グローバルオピニオン

 

米中対立、改善は習氏次第

 

 イアン・ブレマー氏 米ユーラシア・グループ社長

 

 

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席はこの3年間、トランプ米政権による中国政府への対決姿勢を中国国内の自らの支持固めや海外での中国に対する同情に上手につなげてきた。そして、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が起きた。

 

Ian Bremmer 世界の政治リスク分析に定評。著書に「スーパーパワー――Gゼロ時代のアメリカの選択」など。50歳。ツイッター@ianbremmer

パンデミックに伴い中国が繰り広げてきた一連の外交は西側諸国との関係の転換点とみなされるようになるだろう。中国は新型コロナの感染を初期の段階で隠ぺいした。その後、(他国に医療物資を提供する)積極的な「マスク外交」に乗り出し、感染拡大の封じ込めに成功したのは中国の政治体制が優れている証しだと喧伝(けんでん)した。だが、他国に届いた支援物資に粗悪品が見つかり、中国のイメージは失墜した。

パンデミックを契機に中国と英国など多くの欧州諸国、オーストラリア、インドとの関係が悪くなり、米中関係は悪化している。対中強硬姿勢のさらなる強化の必要性は民主、共和両党が合意できる数少ない点となっており、米国側からの関係修復は見込めない。見込めるとすれば中国側となる。

ただ、現状を踏まえると関係修復は期待できない。トランプ大統領は米中貿易を狙い撃ちし、技術を巡る覇権争いに主戦場を移しつつある。次世代通信規格「5G」を巡っては、米国の働きかけもあって英国などが中国の華為技術(ファーウェイ)製の基地局の排除を決めている。

米政府が中国の北京字節跳動科技(バイトダンス)に動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の米国事業の売却を命じたことで技術覇権争いが過熱している。中国で事業を展開する米企業はさらに厳しい状況に追い込まれるだろう。

ヒマラヤ山中の国境地帯での中国とインド両軍による衝突などの中印対立でさえ、米国に有利に働いている。インドが中国製アプリの使用を禁止するなど対中制裁を強めたのを受け、米企業はインド市場で攻勢をかけ始めている。

中国は香港や台湾、南シナ海などの問題でも強硬姿勢を強め、事態を一段と悪化させている。習氏と中国の政治エリートの間には、習氏が国内で権力基盤を強固にするほど世界の大国やアジアの覇権国としての中国の台頭を指揮する態勢が整うという暗黙の了解がある。習氏は中国が主権に関わる「核心的利益」と位置付ける問題で強硬路線をとらざるを得ない。

中国が香港の統制を強める「香港国家安全維持法」を施行したり、領有権を争う南シナ海では強硬な行動に出たりするのはそのためだ。いずれも、米国をにらんだ行動だ。直近ではアザー米厚生長官が台湾を訪問した。米閣僚の訪台は数年ぶりで、中国政府に対する明確なシグナルとなった。

米政界はここ数年、反中姿勢を強めており、容易に方向転換できない。米民主党が大統領候補に指名したバイデン前副大統領が勝っても、米国の外交政策の反中姿勢は変わらないだろう。

現在の米中関係の方向性を変えることができる人物がいるとすれば、それは習氏にほかならない。習氏には、中国共産党と国内経済や社会、ひいては国際社会との関係を変えた政治家としての実績がある。もし米中関係に短期間の出口車道があるなら、その道を選ぶ人物は習氏だろう。

習氏はこの3年間、中国経済に打撃が及びかねない行為を阻止しようと、米国の挑発に冷静に対処しようと腐心してきた。習氏には難しい綱渡りだった。最近はその綱渡りの足元もおぼつかなくなった。中国にとって良い知らせがあるとすれば、未来の米中関係は主に中国政府の出方次第で決まるという点だ。だが、それは(関係改善に中国が自ら乗り出す可能性が低いため)悪い知らせでもある。

 

路線修正に難問

衝突回避のカギは中国が握る。その通りだが、透明性への信頼はすでに失われている。例えば緊張の高まる南シナ海。中国の主張は自らの都合に合わせてコロリと変わった。

「軍事化の意図はない」と2015年秋の米中首脳会談後、習主席は明言した。だが16年2月に王毅外相は「必要な防衛施設」の整備に言及。17年には国営メディアを通じて「必要な軍事防衛の強化」と胸を張るようになった。

通信やアプリでの米中対立も、背景には中国による情報統制の強化がある。17年施行のインターネット安全法では、ネット業者に捜査協力を義務づける。同年施行の国家情報法も、国家の情報活動に対する協力を義務づける。

香港の一国二制度を否定する一連の強硬措置で、見込み違いが一気に露呈した。中国が力を増せば世界は黙認する。習主席はそう考えたはずだ。だが実際には海外からの風当たりはぐっと強まった。

この辺で強硬路線を修正した方が賢明であるにせよ、その際に国内をどう抑えるか。難問が立ちはだかる。

 

 

 

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