求められる「異文化理解力」

 

 

 近年、ビジネスの現場では国内外問わず外国人と協働ずる機会が格段に増えており、語学力だけではなく「異文化理解力」の重要性が高まっている。これからのグローバル社会で重要なこのスキルは、どう取り組んでいけば修得できるだろうか。

 

重要なのは知識・意識・ふるまい

 

 

 

 

 ビジネス界で異文化理解力の重要性が改めて認識されるようになったきっかけの一つが、エリン・メイヤー氏の著書「異文化理解力」だ。異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とする同氏の、ビジネススクールでの長年の知見がまとめられている。特に「カルチャー・マップ」は文化の違いが可視化できるツールとして、グローバル企業を中心に活用されている。

 異文化理解力とは、具体的にどのような力なのか。同書を監訳した、クロービス経営大学院の田岡恵教授はこう説明する。

 「私たちは、国や年齢、性別など様々な違いの中で生きている。違いを前提とし、誰が相手でもどんな環境でも目指す結果を出す力が異文化理解力。違いに関する知識を持ち、違いを意識し、相手に合わせて違うふるまいができることが重要。ダイバーシティ&インクルージョンを実現する大前提ともいえる」

 企業が海外進出を積極的に展開し始めた1990年代頃から注目を集めた。特にここ数年はSNSの普及により情報がリアルタイムで世界中に伝わるようになり「リアルな接点がなくても海外の情報や意見に触れる機会が増え、ますます異文化理解力が大切になっている」という。

 新型コロナウイルス問題への各国の対応でも根本的な価値観の違いが明確に表れた。例えば日本は「皆で協力して自粛」した。合意を優先する集団主義の価値観が背景にあるからだという。対局にあったのが個人主義のスウェーデン。個人の自由と責任を尊重する政策を展開した。「今後産業界でも、経営者の背景にある文化が経営方針にますます色濃く表れてくるのではないか」と田岡教授は考える。

 日本人は自国の特徴を自覚したうえでどうふるまえばよいのか。カルチャー・マップを見ると、日本はやはり合意志向の強い文化のようだ。この特徴はチームワークが必要な場面で生かされる。例えば、国際的な会議で、皆の立場や意見を理解し、合意できるよう粘り強く会議場の外でも交渉するマインドを持っている日本人は意外と多いという。多国籍な場では、調整役として活躍できることがある。

 日本のお家芸ともいわれる「根回し」、すなわち調整力は、国籍にかかわらず、クローバルで活躍する優秀な人材に必ず備わっている力たという。

 しかし、日本人は空気を読む「ハイコンテクスト」文化であるため、国際対話の場面ではせっかくの調整力を充分に発揮できないことも多い。自分が言いたいことや感情を言語化する能力が他国に比べるとやや低い傾向にあるため、相手を困惑させることもある。多様な価値観のなかでは、察した内容が間違っていることも起こり得る。

 本書でも取り上げている「英蘭翻訳ガイドはネットで話題になっだものだが、発話者のイギリス人の意図は、受け手のオランダ人の解釈とは大きく異なっており、表現の仕方に対する価値観の違いが表れている。

 「例えば『検討します』という言葉。日本ではやんわり断るために使う場合があるが、海外は前向きに検討するものと捉えるため、誤解が生じやすい。一番怖いのは、日本人が約束を守らない嘘つきだと思われること。若いうちから明確に意見を伝える訓練が必要だ」と田岡教授は警鐘を鳴らす。特に懸念しているのは、スマホのチャット会話だ。文章が短くスタンプで終わってしまうような会話だけを続けていると、内輪以外の人とのコミュニケーションが難しくなる恐れがあるという。意見を求められる場では、考えを明確に言語化できるよう今から意識して訓練しておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

感情に負けず違いを理解

マイノリティー経験も有効

 

 

 

 異文化理解力を高めるには、他国の文化を知ることが重要だ。料理など身近なものを入り口に調べると楽しく学べるかもしれない。一つの食文化が生まれた歴史を知り、他国との交流による異文化の影響の大きさを実感できる。

 食文化の違いがわかるたけでなく「この国とあの国の昧が似ているのは、過去に戦った歴史が関係している」など、背景への理解も進むだろう。

 あえて違和感を抱いている国について調べてみることも有効だ。「ネガティブな感情に負けず、事実に基づいて違いを理解することが知性となる」と田岡教授はいう。歴史、宗教、政治の仕組みなどを調べているうちに「こういう過去があるからあの行動をとるのか」と納得できるたろう。

 マイノリティ(少数派)としての経験も異文化理解力につながる。例えば自分が文系タイプであれば理系の科学クラプに顔を出してみるなど、1人でいつもとは異なるコミュニティに飛び込むと、違いへの感度が上がるという。

 「経験からしか学べないことがたくさんある。歴史や文化を勉強して終わるのではなく、アルバイト先に外国人がいたら友達になってみるなど、何かアクションを起こしてみて」と田岡教授は話す。異文化理解力は、行動しないと意昧がない。違いを持つ仲間と協力して新しいものを生み出す力として役立ててほしい。

 

 

 

 

 

 

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