裏で手を結ぶテック大手

 

 

「邪悪にならぬ」仕組みを


ラナ・フォルーハー  FT commentators

 

 

ついに我々の時代の反トラスト法(独占禁止法)案件が動きだした。米司法省が20日、米グーグルを世界のネット検索市場の92%のシェアを違法に守っているとして提訴した。

 

イラスト Matt Kenyon/Financial Times

問題視したのは、グーグルが様々な機器やプラットフォームに自社の検索エンジンを標準搭載してもらうために米アップルやその他の巨大テック企業と結んでいる契約などだ。米司法省はグーグルとアップルが支配的地位を維持するため手を組んだと主張する。この10年強、まさにこの点を証明する事実はいくつも指摘されてきたわけで、もっともな主張といえる。

 

互いに人材は引き抜かないというカルテル

例えばアップルなど米IT(情報技術)大手4社が互いに人材の引き抜きはしないというカルテルを結び賃金を抑えていたとして旧従業員らが2011年、賠償を求めて集団訴訟を起こした。その過程でアップル創業者スティーブ・ジョブズ氏(当時、最高経営責任者=CEO)は07年にグーグルに電話し、グーグルの採用担当者がアップルのソフトウエア技術者を引き抜こうとしていると苦情を述べた経緯が明らかになった。

当時グーグルのCEOだったエリック・シュミット氏は、これを受け人事担当にこうメールした。「当社にはアップルからは人材を採らないという方針があるはずだ(中略)引き抜きを中止し、なぜこんな事態に至ったのか説明がほしい。アップルには早急に返答する必要がある」。同氏はその時「後々訴訟を起こされた場合、記録が残るのはまずいので(アップルには)口頭で返答する」とも書いた。

実際、大手IT各社は優秀な人材を互いに引き抜かないよう「非勧誘協定」を結んでいたことが判明した。反トラスト法を専門にする法律家や共和党、民主党双方の議員補佐官など多くの専門家は、雇用カルテルは刑事訴追の対象で、個人の収監もあり得ると筆者に語った。しかし、当時のオバマ政権は刑事訴追には踏み切らなかった。

グーグルとアップルの他、協定を結んでいたとされる米アドビシステムズや米インテルなどは後に、原告の旧従業員6万4000人に対し、計4億1500万ドル(約430億円)を支払うことで和解した。

映画「ゴッドファーザー」で5大マフィアファミリーが縄張りを分け合うシーンを覚えているだろうか。巨大テック企業同士の関係は、筆者にあのシーンを常に思い出させる。これらの企業のトップは、競争が少なすぎるという批判を受けると大抵、自分たちは激しい競争をしていると反論する。

だが、今回の米司法省によるグーグル提訴も、米議会下院司法委員会が6日に公表した巨大IT企業に対する反トラスト法の調査報告書も、これら企業が各分野で支配的地位を維持するため互いに助け合っている可能性が高いと指摘している。

助け合いにはコストがかかるが、それだけの価値はあるということだ。グーグルはアップルのすべての機器に検索エンジンを標準搭載してもらうのに、全純利益の5分の1を毎年アップルに払ってきた。グーグルはアップルが必要なのだ。アップルにとってもスマホの販売競争激化で利益が出にくくなる中、コモディティー化しにくいサービスの売上比率が増えるほどグーグルが必要となる。

アップルのある幹部社員は18年にグーグルの幹部に「目標は、我々があたかも同じ一つの企業で働いているかのようになることだ」と書き送っている。

今回の下院司法委員会報告書の執筆を手伝った米コロンビア大学法学部のリナ・カーン准教授は、「これは相互の利益を守るためのエコシステム(生態系)だ」と指摘する。筆者からみれば20世紀初頭の米国で石油や鉄鋼、鉄道業界などの大物が協力し合って互いの利益を守った「トラスト(企業集団)」と同じだ。

 

支配的地位がますます競争力を強化させる

これらの企業集団は、1890年に成立した米国初の独禁法であるシャーマン法によって解体された。米司法省は1998年に米マイクロソフトがパソコンの基本ソフト(OS)とブラウザー(閲覧ソフト)を組み合わせて販売することで支配的地位を乱用していると提訴した際も、同法を適用した。司法省は第一審で勝訴したが、第二審は敗訴し、その後和解した。

グーグル提訴も同法を適用し、同社が競合他社と協定を結んだり、検索結果に自社製品が優先的に表示されるようにしたり、利用者が入力するキーワードに連動した広告を表示するサービス「アドセンス」を使うサイトに制約(編集注、競合サービスが配信する広告の掲載を禁じるなど)を課したりする行為をやめさせようとしている。

グーグルのケント・ウォーカー法務担当上級副社長とシュミット氏は、グーグルがサービス提供の変更を余儀なくされたら消費者が「損害を被ることになる」といういつもの反論を持ち出す。シュミット氏は21日、「支配的地位と優秀さは別物だ」と反撃した。

だが支配的地位と企業としての競争力は互いに増強し合っていく。英競争・市場庁(CMA)が7月にまとめたオンラインプラットフォームに関する報告書によると、グーグルほどの規模になると競合各社は「供給と需要」の両面から競争を阻害されてしまうという。

一例がアルゴリズムを使ってサイトからデータを網羅的にカバーし利用者に最適なウェブページを特定する「クローリング」だ。この手法を最初に導入したのはグーグルで、その成功によって支配的地位を固めた。

今やマイクロソフト以外の検索エンジンプロバイダーがグーグルと競争できるような能力を持つ検索エンジンを提供しようとすると、あまりにコストがかかる。各サイトは多くのクローリングを受けるとアクセスが集中した状態になり機能しなくなるため、主なウェブサイト運営者は自社に有用と思われる一握りのプロバイダーを除き、他社からのクローリングは全てブロックする。かくしてグーグルは多くのクリック数を獲得し、アルゴリズムにさらに磨きをかけ、市場シェアを拡大していく。

 

「邪悪になるな」を貫く公正さが必要

ではどう解決すればよいのか。検索エンジンの標準搭載を変えて競争を促進する案や、グーグルのOS「アンドロイド」事業の分離独立、独立系のクローリング会社の創設、あるいはグーグルに成功をもたらしたアルゴリズムと抱えるデータを公開させるなどが考えられる。こうすれば、かつての鉄道や電話会社など独占企業が規制の枠組みの中で公共サービスを提供するインフラ企業に変わっていったのと同様、グーグルも変えていくことが可能になる。

グーグル創業者のラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン両氏は1998年、米スタンフォード大学博士課程在籍中に初めて検索エンジンを立ち上げることについて書いた共著の論文で、同様の結論に達している。あたかも今の状況を予言するかのように、民間の大規模な検索エンジンが出現すれば利益相反が生じるため、「透明性が高く学術領域に属する競争力のある検索エンジン」が必要になる、と。

大賛成だ。本当に素晴らしい企業であるためには、あるいはグーグル設立当初の行動規範である「邪悪になるな」を貫くには、まずフェアでなければならない。

 

 

 

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