FTの2021年大予測 新型コロナ、終息するか
世界のどれだけの人が新型コロナウイルスのワクチン接種を受けられるのか。米中の対立は局面が変わるのか。米国の巨大テック企業の時価総額はどこまで膨らむのか。FTの筆者が2021年を大胆に予測する。
1.世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの「公衆衛生上の緊急事態」の終息を宣言するか?
欧米各国では新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった(写真はスペインの介護施設で接種を受けるスタッフ)=ロイター
しない。WHOは2020年1月30日、最高レベルの警戒にあたる「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言した。宣言した時点の新型コロナウイルスの感染者数は100人に満たず、中国以外では死者はいなかった。21年末までにPHEICの終息を宣言できれば、科学や医学、国際政治にとっての大勝利となる。これを達成するには、ワクチン接種キャンペーンからソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保の継続に至るまであらゆる策が奏功する必要がある。現時点では新型コロナによる1日当たりの世界の死者数は1万人前後で推移している。12月にはこの数字が大きく減っているのはほぼ確実だが、パンデミック(世界的大流行)が正式に終息するほど低い水準ではないだろう。
by サイエンス・エディター クライブ・クックソン
2. 世界の成人人口50億人の大半がワクチンを接種できるか?
できない。各国政府の責任者や保健当局トップは、ワクチンを世界各国に配布できさえすれば感染拡大を食い止められるという考えに取りつかれている。だが、どれほどの国民が接種できるかという点でも豊かな国と貧しい国との格差があらわになるだろう。この差を埋める取り組みは既に進んでおり、新型コロナのワクチンを世界各国で共同購入し公平に分配することを目指す国際的枠組み「COVAX(コバックス)」が、複数の合意を取り付けたことで20億回分近くを確保できる方向だ。しかし、物流面の難しさや資金不足により一部の貧しい国では多くの市民への接種は難航するだろう。英国や米国でさえ、ワクチン接種の実現が21年の重要な課題であるにもかかわらず、市民の間に広がるワクチン接種への抵抗感が障害となって、大部分の市民を守るという取り組みは順調には進まないだろう。
by 薬品担当エディター サラ・ネヴィル
3. 英与党・保守党は最大野党・労働党に対し明らかなリードを取り戻せるか?
ジョンソン英首相は12月24日にようやくEU(欧州連合)と自由貿易協定を結ぶことで合意した=ロイター
取り戻せない。英国最大野党の労働党は、キア・スターマー党首の「ニューマネジメント」が好感され、男女双方のあらゆる年齢層で支持が増加している。もっとも、英有権者が欧州連合(EU)からの離脱とパンデミックに伴う負の影響は現政府のせいだと受け止めない限り、労働党が明らかなリードを確保するのは簡単ではないだろう。評論家や世論調査各社はこの点について、ボリス・ジョンソン英首相がさらけ出した数々の無能ぶりにもかかわらず、新型コロナの問題は誰が首相であっても極めて厄介な問題だと受け止められているためではないかとみている。5月の統一地方選挙は国民が我慢の限界に達しているかどうかを測る試金石になるだろう。
by デピュティ・オピニオン・エディター ミランダ・グリーン
4.スコットランドで英国からの独立を問う住民投票は実施されるか?
スコットランド民族党(SNP)のニコラ・スタージョン党首は独立に向けた政治的圧力を強めていくだろう=ロイター
21年には実施されない。しかし、21年に予定されているスコットランド議会選挙ではスコットランド民族党(SNP)が過半数を獲得する可能性が高く、実際にそうなった場合には住民投票再実施の要求が高まり、英国は憲法の危機に陥るだろう。合法的な住民投票の実施には英議会の承認が必要であり、ジョンソン首相は当初は拒否するだろう。SNPのニコラ・スタージョン党首はEU再加盟を望んでいることから、非合法的な住民投票を求める意見をはねつけている。このため、スタージョン氏が2〜3年以内に住民投票を実施できるよう政治的圧力を強めていく取り組みが21年の焦点になる。
by 英ポリティカル・コメンテーター ロバート・シュリムズリー
5.ドイツでは緑の党が次の連立政権入りを果たすか?
ドイツの緑の党の共同党首ロベルト・ハベック氏はカリスマ性があるとされる=ロイター
果たす。9月26日に実施されるドイツ連邦議会(下院)選挙後に、緑の党抜きの連立政権発足は考えられない。カリスマ性があるロベルト・ハベック共同党首を擁する緑の党は、左派政党と組むほうが政策面では安定するかもしれないが、それでは過半数を確保できない。このため、今や中道を行く緑の党は、現在の最大与党である中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)と連立を組むだろう。CDUは間もなく絶大な支持を誇るアンゲラ・メルケル首相を頼りにできなくなる。メルケル氏は9月の下院選挙をもって政界を引退するからだ。CDUは次の党首にアーミン・ラシェット副党首を選ぶだろう。だがラシェット氏の支持率が下がれば、緑の党はもっと人気が高く、環境保護にも熱心な南部バイエルン州の州首相で、CDUの姉妹政党である社会同盟(CSU)の党首でもあるマルクス・ゼーダー氏に中道右派陣営を率いるよう支持するだろう。
by ヨーロッパ・エディター ベン・ホールl
6.欧州委員会は「法の支配」に反した国への復興基金の拠出を差し止めるか?
差し止めない。欧州委員会はまずはEU予算で、新たな「法の支配」条項の適用指針を示す必要がある。この新条項により欧州委員会は法の支配に反した国への資金の拠出を削減または凍結できるようになり、予算の拠出に「直接」影響を及ぼせるようになる。もっとも、この仕組みはEUの最高裁判所にあたる欧州司法裁判所(ECJ)に合法だと認められなければ適用できない。ECJが緊急度の高い問題として認識し、通常よりも速やかな判断を下すことに期待する向きもあるが、実際に判断が下されるまでには数カ月から1年以上かかりそうだ。この条項は「非リベラルな民主主義」を掲げるハンガリーのオルバン首相を基本的に対象としているが、ECJが判断を下すのに時間がかかるため、オルバン氏には22年の議会選挙までその防御策をじっくり練る余裕がある。
by パリ支局長 アン=シルベーヌ・シャサニー
7.バイデン次期米大統領はレームダック政権になるか?
ならない。米民主党のバイデン次期大統領が、共和党が過半数を握る上院で大胆な改革を成立させるのは難しいだろう。だが、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰や、メキシコとの国境に建設中の壁の工事の打ち切り、連邦政府による一貫性のあるコロナ対策の策定など、外交政策や大統領令を通じて動く余地は大いにある。運が良ければ、大統領選でスローガンに掲げた「より良い再建」を果たすために、2兆ドル(約206兆円)規模の経済刺激策の成立に必要な共和党議員2〜3人の離反票も引き出せるだろう。もっとも、これは当てにならない。
by USナショナル・エディター エド・ルース
8.米中は貿易合意に達するか?
達しない。バイデン次期政権と中国政府の融和に向けた機運は大いに高まるだろうが、世界貿易機関(WTO)違反を巡る対立から労働基準や環境基準を巡る対立、さらには米中の巨大テック各社やデジタル経済に関する規制のあり方まで、米中間に横たわる根本的問題は全く解決されそうもない。バイデン氏は(22年の)中間選挙前に、民主党と共和党の支持が拮抗し、選挙のたびにどちらの党が勝つのかわからない「スイングステート(揺れる州)」の支持を失うのを恐れているため、中国に弱腰とみられるような姿勢をとる余裕はない。一方、中国は習近平(シー・ジンピン)国家主席の下、35年までに米国のテクノロジーとサプライチェーン(供給網)に影響されない独自の体制を築く方針を表明している。この「世界に2つのシステムが存在する分断」は今後も拡大していくだろう。
by グローバル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハー
9.香港で大規模な反政府デモは再び起きるか?
起きない。中国が20年に香港での反体制活動を禁じる「香港国家安全維持法」を施行したことで、香港市民はデモに参加しても何か効果を上げることはもはや見込めなくなった。21年に中国政府による香港の統制強化に反対するデモはまばらに起こるかもしれないが、それが大規模化し、長期にわたって続くとは思えない。この新しい法律では「国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託」を犯罪と規定しており、最も重い量刑は終身刑となる。警察部隊は少しでも騒動が起これば直ちに駆けつけるようになった。
by グローバル・チャイナ・エディター ジェームス・キング
10.インド経済はコロナ前の規模を回復するか?
回復する。インドは新型コロナ感染拡大に伴う厳しいロックダウン(都市封鎖)で大きな打撃を受けた。20年4〜6月期の国内総生産(GDP)伸び率は前年同期比マイナス24%と過去最悪の水準を記録した。20年通年の経済成長率はマイナス9%になったと見られるが、21年はプラス10%と挽回する見通しだ。ただ、経済が回復する過程では資金力のある大手企業が零細事業者から市場シェアを奪うなど大きな経済的な混乱を引き起こしてきた。数字の上では堅調な回復をみせても、多くの家庭や零細事業者はなお苦境にあえぐこととなり、長期的に成長の足を引っ張る恐れがある。
by サウス・アジア支局長 エイミー・カズミン
11.ベネズエラのマドゥロ大統領は存続するか?
ベネズエラのマドゥロ大統領が今や恐れるのは側近によるクーデターだけだという=ロイター
存続する。ニコラス・マドゥロ氏はベネズエラを平時としては最悪の水準の経済危機に陥れ、GDPはこの5年間で75%減少した。だが不正に操作した選挙で国会を掌握し、体制を強化させている。野党指導者のフアン・グアイド国会議長はマドゥロ氏追放に失敗して威信を失い、もはや深刻な脅威ではなくなった。ロシア、中国、イラン、キューバが現政権の強力な後ろ盾となっていることから、マドゥロ氏が唯一、本当に心配しているのは、側近によるクーデターだ。そのため、同氏はよく訓練された多数のキューバ人護衛を付けている。
by ラテン・アメリカ・エディター マイケル・ストット
12. 米国は15年のイラン核合意に復帰するか?
復帰する。バイデン次期大統領はイランが「完全に順守した状態」に戻るなら、米政府は核合意に復帰すると述べている。イランのハサン・ロウハニ大統領は、米国が経済制裁を解除するのであれば、合意に従って核活動を制限するとしている。両者には共にこれを実現させたい政治的動機がある。ロウハニ氏は核合意の枠組みを立案した本人であるうえ、その結果によって自らのレガシー(政治的功績)が決まる。バイデン次期政権には15年に核合意にこぎ着けた時の交渉関係者が多くおり、トランプ米大統領による離脱の判断を覆したいと考えるだろう。もっとも、米国の復帰には多くの障害が立ちはだかる。6月のイラン大統領選で予想されている通り強硬派が勝利すれば、状況はさらに複雑になるだろう。
by 中東エディター アンドリュー・イングランド
13.エチオピアのアビー首相は再選を果たすか?
再選は果たすが、エチオピアの状況は一触即発だ。アビー・アハメド首相は21年に総選挙を実施すると約束している。新型コロナの感染拡大を理由に(20年に予定されていた)選挙を延期したことで北部ティグレ州を率いるティグレ人民解放戦線(TPLF)が反発し、衝突に発展した。TPLFは27年間、エオピア政権を主導し、エチオピアの20年に及ぶ2ケタ近い経済成長を支えた。アビー氏はティグレ州に軍を派遣して反乱を鎮圧したが、今度は自治拡大を求める他の地域からの不満に直面している。19年にノーベル平和賞を受賞し、就任当初は絶賛されたアビー氏の評価は薄れつつある。だが同氏は再選を果たし、自由経済と統一国家という自らのビジョンを強力に推進していくだろう。
エチオピアのアビー首相は19年にノーベル平和賞を受賞した=ロイター
by アフリカ・エディター デイビッド・ピリング
14. 米企業で非白人の取締役は増えるか?
増えない。米国の人種差別問題は20年に企業の取締役にまで波及した。活動家らは人種差別対策の強化を約束した企業幹部に対し、自分たち取締役がいかに白人中心になっているかその現実に目を向けるよう求めた。米議決権行使助言会社インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)によると、米ラッセル3000社の取締役のうち、少数民族・人種が占める比率は12.5%にとどまる。これは、米人口のうちマイノリティーに区分される国民が40%に上ることを考えるとかなり少ない。米証券取引所ナスダックやカリフォルニア州、そして一部の機関投資家は今や企業に取締役のさらなる多様化を求めている。ならば21年にこの数字は15%に上昇するだろうか、とは期待しすぎない方がいい。変化のスピードは従来よりも速まるものの、多くが期待するほどではない。
by USビジネス・エディター アンドリュー・エドクリフ=ジョンソン
15. 21年は電気自動車(EV)の転換点になるか?
なる。これまで中国政府が補助金を提供するたびにEVの販売が急増し、EV時代の始まりを予感させたが、補助金を減らすと販売も落ち込むという状況が繰り返されてきた。だがディーゼル車の人気が衰退するのに従い、ドイツや北欧ではEVの人気が高まっている。米金融大手モルガン・スタンレーは、21年の世界のEV販売台数は前年比50%以上増えると予測する。国際エネルギー機関(IEA)は20年の全自動車販売台数に占めるEVの割合を3.2%と推測しており、(モルガン・スタンレーの予測が実現すれば)21年にはこれが5%に迫ることになる。
by ビジネス・コラムニスト ジョン・ギャッパー
16.米巨大テック5社の時価総額は計8兆ドルを超えるか?
アマゾン、アップル、フェイスブック、アルファベット、マイクロソフトは膨張は続くのか=ロイター
超える。米巨大テック企業は数年間にわたって株式相場の上昇をけん引する一方で、規制当局には包囲されつつあることから、そろそろ投資対象から外すべきだと考える向きがあるかもしれない。だがアップル、マイクロソフト、アマゾン・ドット・コム、グーグルの親会社であるアルファベット、フェイスブックの5社は、大半の企業よりも良好な状態で新型コロナ危機を乗り越えており、アマゾンのジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)の資産は膨れ上がっている。世界がパンデミックを何とか克服しようとあえぐなか、21年の5社の合計売上高が前年比1600億ドル増える(13%増)との見通しは異彩を放つ。投資家はカネ余りで運用先を探しているため、これほどの規模の成長予測には抗えないだろう。
by 米ウエストコースト・エディター リチャード・ウォーターズ
17.欧州のオフィスワーカーの半数以上が出勤を再開するか?
再開する。多くのオフィスワーカーはロックダウンで在宅勤務を好んだが、家が狭い人や休校中の子どもに家で勉強を教えなくてはならなかった人にとっては、それほどバラ色の生活ではなかった。モルガン・スタンレーが欧州5カ国の労働者を対象に定期的に実施している調査では、夏以降に全く在宅勤務をしていない人は28〜30%だった。将来的には在宅勤務を望まないと答えた人は11〜14%に上った。大半は少なくとも週1日の在宅勤務を望んでおり、それを選ぶ権利はある。だがワクチン接種が可能になれば、半数以上が週5日のうち2日以上は出勤することになるだろう。出勤を楽しむ人さえ一部出てくるかもしれない。
by マネジメント・エディター アンドリュー・ヒル
18. 米S&P500種株価指数は4000を超えるか?
超える。20年は各国の中央銀行や政府の大盤振る舞いのおかげで、投資家の景況感を測るこの世界的な指標は年初から約15%高と大幅に伸びた。ワクチンの供給開始によって、20年3月以降は出遅れていたエネルギーや金融関連の銘柄にも上昇余地があるうえ、人気のハイテク企業各社の業績に深刻な打撃が及ぶとも思えない。このため、現在の水準から9%上昇することも十分あり得るだろう。主なリスクは債券利回りを上昇(価格を下落)させるインフレや、政策立案者による性急な支援打ち切りを示唆する発信、規制強化によるテック企業への深刻な打撃だ。
by マーケッツ・エディター ケイティ・マーティン
19. 世界の二酸化炭素(CO2)排出量はコロナ前の水準に戻るか?
中国でのCO2排出量はいったん減ったが、既に元の水準に戻りつつあるという(写真は2018年の北京)=ロイター
戻る。新型コロナの感染拡大により世界の経済活動はまひ状態に陥り、20年のCO2排出量は推定で前年比7%減と第2次世界大戦以降で最大の下落幅を記録する見通しだ。だが、1日当たりの排出量は既に19年末の水準に戻りつつあり、特に世界の排出量の4分の1以上を占める中国で著しい。EUは新型コロナによる経済低迷を環境投資で乗り越える「グリーン・リカバリー(緑の復興)」を目指すが、他の経済大国の景気刺激策はいまだに化石燃料を使う産業への支援が中心だ。21年11月に英グラスゴーで開く第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を前に各国は排出削減目標を打ち出してくるだろうが、08年の金融危機後と同様に排出量は元に戻るだろう。
by ビジネス・コラムニスト ピラタ・クラーク
20. 原油価格は1バレル50ドルを維持するか?
維持する。新型コロナのワクチン接種が始まったことへの期待から、原油相場は上昇基調にある。しかし、数カ月に及ぶロックダウンと旅行の禁止で原油の消費量と価格は壊滅的な打撃を受けてきただけに、この明るい見通しは続くだろうか。世界経済の回復に伴い、原油消費量は増えていくだろう。このため過去最大の協調減産に踏み切った石油輸出国機構(OPEC)加盟国およびロシアなど非加盟の主要産油国で構成する「OPECプラス」が減産規模の縮小に踏み切っても、(増産分は消費増加によって)相殺されるだろう。OPECプラスの結束は強くはなさそうだが、最悪のシナリオは何百万バレルもの原油が勝手に供給されるような計画だ。価格が再び暴落するのを避けるため、産油国は需要回復にあわせて段階的に減産幅を縮小していくことになるだろう。
by ニシア・エネルギー特派員 アンジリ・ラヴェル