韓国、対日強硬を「封印」 GSOMIA、破棄の通告期限

 

 

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権が対日強硬路線を「封印」している。日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄通告期限の24日も韓国政府は特段反応せず、同協定は維持される見通しになった。内政の対応に忙殺され、日本の優先順位が低下していることが背景にありそうだ。

日本の植民地支配からの解放を祝う15日の「光復節」演説でも文大統領は対日批判を控え「協議の門戸は今も大きく開かれている。いつでも日本政府と向かい合う準備はできている」と対話を呼びかけた。

昨夏は日韓関係が大荒れに荒れた。日本が7月、半導体材料の輸出管理強化を発動した。8月には輸出優遇国から韓国を除外すると、韓国はGSOMIAの破棄を通告した。韓国では日本製品の不買運動が起き、反日ムードが最高潮に達した。

それから1年。文政権は部品・素材の国産化による「脱日本依存」の成果を強調しこそはすれ、日本を刺激する言動は避けている。なぜか。ひと言でいえば「それどころではない」からだ。

大統領府はいま「内政が最優先」という雰囲気だ。抑え込んだかにみえた新型コロナウイルスは13日から新規感染者が再び急増。「世界の模範」と自任する防疫システムは正念場に立つ。

経済面では、ソウルのマンションの平均価格は10億ウォン(約8900万円)を超え、政権発足から3年で5割も上昇。国民の不満は募っており、韓国ギャラップの世論調査では8月第3週の支持率が47%と、5月第1週の71%から急落している。

文氏の優先順位は、幹部による報告の順番に表れるという。コロナ対策を指揮する秘書室、不動産など経済政策を担当する政策室がまず文氏に報告する。外交安保を担う国家安保室はその次のようだ。

文政権は7月に外交安保ラインの人事を刷新したが、その役割もこれまでのような「大きな変化」を志向する外交から、波風が立たないようにする「状況管理」に軸足が置かれている。文氏が国内問題に集中できるようにするためという。

外交安保の優先順位は「南北」と「米中」だ。

文政権の悲願である南北融和は北朝鮮による6月の南北共同連絡事務所の爆破で行き詰まった。北朝鮮は当局間対話を拒否しており、民間レベルでのコロナ防疫などの支援を続け、怒りが解けるのを待つしかない。

米中はそれぞれ韓国を自陣に引き込もうと秋波を送る。トランプ米大統領は文氏を主要7カ国首脳会議(G7サミット)に招待。米は韓国の要望を受け入れ、固体燃料ロケットの開発を容認した。

一方の中国は21〜22日に楊潔篪篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員が訪韓し、習近平(シー・ジンピン)国家主席の早期訪韓を議論。米軍の地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)の韓国配備で悪化した中韓関係を修復させようと動く。

安保は米国、経済は中国にそれぞれ依存する韓国。文政権はどちらの「踏み絵」も踏まぬよう細心の注意を払う「綱渡り外交」を迫られている。内憂外患が強まるなか、日本を相手にする余裕はとてもない。

最大の懸案である元徴用工問題は差し押さえられた日本製鉄の資産が現金化されて原告に支払われるまでにはさらに時間がかかり、年内の支払い完了は困難だとの見方が出ている。まだ時間はあり対応を急ぐ必要はないとの判断も政権にはある。

対日強硬策を控えているからといって「文政権の対日戦略には何の変化もない」(陳昌洙=チン・チャンス世宗研究所首席研究委員)というのが韓国の日本専門家の大方の見方だ。

 

 

 

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