時論・創論・複眼

 

コロナ第3波 何すべき

 

 

忽那賢志氏/浜田篤郎氏/塚本容子氏/渋谷健司氏

 

 

新型コロナウイルス感染症の流行の「第3波」が到来した。全国の重症者数や新規感染者は過去最多を記録した。北海道や大阪では病床の使用率が上昇し、医療体制が逼迫する状況もみられる。感染の広がりを抑え込むために、今取り組むべき策は何か。4人の識者に聞いた。

 

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■GoTo停止 拡大急げ 国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長 忽那賢志氏

くつな・さとし 山口大医学部卒、2018年から現職。専門は感染症。著書に「症例から学ぶ 輸入感染症 A to Z ver2」

政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」の一時停止措置の効果が出るのは早くても2週間先になる。それまでは新型コロナウイルスの感染者は増え続けるだろう。

第2波の際も、飲食店に営業時間の短縮を要請することなどで感染者数は減少した。ただ今は気温が低く空気も乾燥しているため、感染が広がりやすい。札幌市と大阪市の一時除外だけでは感染を抑え込むには十分ではないかもしれない。効果を見極め、早めに追加の対策を打つべきだ。

これまでと違い、高齢の感染者が増えており、重症者が増える可能性が高い。全国的に医療機関への負担が急激に高まっている。1カ月もしないうちに、通常の診療が提供できなくなる恐れがある。

海外では心臓のカテーテル検査や心筋梗塞、がん患者の数が減ったとの報告がある。患者が減ったのではなく、本来提供すべき医療が提供できなくなることで見逃されている可能性が高い。がんは発見が遅れると手遅れになってしまう。医療崩壊の影響は大きい。

職場の食事や会食で感染し、それを家庭に持ち帰っているケースが多い。会食はなるべく避けた方がよい。年末年始で人と会う機会も増えるだろうが、今年は我慢の年と考えるべきだ。極力、人との接触を避けてほしい。

1人の感染者が何人にウイルスをうつすかを示す「実効再生産数」が1を下回らない限り、感染は拡大し続ける。自然にピークをむかえて感染者が減っていくことはない。実効再生産数を減らすには、政府の介入だけでなく、個人でできる対策にも力を入れるべきだ。

マスクの着用や手洗い、うがい、「3密」を避けることなど対策は変わっていない。ただ、最初の流行から時間がたち、新型コロナに慣れ、油断につながった部分があると感じる。精神的ストレスによる「コロナ疲れ」も出てきている。

若い人は感染しても重症化することはまれなため、「風邪みたいなものだろう」と考えてしまいがちだ。改めて感染対策を徹底してほしい。

 

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■帰国者の検疫・追跡確実に 東京医科大学教授 浜田篤郎氏

はまだ・あつお 1981年東京慈恵会医科大卒、同大講師を経て2010年から現職。東京医科大病院渡航者医療センター部長。

北半球の温帯地域全体で、新型コロナウイルスの感染が拡大している。冬本番を迎え、国内の感染者もさらに増えるだろう。このままだと人が集まりやすい年末年始を経て、1〜2月ごろにピークを迎えるのではないか。

現在の第3波は夏の第2波以降、国内にくすぶっていたウイルスによる感染が再燃したとみられる。今後は渡航制限の緩和で欧米のウイルスが新たに入り、まん延する可能性もある。

相手国の状況を見極めたうえで、2国間合意で渡航制限を緩和するのは問題ない。だが、政府が11月から実施した短期の海外出張者全般に対する緩和措置は、感染者が検疫をすり抜ける恐れがあるので心配だ。

新たな措置は1週間以内の海外出張者に対し、出張先を出る前や日本入国時の検査で陰性なら2週間の自宅待機を求めない。この間、公共交通機関を使わず活動計画を提出するよう要請するが、すべての人が従うとは限らない。

出張期間の最後の方で感染した場合、検査で陽性にならない人も多いだろう。入国時に陰性でも、帰国から1週間の自宅待機後、改めて検査するといった対策を考えるべきだ。

医療機関の多くは2週間以内に海外渡航歴のある人に受診を控えるよう求めているため、帰国後の受診や検査は難しい。多少、精度の問題はあるかもしれないが、唾液を採取して郵送で検査を受けられるサービスの活用も一つの手だ。

渡航前の検査は、日本渡航医学会が進めてきた協力医療機関の情報集約などを政府の海外渡航者新型コロナウイルス検査センター(TeCOT)に移管した。渡航医学会と日本産業衛生学会は職場向け感染症対策ガイドを作った。12月には改訂版を出す予定で、短期出張を含む渡航制限の緩和に企業がどう対応したらよいかも盛り込む。

渡航制限緩和の影響がどの程度になるかは、ここ1、2カ月の感染動向で明らかになってくる。大きく増えるようなら、再び国境を閉める措置も考えざるを得ない。感染を広げないためにはスピードが勝負だ。

 

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■クラスター対策は限界 北海道医療大学教授 塚本容子氏

つかもと・ようこ 千葉大看護学部卒、米サウスカロライナ大修士、米スタンフォード大博士(公衆衛生学)。2009年から現職。

これまで日本の新型コロナウイルス感染抑止の柱だった感染者集団(クラスター)対策が北海道では限界を迎えている。10月末から札幌市を中心にクラスターが発生し、約1カ月かけて全道全域に広がった。発生場所も飲食店のほか、職場や学校、医療機関や高齢者施設に広がっている。

クラスターの数が増えたことに加え、北海道は地理的に広い。保健所などの人員に制約があり、現状では全てのクラスターを追いきれなくなっている。

感染が北海道全域に広がった理由として、心理的な側面が大きいのではないか。「札幌が危ない。ススキノが危ない」と聞くと、そこに行かなければ大丈夫と思うのが人の心理だ。

例えば函館市内では11月上旬、ほぼ満員にもかかわらず窓を開けて換気をしていない路線バスがあった。3分の1程度の乗客はマスクをしていなかった。札幌市と違って感染者が少ないから大丈夫との気の緩みから感染が拡大したのではないか。どこが危ないと伝えるのではなく「こういう感染経路が危ない」と発信の仕方を変える必要がある。

比較的人口の多い札幌市や旭川市、函館市、帯広市ではコロナ患者用の病床にほぼ余裕がなく、自宅で療養する人も多い。入院が必要な患者がさらに増えると立ちゆかなくなる。

コロナ患者用の病床拡充は容易ではない。冬場は体調を崩す高齢者が多く、入院患者数が多い。転用できるベッドは限られている。

不幸中の幸いだが、体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)や呼吸管理が必要な重症者は少なく、集中治療室(ICU)は逼迫していない。ただ、新型コロナは容体が急変しやすく、高齢者などの高いリスクの感染者で入院できない場合があるのが問題だ。

クラスター対策として、いまは医療機関や福祉施設に専念すべきだ。医療従事者や介護職員を中心に、定期的にPCR検査を実施するのが有効だ。

北海道が直面している問題は他人事ではない。人口当たりの医療機関数は北海道よりも埼玉県や茨城県の方が少ない。今後ほかの地域でも起こりうるだろう。

 

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■検査徹底、経済回す近道 英キングス・カレッジ・ロンドン教授 渋谷健司氏

しぶや・けんじ 公衆衛生学が専門。東京大医学部卒、米ハーバード大博士。2019年から現職。世界保健機関事務局長上級顧問。

英国も夏のバカンス後に「英国版Go To イート」を実施した。9月以降、感染拡大が止まらず、9月21日に科学顧問たちがジョンソン首相に2週間の地域限定のロックダウン(都市封鎖)を求めた。

首相は経済を止めないため「バランスをみながら対策をとる」という判断で拒んだ。感染はさらに広がり、6週間たって国全体で春に続く2度目のロックダウンを余儀なくされた。

効果が少しずつ出てきているが、それでも今、1日に約2万人の感染者が報告される。(無症状も含め)実際には10万人ほどの感染者が出ている。9月に対策をとっていれば、ここまでの感染拡大には至らなかっただろう。

「経済を止めない」ことのみを優先してしまうと、結局は感染対策が後手後手にまわり、ロックダウンを広い範囲でしかも長期間実施せざるをえなくなる。結果として、経済へのダメージがより大きくなる。

ロックダウンは医療崩壊を防ぐ最後の策で、誰もしたくない。そのためには感染の広がりが小さいうちに芽を摘む。無症状感染者も含めて検査、追跡、隔離を徹底し感染を抑え込むことが経済を回す近道になる。

両立させようと中途半端に対策をだらだらやっていると、このウイルスの広がりは止まらない。韓国、台湾、中国、ベトナム、ニュージーランドのように初期段階で抑え込むしかない。

英国では新型コロナの後遺症が若い世代でも大きな問題になっている。以前なら高齢者の重症化や死亡を防げばいいという考えもあったが、今はそうではなく、全年代でできるだけかからない方がいい。

日本政府は緊急事態宣言を5月末に早めに解除した。その後も一定数の感染者が出ていた。市中感染が残っている状況で「Go To キャンペーン」によって人の行動を促した。

コロナを抑え込もう、封じ込めよう、という姿勢がみられない。「ウィズコロナ」という言葉で一定の感染を許容して経済を回す策だと、自粛を繰り返し、かえって経済的ダメージが大きくなると言えよう。

(聞き手は編集委員 矢野寿彦)

 

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<アンカー>高齢患者が増加 医療の危機迫る

第3波は感染者に高齢者の割合が多いのが特徴だ。医療現場の病床の使用率は全国の7つの都道府県で30%を超えた。数字以上に医療体制は危機的状況にあると聞く。

感染症対策と社会経済活動の両立は難しい。第1波の際は4月に緊急事態宣言を発令し、経済活動よりも感染抑止に重きをおいた。その結果、4〜6月期の成長率は戦後最大の落ち込みとなった。第1波のように経済活動を止めることは容易ではないだろう。

重症者や死亡者は高齢者や基礎疾患のある人が多く、3〜8割は無症状ですむとされる。重症化しやすい人たちへの感染を防ぎつつ、経済活動を維持するには難しいかじ取りが必要になる。

今後も感染拡大の恐れがある。政府は状況に応じて経済のアクセルと感染対策のブレーキを踏み分ける必要があるが、今はブレーキを強く踏む時ではないか。

 

 

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