い詰めているときや緊張感あふれる状況を緩和したり、周囲を見渡す余裕を生んだり、気持ちの切り替えができたり、その後の集中力の維持にも効果がある。
雑談のメリットだけではなく、同時に、雑談を始めれば誰でも笑いの恩恵も受けることができる。さらには、笑いの恩恵も受けれるというわけだ。
長時間、自慢話は禁物
雑談、及びそこから生まれる笑いのメリットを書き出してみると、仕事にとっては雑談が有用であることが伝わるのではないだろうか。にもかかわらず、現状、それが効率化のなかで削られていく。その理由はなんだろう。
おそらく、雑談にも何か問題点があると考えるのが妥当だ。問題点をふまえてみることで私たちはさらに有用な形で雑談を活用できるはずだ。
では、どんな問題があるのだろうか。雑談がそもそも仕事ではないという点も含まれてくるのかもしれないが、雑談の最大の問題は、始まると長引くことやそれに伴い仕事に戻れなくなる、できなくなるという点だろう。また、雑談は、他者の自慢話や昔話が多くなってしまうことも多い。一度聞いたことのある話を再び聞かなければならない展開は、誰でも逃げ出したくなる。
雑談を苦手とする人にとっては、雑談は人の話を聞くことばかりになってしまうことも問題だ。それが楽しければいいが、楽しくないと疲労の蓄積や時間ばかりが取られてしまいストレスが溜まり、本分である業務の効率に悪影響が出てしまう。
では、雑談ではどんなことに気をつければいいのだろうか。
1つ目は、雑談は、適度な時間で切り上げることが何よりも重要だ。芸人時代にも常々感じていたし、売れている先輩芸人も気にしていたことだが、オチまでが長い話は面白い話であってもよほどの話芸や人気がない限り、基本的にはお客さんには聞いてもらえない。この話題いつ終わるんだろうと思われてはいけないということだ。そう思わせてしまう時点で雑談の良い面を生かせなくなる。
2つ目は、雑談では、自分が話をするというよりも、相手の話を聞くということを忘れてはならない。相手になにか本心から好奇心がもてると、その気持ちも相手に伝わり雑談の良い面を生かせる。
アドバイスではなく共感を
3つ目に、雑談のなかでは、たとえ相談をされたとしてもアドバイスをして終わるのではなく、共感程度のほうがいい。雑談として言ってみたことなのに、アドバイスになると、相談をした側は業務の一環なのかがわからなくなってしまう。雑談は雑談として終えるべきだ。
4つ目に、「この人にはこの話題」というように、毎回同じ質問で雑談を仕掛けないことも大切だ。例えば、猫を飼ってるAさんには毎回猫の話題、パソコンに詳しい部下に毎回雑談のテーマにパソコンを選ぶということだ。確かに、いざというときの話題としてはいいのかもしれないが、毎回同じ話題だと回答する側も次第に言うことがなくなってしまう。また、同じ質問を何度もしてしまうと、相手は話を聞いてもらえていない、覚えてもらえていないと感じ信頼関係にも関わってくる。これが多いと組織内全体の雑談が避けられがちになってしまう。
とはいえ、部下からすれば、話しかけてくれることや話をリードしてくれていることに対し、上司の側も色々と考えた上で雑談を投げかけているのかもしれないと考えておくことは重要だ。また、自慢話のように聞こえても、じっくり聞いてみると面白さや役立つ話がちりばめられているかもしれない。そのため、聞く気をすぐになくしてしまうのは間違いだ。たかが雑談と思わずに、効率化が重視されて減少気味な雑談を少しだけ、ゆとりをもって大切にしてみると職場に楽しさが生まれてくるのではないだろうか。繰り返すが、そこには自然と笑いもついてくるはずだ。
雑談では、相手が期待、予期できる範囲内で話が淡々とまじめに進んでいってしまうことが多い。だが、笑いをどこかで作るためには、笑いが生まれる要因でもある予期からのズレや意外性が重要になる。雑談のどこかで自分なりの変化球を投げてみる。そこに自分らしさがあるとなおいいだろう。さらには、日ごろから短めのエピソードをたくさんためておくことができるとどんな話題にもエピソードで返すことができる。エピソードはオチなどなくてもどこかで自分らしさが出るものだ。そういう話は広がりやすいし、聞いていてオリジナリティーがあるので飽きない。効率化されていく組織のなかで、雑談の位置付けを改めて何か考えてみてはどうだろうか。
瀬沼文彰(せぬま・ふみあき) 西武文理大学サービス経営学部 専任講師
日本笑い学会理事、追手門学院大学
笑学研究所客員研究員。1999年から2002年まで、吉本興業にて漫才師としてタレント活動。専門分野は、コミュニケーション学、社会学。研究テーマは、笑い・ユーモア、キャラクター、若者のコミュニケーション。単著に、『キャラ論』(2007、スタジオセロ)、『笑いの教科書』(2008、春日出版)、『ユーモア力の時代』(2018、日本地域社会研究所)など。