21世紀の今後を決める1年

 

 

ハビエル・ソラナ氏 スペインESADE世界経済・地政学センター長

 

いまから20年前に21世紀を迎えた時には、新しい時代への期待が高まり、特に西側諸国は大胆不敵にみえた。ところが(長い歴史からみれば)一瞬で、時代の精神は根本的に変わってしまった。21世紀は大半の人にとって、いら立ちと幻滅の時代になっている。多くの人が自信ではなく、恐怖を抱きながら将来に目を向ける。

 

Javier Solana 北大西洋条約機構(NATO)事務総長、欧州連合(EU)共通外交・安全保障上級代表など歴任。ビジネススクールESADEで現職。

 

20年前は、さまざまな問題に対する答えは、グローバル化の進展だった。正当でたたえるべき目標だったが、我々は必要な安全装置の組み込みに失敗した。2008年の金融危機や新型コロナウイルスの感染拡大のような惨事は、世界の相互依存がリスクを高めることを示した。専門化と超効率化は、脆弱さの源泉になりうる。

ドナルド・トランプ氏は、2000年の米大統領選に第3党の改革党からの出馬を検討した。トランプ氏が16年に共和党の大統領候補となり、同党を反自由貿易に導き、大統領選にも勝利すると予想した者はほとんどいなかっただろう。「各国は、貿易相手国の利益を自国の損失とみなす」というようなアダム・スミスの「国富論」の警告が、予言に思われてくる。

21世紀への変わり目では、米国が嫉妬や不安に屈するようにはみえなかった。米同時多発テロは、まだ起きていない。ロシアは主要8カ国(G8)の一員で、北朝鮮は現在にもつながる核拡散防止条約(NPT)脱退を宣言しておらず、イランの秘密の核開発計画も明るみに出ていなかった。経済で米国に後れをとっていた中国が、世界貿易機関(WTO)に加盟したのは01年12月になってからだ。

世界の二酸化炭素(CO2)排出量は、新型コロナの影響を除けば、増加傾向が続く。北極の氷の面積は小さくなり、気候変動が現実に目に見えるようになった。政治参加に積極的な21世紀生まれの若者は、早急に解決策を求める。

20年の間に、他者とのかかわり方にもかつてないほどの革命が起きた。インターネットが普及し、SNS(交流サイト)が現代の広場になった。期待された成果は得られなかったものの、10年代はじめの中東に広がった民主化要求運動「アラブの春」は、新技術が民主化をもたらす可能性を示す。

ただ、SNSなどで自分と同じ意見だけが耳に入る「エコーチェンバー(反響室)効果」が生じ、公の議論を荒廃させてきた。デジタル空間は、サイバー攻撃や大規模な偽情報の流布を含む「ハイブリッド戦争」を専門とする、破壊的な者の温床になっている。

欧州ではデジタル化の暗黒面として、移民排斥的なポピュリズム(大衆迎合主義)が前面に押し出され、二極化が社会をむしばむ。21世紀初頭の楽観主義は、ユーロ危機から英国の欧州連合(EU)離脱まで、ほぼ恒常的な非常事態へとかたちを変えた。大西洋から太平洋へと経済的・地政学的な力の移行が続いているいまこそ、緊密な連携が必要なのにもかかわらず、分断は鮮明になっている。

事実と反対のシナリオを検証することで、視野を広げ、改善が可能になる。中国による刺激がなければ、世界経済は不況から回復できただろうか。コロナ危機が20年前に発生していたらどうなっていただろうか。当時は、社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保ちながら多くの産業を守る情報・通信技術は存在しなかった。

今後は、地政学的な多極性と人類の進歩を保証する国際的な平和協力を、両立させる必要がある。また、自然との持続可能な均衡を実現し、デジタル社会の亀裂を修復しなければならない。困難だが、管理可能な課題だ。21年が激動の世紀における学習の瞬間として記憶されるのか、一層の事態悪化の前奏曲として記憶されるのか。決めるのは我々だ。

 

 

 

理想と現実の両立

自信満々から幻滅へ――確かに20年で世界は一変した。20世紀前半を思い起こさせるほどの大きな変化だ。当時、人類は途方もない犠牲を出した第1次世界大戦への反省から、新たな国際協調のしくみを求めた。だが、選択を誤り、再び世界大戦を起こした。

ジェットコースターに乗ったかのような成り行きを、英国の歴史・政治学者、E・H・カーは、著書「危機の二十年」(原彬久訳)に記した。自由と平等を掲げる国際連盟の理想を、国同士の対立など現実が打ち砕いた。その様子を「夢想的な願望から容赦ない絶望への急降下」と表現して、理想と現実を両立する方策を探した。

この20年、徐々に現実が理想を圧してきた。自国第一主義や保護主義が広がり、国同士の融和を妨げ、国際秩序がぐらついている。バイデン米大統領が国際協調に戻ると宣言したのは一筋の光だ。内外の対立は根深く、再建は簡単ではない。だが、ソラナ氏がいうような「両立の道」を一歩ずつたどるしかない。そうしないと、もっと暗い時代がやってくる。

 

 

 

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