新冷戦、西側vs.中ロは同じ構図に

 

一体化した経済 存続なるか

 

 

ギデオン・ラックマン

 

 

米国、中国、ロシアの政府関係者は、誰もが新たな冷戦への突入は避けたいと言う。だが3月20日付の米ニューヨーク・タイムズには、新冷戦が始まるという懸念に根拠はほとんどないという内容の記事が掲載された。ロシアが東西冷戦時に比べ弱体化していること、中国が技術面で大きな力をつけ、それにより世界での影響力を行使しようとしているとして、現状が1940年代後半とはいかに異なるかを説き、「今日の超大国間の対立は過去の対立との類似点がほとんどない」と論じた。

 

イラスト James Ferguson/Financial Times


確かにこうした相違点はある。しかし、筆者には今日の情勢と冷戦初期の状況がますます酷似しているように思え、不気味にさえ感じる。今回も前回と同様、中国とロシアの枢軸と米政府が率いる西側同盟という対立構造だ。

 

この1年で欧米の対中姿勢変質

バイデン米大統領は3月25日、欧州連合(EU)の首脳会議にオンラインで参加した。ブリンケン米国務長官は24日に北大西洋条約機構(NATO)本部で演説し、中国の軍事的野望とロシアによる「侵略」を阻止するため西側諸国が結束する必要を訴えた。

一方、ロシアのラブロフ外相は22〜23日、中国を訪問し中ロが協力して米国に対抗していくべきだと呼びかけた。

両陣営の緊張は高まっている。中国空軍は26日、台湾の防空識別圏(ADIZ)に戦闘機など20機という過去最大規模で侵入した。また中国政府は新疆ウイグル自治区での人権侵害を非難したEUの政治家に22日から、英国の政治家らには26日から制裁を科した。ロシア政府は、米国による前代未聞の動きがあったとし(編集注、バイデン氏が17日に放送された米ABCテレビによるインタビューでロシアのプーチン大統領を人殺しと思うかと問われ、「そう思う」と答えたことに反発したとされる)、アントノフ駐米大使をロシアに呼び戻した。

18日に米アラスカ州アンカレジで開催されたバイデン政権と中国政府の外交トップによる初協議は公開の場での激しい応酬で始まった。

中国政府は、現在の米中間の緊張の高まりは米政府が中国の台頭を受け入れられずにいることが原因だとしている。確かに米国が覇権の維持にこだわっているという見方には一片の真実がある。

だが中国政府の主張は、中国国内で起きている様々な変化が米欧の対中姿勢を変化させたという重大な要因を無視している。様々な抑圧を強め、習近平(シー・ジンピン)国家主席への人格崇拝をエスカレートさせ、中国の軍事力に物を言わせるような動きを重ねてきたことで、米欧では対中強行論が説得性が増す事態となっている。

前回の冷戦の初期段階でも、西側諸国がソ連に対して募らせていた不信感を決定づけるいくつかの出来事が起きた。その一つが1945〜46年にかけてソ連が東欧にソ連の衛星国とすべく共産主義体制を敷いたことだった。これにより欧米各国はソ連の意図を抜本的に見直すに至った。

この1年、中国政府の香港での民主化運動弾圧に加え、ウイグル族迫害に関するより詳細な実態が明らかになった。米政府は今ではウイグル族迫害をジェノサイド(民族大量虐殺)とみなしている。こうしたことが前回の冷戦と同様に西側の姿勢を変化させてきた。

中国の「戦狼外交」と呼ばれるますます攻撃的な外交も西側諸国の警戒感を強めている。この状況は、ソ連が40年代に西側諸国を非難するような演説をいくつも放った事態を彷彿(ほうふつ)させる。

 

今やイデオロギーを巡る対立に

つい最近まで西ヨーロッパ諸国は、新たな冷戦では米中どちらの陣営にもつかない立場を取るかに思われた。2020年末にEUが中国と包括投資協定の締結で大筋合意した時は、中国政府が米国とEUの間にくさびを打ち込むことに成功したかのようにみえた。だが中国政府が、欧州議会の有力議員らに制裁を科したことで、EUが中国との投資協定を批准する可能性は今や大幅に低下している。

フランスのマクロン大統領が積極的に進めていたEUとロシアの関係修復に向けた動きももはや進展をみせそうにはない。ロシア政府が反体制派指導者のナワリヌイ氏を収監したことに象徴されるようにロシアでの反政府運動に対する弾圧が強まるに従い、これまでの欧州と米国のロシアに対する姿勢の温度差はなくなりつつある。

新たな冷戦も前回と同様、局地的な対立激化の火種となり得る危険地帯がいくつかある。アジアは朝鮮半島と台湾だ。いずれも最初の冷戦時代で解決されないまま今も問題を抱えている。欧州の両陣営の対立の最前線は東部に移動した。ロシアとの対立の焦点は今やベルリンではなくウクライナだ。

米中の対立はトランプ前政権で顕著になったが、前回の冷戦のようなイデオロギー的対立の要素はあまりなかった。トランプ氏は極めて打算的な人物で、対中貿易赤字の削減に注力した。トランプ氏の大統領補佐官(国家安全保障担当)を務めていたボルトン氏によると、トランプ氏は非公式の場ではウイグル族を大規模収容する政策をもっと推進するようにとさえ習氏に言ったという。

だがバイデン政権が発足し、イデオロギー対立が復活している。バイデン氏は大統領就任以前から民主主義国によるサミットの開催に意欲を示しており、その狙いは米国が「自由世界の指導者」であることを改めて主張することなのは明らかだ。

 

問われる一体化した経済の存続

前回の冷戦が始まった時に米大統領だったトルーマン氏とバイデン氏には共通点が多い。どちらも民主党の上院議員と副大統領を歴任し、一時は党内のエリートに評価されなかったものの、本人にとっても意外なことに歴史の転換点ともいえる時期に大統領に就任している。

技術面での力のしのぎ合いも前回の冷戦さながらだ。かつては核技術と宇宙開発を巡る競争だったが、今は高速次世代通信規格「5G」と人工知能(AI)が主戦場だ。

だが、こうした技術面での競争を取り巻く状況は大きく変わった。40年にわたるグローバル化を経て、中国と西側諸国の経済は深く結びつくに至った。今後、大国間の対立が先鋭化しても、一体化した経済を存続させられるのか。これが新冷戦時代を前に我々が今、直面する最大の問題だ。

 

 

 

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