科学&新技術
コロナ後遺症「脳に霧が…」 慢性疲労症候群と関係か
新型コロナウイルスの後遺症に8カ月苦しみ治療を続ける女性(米ニューヨーク)=AP
新型コロナウイルスの感染後に回復したにもかかわらず、様々な後遺症で苦しむ人が相次いでいる。そんななか、「ブレインフォグ」とよぶ脳に霧がかかったような状態を経験する人が少なくない。ただ、ウイルスとの因果関係や発症する仕組みなどに不明な点が多い。米国は本格的な調査に乗り出した。
新型コロナでは様々な後遺症が報告されている。感染症で広く報告される倦怠(けんたい)感や頭痛、呼吸困難に加えて、嗅覚や味覚の異常、睡眠障害、脱毛などがある。新型コロナの感染拡大がいまだに収まらないなか、後遺症の研究や対策が後手に回っている。
ブレインフォグは頭の中に霧がかかったような状態で、考えたり集中したりするのが難しくなる。日本神経学会理事の下畑享良・岐阜大教授は「臨床医にとってなじみの薄い用語だ」と話す。正式な病名ではなく、あくまでも患者が訴える自覚症状だ。新型コロナウイルス感染症に関する論文報告などでたびたび使われるようになり、注目を集めている。
海外では新型コロナの後遺症として研究が進んでいる。米科学誌サイエンスに2020年8月に掲載された記事は、新型コロナ感染後の長引く症状の一つとしてブレインフォグを挙げた。ウイルスによる脳細胞のダメージや、脳や全身での炎症が神経症状につながる可能性を指摘する。
発生する頻度の報告も出てきた。ワシントン大学の研究チームは軽症者を主に含む患者177人を対象に感染から約6カ月後の状況を調べた。約3割の患者で症状が続いており、全体の2.3%にあたる4人がブレインフォグを訴えた。感染後に長引く症状について岐阜大の下畑教授は「疲労や不眠症、めまいなどのブレインフォグに関連する症状は高い頻度に報告されている」と指摘する。
国立精神・神経医療研究センター神経研究所の山村隆・特任研究部長は新型コロナ回復者や感染疑いのあった人で、ブレインフォグを訴える患者の治療にあたる。山村特任研究部長は「ブレインフォグは筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の重要な症状のひとつ」とみている。
ME/CFSは著しい疲労や睡眠障害などが6カ月以上続く。国内には8万〜24万人の患者がいるとされる。患者が多いにもかかわらず、原因など分からない点が多いうえ、効果的な治療法はまだ確立していない。山村特任研究部長らは、脳や血液の検査を用いてコロナ感染後の状態とME/CFSとの関連を調べていくという。
また日本は米国などと比べてME/CFSなどの診断や治療をできる医療体制が乏しいという。新型コロナに関連するブレインフォグなどの症状も見つかりにくい可能性がある。大阪市立大学の倉恒弘彦客員教授は「全国で診断や治療を行える体制を整えていく必要がある」と話す。
新型コロナウイルスの電子顕微鏡写真(米国立アレルギー感染症研究所提供)
ブレインフォグを含む新型コロナに関連した神経症状の発症の仕組みはよく分かっていない。脳の細胞には新型コロナが感染する足がかりになるたんぱく質があり、肺と同じように感染しやすいとの研究報告もある。
それでも本当に患者の脳がウイルスに感染し、急性や慢性の症状を引き起こしているのか研究は途上だ。下畑教授によると、ウイルスの神経細胞への感染のほか、血液と脳を隔てる血液脳関門や血管内皮の異常などが関係するとの推測もあるという。
こうしたなかで研究も本格的に始まった。米ニューヨーク大学ランゴーン医療センターは米国立衛生研究所傘下の国立神経疾患・脳卒中研究所の支援のもと、新型コロナに関連する神経症状を追跡するためのデータベースを立ち上げた。匿名化された臨床情報や検体を集める。発症頻度や機序の解明に役立つ可能性があるという。
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