米軍、アジア太平洋シフト 海空中心に中国と対峙

 

ドイツ駐留3割削減

 

 

トランプ米大統領はドイツ駐留米軍を9500人削減する案を承認した=AP

トランプ米大統領は6月30日、ドイツに駐留する米軍を9500人削減する案を承認した。その一部をインド太平洋地域に回す案が浮上している。対旧ソ連を念頭に欧州に巨大な陸上戦力を配備した冷戦期から、中東重視の時代を経て、いまは中国の抑止に力点を置く。

「数千人規模がインド太平洋地域に再配備されるかもしれない」。オブライエン大統領補佐官(国家安全保障担当)は6月22日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した。

きっかけは駐独米軍の削減案だ。寄稿は3万4500人から2万5000人に減らすと予告し、欧州の他国やアジア太平洋に置くと指摘した。米軍基地がある米国のグアム、ハワイ、アラスカのほか、日本やオーストラリアを挙げた。

なぜ太平洋周辺なのか。オブライエン氏は「米国と同盟国は冷戦終結以来、最も重要な地政学的な試練に直面する」と強調した。名指しは避けたが米国と日豪に共通する軍事的な脅威は中国だ。一層の対中シフトを意味するのは間違いない。

日本の防衛白書がまとめた2018年度時点の各国国防費によると、中国は3098億ドルとロシアの1085億ドルの約3倍に膨らんだ。

当面の米軍の世界展開には大きく3つの変化軸がある。欧州・中東からアジア太平洋という地域面と、陸から海空へという軍の種類の面、そしてコストの抑制だ。オブライエン氏の再配置論もこの3軸で説明できる。

まず地域だ。米国が重視するのは(1)冷戦時の対旧ソ連(2)テロ戦争時の中東(3)軍事力を増強する最近の対中国――と移り変わってきた。

冷戦期は旧ソ連を盟主とする東欧の軍事同盟・ワルシャワ条約機構にどう対峙するかが最優先だった。東欧諸国に接する旧西ドイツはその最前線。米軍が司令部を置く欧州最大の拠点だった。

1989年に冷戦が終わり、旧西側の北大西洋条約機構(NATO)に東欧も加盟した。ロシアの脅威が相対的に低下しドイツが隣国に攻め込まれる危険性は減った。

2000年代はアフガニスタンやイラクで米軍が活動した。石油の確保のために中東を重視したが「シェール革命」を経て米国の関心は薄れた。

10年代以降はそれまでの中東への傾斜でアジア太平洋に力の空白が生まれ、中国の台頭を許したとの危機感が出てきた。

オバマ大統領が11年にリバランス(再均衡)政策を掲げ、アジア太平洋を重視し軍の再配置に乗り出した。駐独米軍の再配置もその流れだ。

陸軍から海空軍への戦力のシフトも絡む。冷戦期のドイツに置いた大規模な陸軍は東欧のNATO加盟で必要性が低下し、兵器の高度化により地上戦を想定した人員数の重要度も下がった。

アジア太平洋で中国と向き合うには海兵隊や海軍、空軍戦力が決め手になる。中国の進出は南シナ海や東シナ海、太平洋、インド洋という海が主舞台になる。ミサイルや海空の戦力で米軍の影響力を防ぐ「接近阻止・領域拒否」が中国の戦略の肝だと米国は分析する。

米国防総省は10年に「統合エアシーバトル」を打ち出し、海空戦力を中心に中国に対峙する構想に着手した。米国防総省の18米会計年度の報告書によると、10年間で米陸軍の海外基地の減少率は4割弱、海軍は2割弱だった。

トランプ氏がこだわるのがコスト負担だ。世界各地への米軍の展開は米国にとって重荷で、大統領就任以来、各国に駐留経費の負担割合を上げるよう迫ってきた。

「ドイツが義務を履行していない」。トランプ氏は軍事費を国内総生産(GDP)の2%に増やすNATO加盟国の目標に関し、ドイツが達成していないと不満を示す。

6月24日にはポーランドのドゥダ大統領と会談し、駐独米軍の一部をポーランドに回すと表明した。同国は駐留経費の負担に前向きだ。

アジア太平洋の米軍は87年の18.4万人から18年には13.1万人に減った。35.4万人が6.6万人になった欧州より減少幅は小さいが縮小傾向は続く。韓国で駐留経費の交渉が長引き、日本も在日米軍の負担に関する交渉が秋以降、始まる。

日本は地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画の断念に伴い、国家安全保障戦略の改定を検討する。攻撃を受ける前に相手の拠点をたたく敵基地攻撃能力の保有も議論する。

敵基地攻撃の議論で米軍が「矛」、自衛隊が「盾」の日米同盟は次の段階に踏み出すかもしれない。米国の負担要求はコストだけでなく軍事オペレーションに及ぶ可能性もある。改定する安保戦略も世界的な米軍再配置を考慮する必要がある。

 

 

 

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