風見鶏

 

日米首脳、危機でも支持低迷の妙

 

 

新型コロナ危機で各国首脳の支持率が上がっているなか、安倍首相とトランプ大統領は低迷している=ロイター

2カ月ほど前のこと。永田町での取材で、ある英字記事が話題に上った。

米フォーブス誌の電子版記事"Most World Leaders See Approval Ratings Surge Amid Coronavirus. Not Trump."(4月18日配信)だ。見出しを訳すと「新型コロナウイルス禍でたいていの首脳は支持率急上昇。例外はトランプ大統領」となる。

新型コロナの感染拡大後、ドイツのメルケル首相を筆頭に多くの国の指導者の支持率が軒並み上昇したのに対し、米国のトランプ大統領に加えて、ブラジルのボルソナロ大統領や安倍晋三首相の支持率は「上昇してもごくわずか。もしくは下がっている」と指摘。

さらに米調査会社モーニング・コンサルトが行った、主要7カ国でイタリアを除く6カ国とオーストラリア、インド、メキシコ、ブラジルの計10カ国対象の調査結果を引用し、安倍首相は支持率が最も低く、支持率から不支持率を引いた「純支持率」の年初比の下落率が最大だったと報じた。

この記事以降も、モーニング・コンサルトによる独自調査では、安倍首相の支持率が他の9カ国の首脳の後じんを拝している。一連の結果に対し自民党関係者は「海外でもアベノマスクなどと揶揄(やゆ)されてはいるが、国民からの信頼が他国と比べて劣っているとは」と頭をかかえた。「何がそんなに違うのか」

「安倍首相は、西村康稔経済財政・再生相や政府新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長に任せすぎだ」。日本リスクコミュニケーション協会(RCIJ)の島田久仁彦理事(元国連紛争調停官)は、こう指摘する。「日本は感染者数が極端に少ないことで海外では『ジャパン・ミラクル』と評されているが安倍首相が何をしたのかは明確に伝わってこない」と続けた。

島田氏によると、危機下におけるコミュニケーションの肝は「どう情報を伝え、リスクをマネージするかだ」といい、今回、新型コロナという危機に直面した際の模範的なリーダーとしてメルケル首相を挙げた。

「メルケル首相は専門家の話をよく聞いた上で政策に生かし、悪い話も科学的データに基づき正直に話した。解決策も示しながら自らが説明したことで国民の安心感につながった」と評価。その対応は(1)明確なメッセージ(2)方向性の可視化(3)責任の所在の明確化(4)国民と寄り添う――といったリスク状況下で指導者に求められる「すべての要素が備わっていた」と語る。

危機が起きると本来はリーダーに支持が集まる――。そんな研究結果もある。

1970年に政治学者で米オハイオ州立大学非常勤教授のジョン・ミューラー氏が、過去の米大統領の研究をもとに提唱した"Rally Round the Flag Effect"(国旗に結集する効果)によると、国際危機や戦争下では、国民の政府批判は減り支持率が高まりやすいという。

トランプ大統領は、この効果の例外だ。支持率は低迷し、大統領選の世論調査でも民主党のバイデン前副大統領との差が広がりつつある。「トランプ大統領は安倍首相とは逆で言い過ぎている。しかも発言をころころ変えている点がリーダーとしては致命的だ」と島田氏は分析する。

日本経済新聞社による最新の世論調査で、安倍内閣の支持率は6月から5ポイント増え43%だった。「国旗に結集する効果」で下げ止まっているとみるべきか。今後、この効果が発揮される端緒なのか。まずは安倍首相から「Go To」事業の説明を聞きたい。

 

 

 

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