国内コロナ患者死亡率、欧米の3分の1 初の大規模解析

 


 

 

国立国際医療研究センターは6日、国内の新型コロナウイルス感染症の入院患者約2600人の分析結果を公表した。死亡率が欧米に比べて3分の1にとどまるなど日本人患者の特徴が明らかになった。ただ、初の患者が出てから今回の全体像把握までに約7カ月かかり、米国や中国の約2カ月に比べて遅い。

患者分析は治療方針の基礎となるだけに、第2波到来に向けた不安材料になりかねない。

全国の患者の全容をつかむ大規模な解析報告は初となる。国内の約230の医療施設が7月上旬までに登録した2638人を詳細に分析、一部の項目について海外の入院患者と比較した。

入院患者のうち7.5%にあたる197人が死亡した。欧米や中国は軒並み20%超の死亡率を示しているのに比べて低い。日本の死亡者割合が低い理由について同センターは「糖尿病などの基礎疾患(持病)の割合が少ないことが関係している可能性がある」とした。海外などのこれまでの研究で高血圧などの持病を持つ患者は重症化しやすいことがわかっている。

海外と比べると糖尿病などの持病を持つ患者の割合は低かった。糖尿病を持つ患者は17%と英米の半分程度。肥満の患者は6%と米国の6分の1以下だ。なぜ低いのかという理由について同センターは「今後の分析が必要」と述べるにとどまった。

入院時に重症でない患者の特徴として、せきや発熱などがみられない人の割合はほぼ半分、倦怠(けんたい)感がない人が約6割、呼吸困難のない人が約8割と高めだった。「諸外国に比べ症状のない人が多い」(同センター)という。欧州で半分以上の患者が訴えている味覚障害の割合も17%と低めだった。「流行の初期は新型コロナの症状と認知されていなかった背景があり、今後は割合が増える可能性がある」とした。

性別でみると、英国などと同様に日本人も男性が重症化しやすいことも明らかになった。全患者の約60%が男性なのに対し、酸素投与を要した患者の65%が男性、気道への挿管や体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)が必要な患者の79%が男性と、重症者で男性の割合が増えた。

一連の大規模臨床データの結果について、感染症に詳しい東京医科大学の浜田篤郎教授は「一部で欧米や中国との違いが明らかになってきているが、診療に生かせる情報を引き出すためにはもっと解析がいる。診療に生かせるようにガイドラインに反映させていく必要がある」と話す。

 

症例分析、世界に後れ

今回の大規模な患者解析は、国立国際医療研究センターが3月に各地の病院に協力を呼びかけてから5カ月かかった。各病院でデータを共有・解析する専門の部署や人材が不足していることが原因のひとつだ。

未知の感染症である新型コロナは、日々医療現場で集約されるデータを生かすことで治療技術を改善できる。欧米の臨床データが次々と公表されていく中、日本人のデータはほとんど含まれず、最先端の治療に後れをとっている可能性がある。

実際、厚生労働省が示す「診療の手引き」の一部のデータを中国などの報告に頼っている。

国内では多数の患者の臨床データを集約・分析する仕組みが未整備だ。

例えば、データの共有に有利なはずの病院の電子カルテは規格が複数あり、データを共有して解析に使うために、わざわざ専用のシステムに打ち込み直す必要がある。多くの施設には、データを扱う専門人材がおらず、日々の診療と兼務している例も少なくない。診療をしながらの担当者の負担は大きい。

一方で、諸外国の態勢は充実している。中国の医療機関には、全症例の詳細データを専用の情報システムに登録する義務があり、専門の研究者が分析する仕組みがある。2月に7万人の症例分析を公表し、重症化リスクなどの情報を世界に向けて発信した。

米国ニューヨーク市でも、10以上の民間病院の患者のデータを統合。流行がピークを迎える前の4月に5700人の詳細な症例分析を公表した。

これまでも日本の臨床研究の脆弱さは指摘されてきた。新型コロナの流行の収束が見通せない中、症例のデータの共有や迅速な把握は、日本人が適切な治療を受けるために不可欠だ。

 

 

 

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