コロナ「第2波」AIで備え
簡易検査や重症化予測 長期化にらみ研究進む
開発中のAIで感染の有無を数分で判別する半導体チップキット=阪大・谷口教授提供
新型コロナウイルス感染症への対応で、人工知能(AI)の活用が広がってきた。画像診断や重症化の予測などで医療現場を支え、「第2波」の感染拡大や流行の長期化を見据えた研究も進む。海外に比べAIの活用が遅れ気味の日本も、技術を駆使して危機を乗り越える発想が求められる。
米欧や中国、韓国、日本などでは感染拡大の最初のピークを越え、経済活動の再開が進む。ただ終息にはなお時間がかかるとの声が多い。足元では流行の長期化に備えた研究が活発だ。
米ローレンス・バークレー国立研究所はAIによる分析と気象学の知見などを組み合わせ、新型コロナ感染症の流行の「季節性」を予測する研究に着手した。インフルエンザのように夏場に感染者が減り、秋から冬に増える傾向などがあるかどうかを探る。
温度や湿度、紫外線などがウイルスの生存や感染のしやすさに関わる可能性があるとみている。地域ごとに影響を予測し、対策などに役立つ知見の提供をめざす。
第2波を抑え込むには、感染者の早期把握も欠かせない。AIによる簡易検査の技術にも期待が集まる。大阪大学の谷口正輝教授らは微細加工した半導体チップやAIを使い、新型コロナの感染の有無を数分で判別する技術の開発を進める。
鼻や喉の奥から検体を採取して半導体チップに流し込み、ウイルスの種類によって変わる電流のパターンをAIで分析する。インフルエンザウイルスの種類はほぼ確実に判別できており「新型コロナにも適用できる可能性は高い」とみて検証を進めている。企業と組み、量産化をめざす。
英シェフィールド大学などは簡易な血液検査の結果をAIで分析し、新型コロナに感染していない人を瞬時に見分ける手法を開発した。陽性の疑いのある人に絞って感染の有無を確定診断するPCR検査をするなど、効率的な対応につながる。低コストで導入でき、検査体制の脆弱な途上国などでの活用を見込む。
海外では感染の早期把握へ様々な試みが進んでおり、米バージニア州はAIを使ったオンラインの簡易診断ツールを導入した。ラルフ・ノーサム知事は「迅速な行動が重要だ」として感染の疑いのある人らに積極的な利用を呼びかける。
新型コロナ感染症が世界に広がる中、AIは各国の医療現場を支えてきた。まず利用が進んだのは肺炎をとらえる画像診断だ。
中国の病院で使われ、アリババ集団やスタートアップのインファービジョン(北京推想科技)などの技術が注目を集めた。インドのスタートアップ、Qure・aiのAIは患者ごとに感染リスクの「高中低」などを評価でき、イタリアの医療現場などで活躍した。
AIの性能は上がっているようだ。米マウントサイナイ医科大学などは、画像診断と検査データなどからAIが熟練の専門医と同等の精度で感染の診断ができたとする成果を5月19日付の有力科学誌ネイチャーメディシンで発表した。
重症化のリスクをAIで推定し、医師の判断を助ける技術も広がっている。医療関連のソフトウエアを手掛ける米エピックは年齢などの情報と体温や心拍数、検査データなどを組み合わせ、患者の症状が悪化するタイミングを予測する手法を開発した。集中治療室(ICU)での治療が必要な患者の見極めなどに役立つ。21の医療機関が導入し、1万6千人超の患者に適用されたという。
米カリフォルニア大学アーバイン校も重症化予測にAIを活用する。米メディアによると、血液データなどから患者が3日以内にICUでの治療や人工呼吸器が必要になるリスクを推定。同校メディカルセンターで患者対応に利用する。
イスラエルのクルー・メディカルはAIを使って患者の病状変化を予測する技術について、5月下旬に米食品医薬品局(FDA)の緊急使用許可を受けた。新型コロナ感染症は急速に症状が悪化する患者もいるなど対応が難しい。今後も症状の予測にAIの活用が進む可能性がある。
日本でも新型コロナ対応にAIを活用する研究は進んでいるが、実際の導入は海外ほど積極的ではない。政策決定や医療の現場に、AIなどのデジタル技術の知識をもつ人材が少ないことが影響しているようだ。
新たな技術を導入する際に課題やリスクに目が向き、利点を生かす発想が広がらない。安全が最重要であることは間違いないが、危機の克服にはスピード感も必要だ。テクノロジーを柔軟に活用する姿勢が求められる。