新型コロナ、炎症物質で重症化見極め 米エール大・岩崎教授に聞く
後遺症 自己免疫疾患か
新型コロナウイルスに感染し重症になる人がいる一方で、症状が出ない人もいる。新型コロナウイルスの体内への侵入に対し、ヒトの防御機構である免疫システムがどう反応するのか、依然として謎が多い。新型コロナへの免疫応答の研究で最前線に立つ米エール大学の岩崎明子教授は「炎症を引き起こすサイトカイン(細胞から分泌される生理活性物質の総称)が重症化を見極める上で重要だ」と話す。
――新型コロナに対する免疫応答でこれまでに何がわかり、何がわかっていないのか。
「私の研究室では免疫応答がどう感染防御に働いているのか、あるいは病原性を引き起こしているかについて研究している。エール大学の病院の100人以上の患者さんの免疫応答の長期的な解析を行った結果、炎症性のサイトカインを多く産生する患者さんでは病態が悪化することがわかった」
「病気に影響を与える要因についても調べている。男性は女性よりも新型コロナによる死亡率が高いのだが、女性の方が男性に比べウイルスに対するT細胞(免疫細胞の一種)の反応がよいことがわかってきた。免疫応答の違いから病状の違いが生ずると考えられる」
――炎症性のサイトカインとはどんな物質か。
「重症化する患者さんではウイルス感染に関係のない、寄生虫に対するサイトカインがたくさん出るのが特徴的だ。それ以外にも感染後早い段階(およそ12日以内)に出る物質の一つがインターロイキン18で(炎症は起こすが)ウイルス防御には効果がない『悪い』サイトカインだと言える。こうした物質を抑えれば重症化防止に役に立つ可能性がある。この仮説に基づく臨床試験が進行中でいずれ結果が出る」
――感染しても無症状の人が多数いることがわかってきた。新型コロナとは異なる、普通の風邪のコロナウイルスに過去に感染して生じた免疫の「記憶」が寄与しているとされる。
「いくつかの国で新型コロナ出現前に採取した血液を調べたところ、新型コロナに対し免疫応答が生じたと報告されている。T細胞に過去の感染の記憶が残っている証拠が出始めており、それが確かなら有効な防御になるとは思う。ただ、記憶のおかげで無症状のままでいられるといえるはっきりした証拠はまだない。世界の多くの研究者がこの課題の解明に取り組んでおり近い将来に明確な証拠が出てもおかしくない」
――その一方で、感染でつくられた抗体が長く維持されないとの見方もある。ワクチンの効果は期待できるのか。
「抗体が長く維持されないことは特に珍しいことではない。抗体が減ったからといって免疫がつかないわけではない。ワクチンで得られる免疫は自然の感染で生ずる免疫に比べ効果が高い。濃度の高い中和抗体(細胞への感染を阻止する物質)を生み出せるからだ。抗体が長続きしないことはワクチンへの期待を損なう理由にはならない」
――新型コロナに感染するマウスを開発したそうですね。
「ウイルスがヒトの細胞に侵入する入り口となる受容体(ヒトACE2)をマウスで発現させることに成功した。これまで新型コロナをマウスに感染させることができなかったので、フェレットやハムスターが実験動物に使われてきた。マウスは研究目的での遺伝子組み換えなど豊富な技術の蓄積があり、マウスで新型コロナの研究ができる意義は非常に大きい」
――いま最も関心を持って研究している課題は何か。
「感染してから長期間にわたって深刻な体調の不良を訴える人がかなりいる。倦怠(けんたい)感や頭痛などの症状でベッドから起き上がれないほどの重症の方もいる。発症前は健康な若者にこうした『コロナ後遺症』に苦しむ人が多く、男性より女性が多いようだ」
「自己免疫疾患ではないかと仮説を立てて解明に取り組んでいるところだ。免疫機構の暴走の末に、体内にできた抗体が自分自身の組織を攻撃してしまうようになったのではないか。自己免疫疾患だとわかれば治療法も編み出せるはずだ」