大坂なおみの器の大きさ コート外でもリーダーに

 

 

全豪オープンで優勝し、四大大会通算4勝目をマークした大坂=ロイター

 

「人間的な大きさが自然と出ている。真のトップアスリートだよね。我々からすると遠い存在になっちゃったというか、日本人アスリートがこういうこともできるようになったんだなぁ」。テニスの全豪オープン決勝前、大坂なおみ(23、日清食品)について、土橋登志久・日本テニス協会強化本部長はしみじみと語った。 

試合中にかんしゃくを起こしてラケットを放ったり、投げやりな態度でプレーしたり。1年前の2020年2月、フェド杯(現ビリー・ジーン・キング杯)予選のスペイン戦で大坂はそんな姿をさらした。

「近い人(米プロバスケットボールNBA元プレーヤーのコービー・ブライアントさん)の悲しい出来事があって、自分をコントロールできなくなっていた。あの後、みんなで食事に行って、一体感が生まれたのが収穫だった。それからのコロナ禍で自分を見つめ直して大きく変わった。ここが大坂なおみの魅力の一つ」。土橋本部長は当時をこう振り返る。

コロナ禍によるツアー中断が8月に明けると、大坂は人権活動家としての顔を見せ始めた。もともと問題意識があったとしても、テニスと関係ないことに対して発言するのは勇気がいる。それでも「Black Lives Matter(黒人の命も大事だ)」運動について発信を続けながら、本職でも9月の全米オープンで優勝。そのインパクトは日本では想像できないほど大きく、昨季は数々のスポーツ賞を手にした。

21年に入って実力に磨きがかかり、四大大会初戦の全豪オープンを制した。四大大会通算4勝目となり、女子の現役選手ではセリーナ・ウィリアムズ(39)の23勝、姉のビーナス(40、ともに米国)の7勝に次いで3番目に多い。

全豪オープンで優勝を果たし、記者会見に臨む大坂=ロイター

全豪の前に米女子プロサッカーチームに投資、共同オーナーになって話題を集めた。「女性スポーツを応援したい」という思いからだったが、何かを訴えることは特になかった。昨年の全米での反響の大きさに怖くなったという。「今までスポーツ以外でこんなに注目されたことはなかったから。全く知らない話題についても次々と聞かれるようになった。ほんの少しでも知識があるならいいけれど。今回はテニスだけを考えていた」

ところが大会を目前にして、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長による女性蔑視発言問題が生じた。海外メディアはこぞって大坂に質問した。「彼は辞任すべきか?」

「私はテニス選手だから」とかわしつつ、「こういう発言はとても無知だし、彼のような立場の人は何か発する前に考えるべきだし、周りの人は注意すべきだった」と大坂。辞任が発表されると、「以前はそういうものだと受け入れていた多くのことを、新しい世代は我慢しない。前進したという点ではいいこと。特に女性にとって、壁が崩れた。私たちはただ平等であるためだけに、まだ多くのことで戦わなければいけないけれど」。

ファンにサインする大坂(右から2人目)=テニスオーストラリア提供・AP

現役アスリートがこれだけ明確に意見を述べた意味は大きい。これまでも海外を舞台に活躍した日本人アスリートは少なくないが、大坂のように米紙ニューヨーク・タイムズ、米スポーツ専門局ESPN、英BBCなど海外の大手メディアに大会のたびに質問され、その言葉を世界に向けて報道してもらえる者はほぼいなかっただろう。

ロジャー・フェデラー(スイス)、ラファエル・ナダル(スペイン)、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、女子ならセリーナ、マリア・シャラポワ(ロシア、20年引退)……。実力、知名度、資金力を備えたテニスのトップ選手は様々な問題について意見を求められ、報じられてきた。彼らは米経済誌フォーブスの「最も稼いだアスリートトップ100」の常連でもある。

大坂は20年版の同誌で史上最も稼いだ女性アスリートと発表された。男女合わせた同年のランキングでも29位(3740万j=約39億円)に入った。サッカー、バスケットボール、アメリカンフットボールの選手が100人中80人を占める中、女性アスリートはセリーナと2人しかいない。

大坂は今後、オピニオンリーダーとしての立場をより求められていくだろう。女子テニス協会(WTA)創設者のキングさんが折に触れ、大坂にアドバイスするのは期待の表れであり、英才教育≠フ一環ともいえる。

決勝を終え、ボールキッズとともにポーズをとる大坂=ロイター

既に国際テニス殿堂に自動的に選ばれる資格(四大大会3勝、世界ランキング1位13週以上)を満たしたが、全仏オープン、ウィンブルドン選手権も勝ってこそ「超一流」という声も多い。大坂はグランドスラムを意識しつつ、もっと大きな目標も持つ。

「私にいま憧れている女の子と対戦できるくらい長くプレーしたい。李娜(中国)とはできなかったけれど、ずっと憧れていた人(セリーナ)と試合をするのってほんと最高だから」。それまでずっとコートの上でも外でも「子供たちをインスパイア(刺激)し続ける存在でいたい」。

テニスだけでなくコートの外でも器の大きさを示しつつある大坂。今度は何をしてくれるのか? 世界中のファンが楽しみにし、メディアが追いかける。

 

 

 

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