台湾有事 備えはあるか@

 

台湾有事、備えはあるか 米中台の軍事力・日本の対処は

 


艦載機の離着艦訓練を実施する中国の空母「遼寧」(2018年4月)=共同

 

菅義偉首相とバイデン米大統領が16日(日本時間17日)の首脳会談でまとめた共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と記した。中国の威嚇的な行動への危機感から52年ぶりに「台湾」に触れた。沖縄県尖閣諸島から170キロメートルに位置する台湾の脅威は日本の安全保障にとって死活問題になる。

1995〜96年、中国は台湾周辺へミサイル発射を繰り返した。96年の台湾総統選で独立派の李登輝氏が選ばれるのをけん制する狙いがあった。米クリントン政権が台湾海峡へ空母2隻を派遣すると、中国は示威行為をやめた。

当時と現在で東アジアの軍事バランスは様変わりした。中国は軍事力を拡大し、米軍の優位は崩れた。

96年時点で中台の国防費は同規模だったが、2000年代に入ると中国は経済成長をテコに急増させた。20年は公表ベースで台湾の16倍を投じている。

台湾は00年時点で、各国が主力と位置づける「第4世代」以降の戦闘機や近代的な駆逐艦の保有数で優勢だった。足元では戦闘機、駆逐艦の数ともに中国が台湾の3倍に達する。

この先も中国軍の増強が続きそうだ。米インド太平洋軍などによると中国の主力戦闘機は25年に1950機と700機増える。現行と変わらないアジア前方の米軍と8倍に差が広がる。

米国防総省の分析では、中国は台湾を射程に収める短距離弾道ミサイルを750〜1500発保有する。95年は50発ほどだった。米領グアムを射程に入れる中距離弾道ミサイル配備の拡充も進める。洋上に浮かぶ米空母を標的にし、対米抑止力と位置づける。

日米も対抗する。米海軍第7艦隊は横須賀基地(神奈川県横須賀市)を母港とし、インド太平洋地域を管轄する。3月に海上自衛隊と軍事演習を実施したが、今のところ中国の行動に歯止めがかかっていない。今月12日に中国の戦闘機など計25機が台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入した。

中国は中国大陸と台湾を1つの国とする「一つの中国」の原則を掲げ、台湾問題を最も重んじる「核心的利益」と主張する立場を変えていない。沖縄から台湾、フィリピンまでを結ぶ「第一列島線」を自国防衛の最低ラインと定める。

米インド太平洋軍司令官は3月の議会証言で、6年以内に中国が台湾に侵攻する可能性があると言及した。バイデン政権は中国の脅威に同盟国と対処する戦略で、日本は一段の協力を求められる覚悟が必要になる。

 

 


 

台湾有事、備えはあるかA

 

「安保の要衝」台湾、日米中に翻弄された歴史

 

 

1972年の日中国交正常化を機に断交する前は日本の要人は台湾を訪れていた(吉田茂元首相が64年2月に訪台し、?介石総統と会談した)=AP共同

安全保障上の要衝に位置する台湾は日米中に翻弄されてきた歴史がある。

1871年、台湾に漂着した宮古島(現沖縄県)の漁民が殺される事件が起きた。現在の外相にあたる外務卿の副島種臣が清へ渡り、清王朝の支配は台湾には及ばないとの言質を得た。

74年、明治政府は台湾に出兵した。「琉球人民の殺害への報復」を名目に正当性を主張し、79年に沖縄県を設置した。94年に始まった日清戦争の結果、台湾の日本帰属が決まる。その後、50年ほどにわたった統治は第2次世界大戦で日本が敗れて終えんした。

1949年に中国国内の「国共内戦」で国民党の蒋介石が中国共産党に敗北し、台湾へ移った。当時のトルーマン米大統領は台湾への不介入声明を発表した。

50年に起きた朝鮮戦争を受け、米政権は介入に踏み切る。米海軍第7艦隊を派遣し、台湾防衛の構築を急いだ。台湾関与を明確にし、55年発効の「米華相互防衛条約」につながった。

転機となったのは69年に誕生したニクソン政権による中国接近だ。71年に国連の代表権が台湾から中国に移り、72年にはニクソン大統領が訪中した。

日米は中国との国交樹立に動き、台湾とは断交した。米国は断交直後に台湾防衛や武器提供などを可能にする「台湾関係法」を制定し、つながりを保った。

トランプ前政権は中国と対立を深め、台湾への武器輸出推進を記した「アジア再保証推進法」を成立させた。バイデン政権は台湾問題に関しては前政権の路線を原則、引き継いでいる。

中国が力による現状変更を試みて台湾を攻撃すれば米国の抑止力低下が世界にさらされる。沖縄県尖閣諸島にも波及しかねず、台湾問題の重みは増している。

 

 


 

台湾有事 備えはあるかB

 

日本の自衛権行使、対処法の整理急務

 

 

台湾で米国と中国が衝突した場合、日本はどういう対処が可能なのか。2015年に成立した安全保障関連法は3つの事態を定める。(1)重要影響事態(2)存立危機事態(3)武力攻撃事態――の順に日本への危機の度合いは重くなる。

重要影響事態は放置すれば日本の安全を脅かす状況を指す。東シナ海と南シナ海の中間に位置する台湾は日本にとって重要なシーレーン(海上交通路)で、日本最西端の沖縄県与那国島から110キロにある。

この海域で緊張が高まれば、日本の平和や安全に重要な影響を与える可能性がある。政府が重要影響事態に認定すれば米軍の後方支援や捜索救助、船舶検査などの活動ができると定める。武力行使との一体化を避けるため、実際に戦闘行為が続いている現場では活動できない。

台湾周辺で米艦への武力攻撃が発生すると危機のステージが上がる。日本と密接な関係にある他国が攻撃を受け、日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合、存立危機事態に認定できる。集団的自衛権の限定的な行使が認められる。

存立危機事態下では有事が発生した地域から在留邦人を輸送する米艦を防護できる。米国を攻撃する弾道ミサイルの迎撃や、海上封鎖の機雷除去も集団的自衛権の行使にあたる。

ミサイル迎撃については2017年の小野寺五典防衛相(当時)の答弁がある。北朝鮮が米領グアム島沖へ向かう弾道ミサイルを撃った場合に集団的自衛権で迎撃が可能と説明した。

過去の国会審議は北朝鮮や中東の有事が中心だった。台湾有事で日本が集団的自衛権をどのように行使できるのか、十分に議論されてきたとは言い難い。

軍ではなく武装した民兵や漁船が侵攻するような「グレーゾーン」の状況は判断が難しい。具体的な仮説を立てて重要影響事態や存立危機事態の扱いを検討するなど綿密な整理が必要になる。

日本が直接的に攻撃を受けるか明白な危険が切迫すれば、国民の生命や自由を覆すと判断して武力攻撃事態となる。上陸を抑止したり飛来するミサイルを迎撃したりすることになる

 

 


 

台湾有事 備えはあるかC

 

半導体の供給リスク、車・電子機器に影響

 

 

半導体の最大の生産地である台湾で有事が起きればサプライチェーン(供給網)が混乱し、電子機器や車の生産への影響は避けられない。米中の貿易摩擦と自動車向け需要の急増で、世界では半導体不足が続いており、台湾依存のリスクは高まっている。

「台湾の半導体受託生産会社が1年間生産を止めると、世界の電子産業は1年間で4900億ドル(約50兆円)の減収に見舞われる」。米国半導体工業会(SIA)が1日に発表した報告書は「極端な仮説」と断ったうえで、半導体の台湾依存への警鐘を鳴らした。

背景には、生産を外部に委託し設計と開発に特化する「ファブライト」路線が米国や日本で進んだことがある。開発と生産を分ける「水平分業」が世界で広がり、台湾企業への生産委託が増えた。

台湾はスマートフォンやデータセンター、車、家電製品向けの半導体の製造能力を急速に伸ばした。受託生産で6割以上のシェアを世界で持つ。半導体受託生産で最大手の台湾積体電路製造(TSMC)は電子機器の関連企業にとって欠かせない調達先となった。

米アップルは「iPhone」やパソコン「Mac」の中核を担うプロセッサーを購入し、米アマゾン・ドット・コムは自社設計したデータセンター向け半導体の生産をTSMCに委託している。有事で調達が滞ればこうした製品の生産が難しくなる可能性がある。

2020年秋ごろに顕在化した車載半導体の供給網の混乱では自動車メーカーが減産に追い込まれ、TSMCに注文が集中し、そのリスクがあらわになった。

国内需要の6割弱を他国からの輸入に頼る日本にとって、台湾は最も大きい輸入元だ。車載半導体に強いルネサスエレクトロニクスも台湾への委託を増やし、国内の生産拠点数を10年前の22から9まで減らした。

ルネサスの主力工場で3月に起きた火災を受け、自動車メーカーの減産が見込まれる。TSMCなど台湾からの調達停止はさらに大きな影響が出かねない。

激しさを増す米中対立などの地政学リスクや災害・気候変動の影響を緩和しようと、各国は半導体の自国生産を促そうとしている。

米国のバイデン政権は半導体の国内生産に向けて500億ドル補助する方針だ。バイデン大統領は12日に半導体メーカーなどの経営者らと安定調達の方策を議論した。日本政府も同日に開いた成長戦略会議で、先端半導体の確実な供給体制の構築を目指すと強調した。

ただ、半導体工場の新設には巨額投資が必要で生産装置も不足気味のため、すぐに生産量を増やすのは難しい状況にある。

 

 

 

もどる