コロナ 免れた感染爆発
日本の対策「勝因」見えず 合理性欠いた自粛要請
新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言がほぼひと月半ぶりに解除された。当初恐れられていた感染爆発を免れ、日本の流行はいったん収まりつつある。にもかかわらず、モヤモヤしている人も多いだろう。果たして日本の新型コロナ対策はうまくいったのか。
記者会見する新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の脇田隆字座長(右)と尾身茂副座長(5月4日、厚労省)
ウイルス学者や感染症の医師といった感染症対策のプロが集う「コロナ専門家有志の会」のメンバーの一人が5月中旬、緊急事態宣言の一部解除を前に発した言葉が印象的だった。「感染者は確実に減ってきた。ウイルスを封じ込めているようだ。しかし、いったい何がこんなに効いたのか。よくわからない」
パンデミック(世界的大流行)の第1ラウンドでは各国の医療体制や対策の巧拙が感染者数や死亡者数を左右した。情報テクノロジーをうまく使いこなした台湾や、徹底した検査と追跡、隔離で感染を抑え込んだ韓国、官学一体で合理性ある戦略にこだわったドイツなど、「台湾モデル」「韓国モデル」「ドイツモデル」として他国は手本にしようとする。
日本は感染者数や死亡者数といった結果だけみるとこうした国々となんら遜色がない。しかし、「日本モデル」という称賛の言葉は聞こえてこない。対策はデータを重んじる合理性や一貫性を欠き、「自粛要請」という矛盾した言葉を国民の行動に強いてきたからだ。まねしようにもまねできるものでない。
外出制限の前提になった「8割」自粛。本来は人と人との接触を減らす数値目標だった。しかし、緊急事態宣言下でいつの間にか主要ターミナル駅や繁華街といった都市部への人出(人の流れ)の削減にすり替わった。人出が減るのと、人と人との接触が減るのとはイコールではない。そもそも接触機会の削減をどう定量的に示すかも定まった手法はない。
緊急事態宣言が始まった4月8日以降、各都道府県では一体、何割の接触削減が達成できたのか。それによって感染者や死亡者の動向にどう影響したか。今後、きちんとした検証が待たれる。
PCR検査不足に対する説明が不十分な点も社会に不安や不信をかき立てた。厚生労働省の医系技官が中心になって、検査の絞り込みを決めたとされる。疫学調査を優先し医療崩壊を防ぐのが目的なら、過少検査でも問題がないとする根拠を丁寧に説明すべきだった。
発足当初から政府内での位置づけが不明確だった専門家会議の迷走も、対策への信頼を損なう要因になった。同会議はあくまで医学的な見地から政府に助言を行う組織で政策の決定者ではない。にもかかわらず時に大いなる存在感を示した。
極め付きは専門家会議が5月4日に公表した「新しい生活様式」だ。買い物では通販を積極的に利用し、食事の際は対面ではなく横並びに座る。生活の場面ごとにきめ細かく示した実践例は、医学的助言とはほど遠いものだった。責任をとりたくない政治や行政が、専門家という権威を巧みに利用したともいえる。
日本大学の福田充教授(危機管理学)は「(新型コロナのような)感染症対策では情報を収集、分析、調査し適切にわかりやすく伝える能力が国に問われる。何かが隠されていると思わせるのは、リスクコミュニケーションとしては大失敗」と指摘する。
秋以降、北半球では流行の大きな第2波がくると予想される。政府は第1波で感染者と死亡者数が比較的少なくすんだ「勝因」をきちんと分析し明らかにする必要がある。再び、むやみに「8割減」を求められても国民はついていかない。