理念の実現 若者が担う SDGsを学ぶ(上)

 

 

高校や大学の学びの課題として、国連で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」に対する関心が高まっています。17の目標について考え、実現に向けて活動することで世界や社会への理解を深める狙いがあるようです。夏の研究課題としてSDGsの学び方について考えます。

 

■命や環境への危機感を共有

街の書店に入るとSDGs関連書籍の特設コーナーが目立ちます。オフィス街を歩けば、SDGsのカラフルなシンボルバッジをつけた人々を見かけるようになりました。一種のブームになっているような印象で、とても気になるところです。

SDGsは2015年の国連サミットで採択されました。文書のタイトルには「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と記されています。SDGsはその主要部分にあたります。

これは国連の歴史でも異例の取り組みです。国際社会には主義主張の違い、利害関係があります。理念に賛同しても、同じ目標のために活動することは意外に難しいもの。人間の命や地球環境への危機感を共有できたという証しなのでしょう。

 

「持続可能な開発目標」(SDGs)で初の首脳級会合が開催されたニューヨークの国連本部(2019年9月)

この「2030アジェンダ」に注目してほしい表現があります。

「我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う」

SDGsの目標達成への道のりを「共同の旅路」にたとえています。この言葉には、地球に暮らすすべての人々を取り残さないという思いが表れています。貧困、紛争、食料不足などに直面し、苦しんでいる人々がいまも大勢いるからです。

SDGsが採択される前、世界は発展途上国とMDGs(ミレニアム開発目標)に取り組んでいました。ところが発展途上国の現実に対応しきれなかったという問題意識がありました。これも影響したのでしょう。

 

■2030年だけがゴールではない

課題を克服し、持続可能な地球を目指す努力に先進国も発展途上国もありません。21世紀以降も、人々が安心して生きていける地球を受け継いでいかねばならないのです。SDGsの理念は決して2030年だけがゴールではありません。

地球はよく大きな船のようにたとえられます。国連の分析では2019年の世界人口はおよそ77億人。2050年ごろには100億人に迫る見通しです。SDGsを学んでいく若者には、地球上で共に生きていくという視点を大切にしてほしいのです。

たとえば、17の目標にはこんなテーマがあります。「貧困をなくそう」「質の高い教育をみんなに」「住み続けられるまちづくりを」「海の豊かさを守ろう」などです。日本語にすれば、小中学生にも理解してもらえそうなテーマばかりです。

その理念を受け継ぐ取り組みは、若者のアイデアと行動力にかかっています。将来、企業などでSDGsを達成するための重要な担い手になるでしょう。そのきっかけは身近な暮らしや街の中にあります。

学びの機会は学校だけではありません。企業が取り組んでいるイベントなどを通じて、考えたり、学んだりする機会にすることができます。環境保護、食品ロスを増やさない工夫といった試みは、日々の生活の中で実践できるテーマでしょう。

若者たちには学校や社会での活動を通じて、地球が直面している課題に気づいてほしいのです。そして、課題を解決していくために何ができるか知恵を出し合ってみること。それがSDGsの達成に参加する第一歩になるのです。

残念ながら、これまでの日本ではSDGsの社会的な認知度はそれほど高くはありませんでした。若者たちの活動の裾野を広げていくことが、SDGsをブームで終わらせないための大切なポイントではないかと考えています。

 

 

 


 

 

地域活動で世界を知る SDGsを学ぶ(中)

 

 

今回も「SDGs(持続可能な開発目標)」をテーマにした若者の学びについて考えます。地球の課題を解決するために、身近な暮らしの中にも取り組めるテーマがあります。SDGsの17の目標を達成し、持続可能な地球を分け合う大事なポイントです。

いまは、新型コロナウイルスの問題があり、グループで学んだり、キャンパスや校舎の外で一緒に活動したりすることが難しいと思います。そこで、自分で学べること、取り組めることを考えていきましょう。

SDGsの活動に参加する際に重要なことは、まず、私たちが生まれ育った街に目を向けてみることです。17の目標を確認し、自分の問題として取り組めることを考えてみるとよいでしょう。それが第一歩です。

 

■プラスチック製レジ袋を有料化

7月1日から新しい取り組みが始まりました。プラスチック製レジ袋の有料化が義務づけられたのです。消費者は買い物をする際にエコバッグなどを持参し、商品を入れて持ち帰るという習慣が広がるでしょう。

 

コンビニのレジに出されたレジ袋有料化の案内(7月1日、東京都中央区のファミリーマートの店舗)

プラスチック製のごみを減らす取り組みは世界で始まっています。たくさんの廃棄物をどう処理するかという問題だけではありません。プラスチック製の廃棄物が小さな粒になり、海の生態系への影響を含めて地球環境を脅かすという深刻な問題を引き起こしているのです。

地球環境を巡る問題は、世界の人々が意識を共有し、行動することが大切です。当たり前と考えてきた生活様式を見直すことによって、資源のムダを無くすことにもつながっていくでしょう。

もう一つ。SDGsの目標には「住み続けられるまちづくりを」があります。安全で住みやすい街をつくるにはどうしたらよいでしょう。山や川の自然環境を守っていくにはどうすればよいでしょう。

その実現には世代に関係なく人々の協力が欠かせません。

まずは、いま住んでいる街の歴史や文化、環境をよく知ることです。そして視点を変えて、たとえば、子育てしやすい街か、高齢者が暮らしやすい街かを分析してみましょう。問題点や可能性を整理し、解決へのプランを考えてみてください。

 

■社会体験が学びの糧に

皆さんが自分の街を考えることは、地球の問題を考えることにも通じます。地域の人々の話を聞く機会が生まれ、意外な交流が深まっていくはずです。そうした社会での実体験が、皆さんの将来の学びの糧になっていくでしょう。

暮らしのなかで廃棄物を減らしたり、街の未来を考えたりするという目標には、小中学生にも参加しやすいでしょう。

最近、小学生向けのSDGs関連書籍の編集に携わりました。私がかみ砕いて解説する言葉を、子どもたちは十分に理解してくれました。地球や未来にも関心があります。地球が抱えている大きな問題に気づいてもらうことが大切なのです。

世界には生活に必要な水を汲(く)むために、何時間も歩かねばならない子どもたちがいます。生きるために働かなければならない子どもたちがいます。貧困に直面する子どもたちは、満足に学ぶことすらできません。

SDGsのひとつに「質の高い教育をみんなに」があります。学べるという環境は決して当たり前ではありません。若者たちには学べるというチャンスを大事にしてほしいと思います。

私たちは2030年のSDGsのゴールへの取り組みを点検し、必要に応じて見直していかなくてはなりません。若者には、一人一人が「私はこんな活動をしている」と語ることができる取り組みを増やしていってほしいと思います。

 

 

 


 

 

課題解決への厳しい現実 SDGsを学ぶ(下)

 

 

「SDGs(持続可能な開発目標)」を教材に活用するポイントを考える連載の最終回です。今回は国際的な協力が欠かせないテーマ、日本の課題について考えてみましょう。学ぶ機会をつくりたい若者、社会活動に参加してみたい若者にヒントになればと思います。

目標に「すべての人々に健康と福祉を」があります。

まさにパンデミック(世界的大流行)に直面している新型コロナウイルス感染症の問題です。世界で感染者数は増え続けています。危機への対応をめぐり、日本でも東京都の小池百合子知事など自治体リーダーは難しいかじ取りを迫られています。

世界ではいま、新型コロナ問題に対応するためにワクチンや治療薬の開発が急ピッチで進んでいます。そもそもウイルスを抑え込めなければ、人々の健康を守り、経済や社会の活動に対するダメージを小さくすることができません。

 

■複雑に絡み合う課題

これはSDGsの視点で学ぶ際、「安全な水とトイレを世界中に」という目標にもかかわってきます。

 

東京都庁で開かれた新型コロナウイルスに関するモニタリング会議に出席する小池百合子知事(中央。7月15日、東京・新宿)

感染対策としてせっけんで手をしっかり洗う取り組みが勧められていますが、世界には農作業や日々の生活のために安全な水を十分に利用できない人々が数多くいます。多くの川が流れる日本のような国に暮らしていると理解しにくいかもしれません。世界には厳しい現実があるのです。

まさに日本の技術力や公衆衛生のノウハウを通じて協力できる分野だと思います。水資源は食料問題だけでなく、水くみをしなければならない子どもの教育問題、そしてウイルスの感染対策にもかかわります。SDGs実現への課題は複雑に絡み合っています。

さらにSDGsには「ジェンダー平等を実現しよう」という目標があります。

ジェンダーとは生まれながらに備わっている男性、女性の違いなどを指します。「男だから」「女だから」といったイメージに縛られた見方を改めていかねばなりません。個人の生き方、考え方が尊重されなくてはいけないのです。

日本では1986年に男女雇用機会均等法が施行されました。ところがいまも賃金面や人事面などで格差が生じているという指摘があります。また、複数の大学医学部入試を巡り、女子学生の合否判定に不平等があったことが判明しました。

 

■日本も改革を迫られている

残念ながら日本が抱える課題は大きいといわざるをえません。女性の社会進出、政治への参加などを指標にした国際調査では、日本は低い位置にあります。

これらの問題解消には、家事や育児の分担など暮らしの中での協力だけでなく、社会制度を通じた支援も不可欠です。「ジェンダー」問題のほか、日本はSDGs達成に向けてさまざまな改革に取り組んでいく必要があります。

国や企業はグローバルな視点でその役割や責任が求められています。企業の場合、売上高や時価総額と同様にSDGsへの取り組みや達成状況も大事な指標になるでしょう。

たとえば就職活動を控えた学生なら、働きたい企業のSDGs活動を調べてみてください。海外の取引先が環境破壊や児童労働のような問題にかかわっていないか知っておくとよいでしょう。将来の経営リスクになりかねないからです。

7月、国連は新型コロナ問題がSDGsの達成に大きな影響を及ぼす可能性があるとの見通しを発表しました。リリースで、グテレス事務総長は「人々の暮らしは脅威にさらされ、SDGsの達成をさらに困難なものにしています」と述べています。

SDGsを学ぶ若者が課題の解決策を考え、議論することは、世界に視野を広げる貴重な機会になるでしょう

 

 

 

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