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仏軍初参加、自衛隊・米軍と離島防衛訓練 中国にらむ

 

 

自衛隊は11〜17日に米軍、フランス軍と九州で共同訓練を実施する。日本国内での演習に仏軍が参加するのは初めてになる。沖縄県の尖閣諸島周辺で中国が活発な動きを見せているため、日米だけでなく欧州主要国とも連携する姿勢を示す。

 

ボートで上陸する陸上自衛隊の水陸機動団(鹿児島県中種子町)

陸上自衛隊からは相浦駐屯地(長崎県佐世保市)を拠点とする離島防衛の専門部隊「水陸機動団」を中心に約100人が参加する。米海兵隊と仏陸軍からはそれぞれ60人程度になる見込み。

上陸と戦闘を想定した訓練をする。11日には九州西方の海空域から相浦駐屯地に日米仏の部隊が上陸し、輸送機オスプレイやヘリコプターから物資や隊員を降ろす。14日は霧島演習場(宮崎・鹿児島県)へ部隊を輸送し、市街地での戦闘を想定してビルなどを模した施設を使って演習する。

今回の訓練を持ちかけてきたのは仏軍だ。仏軍の練習艦隊「ジャンヌ・ダルク」が日本に寄港するタイミングにあわせて日米と日程を調整した。

自衛隊と仏軍は近年、日米仏や日米豪仏の枠組みで海上で演習を実施している。今回のような日本国内の陸上では初めてになる。

重要なのは「上陸と戦闘」をあわせた実戦的な訓練になる点だ。日本の離島を他国が占拠した場合の奪還作戦を連想させる。

 

米軍との実動訓練を行う陸自の水陸機動団(20年2月、沖縄県金武町の米軍ブルービーチ訓練場)=共同

日本と同盟関係にある米国は日米安全保障条約5条に基づき、尖閣を防衛する義務がある。そうした条約を結んでいないフランスがなぜ日本での訓練に参加するのか。中国や周辺国には異例の軍事的なメッセージになる。

フランスは太平洋地域にニューカレドニアなどの領土を持つ。常駐基地もある。中国が東シナ海や南シナ海を抜けて太平洋に進出してくれば、次は仏領の諸国に影響が及ぶ。

「中国の海洋進出の動きが加速したことで、フランス自身もこの地域の領土が持つ戦略上の重要性を再発見した」。欧州の安全保障に詳しい二松学舎大の合六強専任講師はこう分析する。

2019年のアジア安全保障会議(シャングリラ会合)では、パルリ仏国防相が「私たちは太平洋地域の一部だ。領土に付随する責任がある」と演説した。フランスも中国が進出するインド太平洋の当事者だと訴えた。

合六氏は仏軍の参加に関して「価値や利益を共有する多国間で実践的な訓練をすることで、中国により強いシグナルを送り、抑止する狙いがある」とも述べる。

欧州は中国と地理的に離れている。これまでは巨大市場を持つ中国との経済関係を重視する傾向があった。中国に安保や人権の問題があっても表立って批判することは避ける傾向があった。

香港の民主派弾圧をきっかけに、米欧では中国の覇権主義への警戒が一気に高まった。米国はトランプ前政権で中国を経済安全保障上の脅威とみなし、米中対立が激化した。バイデン政権になると対中国の枠組みに同盟国や欧州勢の参加を求めるようになった。

主要7カ国(G7)の外相会合が5日にまとめた共同声明も台湾海峡に言及した。4月の日米首脳会談で合意した表現を踏襲している。日米の対中姿勢は欧州主要国を含むG7全体に広がった。

フランスは18年にインド太平洋戦略をまとめた。ドイツ、オランダも同様の指針を策定している。この3カ国が主導して、欧州連合(EU)は9月までに対中国を念頭に置いた「インド太平洋戦略」をつくる予定だ。

英国は4月、最新鋭空母をインド太平洋に派遣し、日本に寄港させると発表した。ドイツもフリゲート艦の派遣を表明した。ともに自衛隊と共同訓練をする。

中国の海洋進出は日米だけで対処できる問題ではない。自由と民主主義、法の支配といった共通の価値観をもつ欧州との協力が大事になる。

 

 

 

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