接触検知アプリ、60カ国に広がる

 

 効果には「普及6割」

 

 

スマホ同士の近距離無線機能を利用して、感染者との接触の有無を知らせるアプリが広がる(シンガポールの追跡アプリ=AP)

スマートフォンで新型コロナウイルスの感染者との接触を検知するアプリの導入が60カ国以上に広がっている。プライバシー保護との兼ね合いで方式が分かれ、米グーグルとアップルも独自技術を共同開発した。感染状況の把握は経済活動の再開にも影響する。だが大半の国でアプリが浸透せず、効果を発揮できる「普及率6割」に届かない。利用者増が課題だ。

接触検知アプリはスマホの近距離無線規格「ブルートゥース」を使い、感染者との接触を知らせるタイプが主流だ。

 

 

アプリを入れたスマホ同士が数メートルに近づくと自動的に接触データが蓄積される。感染者が出るとデータを遡り、過去2週間程度に接触した人に通知する。外出の自粛や医療機関の受診を促し、感染の拡大を食い止める。

こうしたアプリは3月にシンガポール政府が開発して注目され、世界に広がった。英法律事務所のリンクレーターズによると、5月14日時点で世界40カ国・地域で導入され、日本を含む23カ国が準備中という。

ただプライバシー侵害の懸念もある。先行したシンガポールでは利用者の電話番号の登録が必要で、データは政府が管理する。「個人監視につながる」と批判が出た。

これに対し米アップルとグーグルは共同で、プライバシー保護の機能を高めたアプリ用の技術を開発。5月20日から各国の保健機関に技術の公開を始めた。接触データを利用者のスマホだけにため、政府などが管理しない仕組みにした。日本など22カ国が採用に動く。

一方で感染防止の効果を重視し、より多くのデータを集める国もある。中国やインドなどのアプリは、全地球測位システム(GPS)で位置データも把握。利用者の細かい行動履歴を追跡できる。感染者や接触した人の行動パターンがわかり、政府は予防策を立てやすい。その半面「いつ、どこで誰と会ったか」など日常生活が政府に筒抜けにもなる。

プライバシー保護とデータ収集のバランスに各国は悩む。個人情報保護に厳しい一般データ保護規則(GDPR)を持つ欧州でも、アプリの方式を巡り対応が分かれる。

ドイツなどはアップル・グーグル連合の技術を使う構えだが、ノルウェーなど政府がデータを集約する独自のアプリを導入した国もある。英国は当初、政府によるデータ管理を目指したが、路線変更も検討するなど迷走気味だ。

米国は州によって対応が違う。ノースダコタ州やユタ州の保健当局は位置情報を使うアプリの利用を推奨している。

様々なアプリが乱立するが、どの国も利用者が伸び悩んでいる。アプリを入れたスマホ同士でないと接触データが蓄積できず、利用者が少なすぎると効果が出ない。

慶応大の宮田裕章教授は「各国の専門家の多くは、アプリが有効に機能するには6割の普及率が必要とみている」と話す。だが普及率が高いアイスランドでも4割。シンガポールは25%程度だ。「政府のデータ管理に対し、市民の不信感がある」ともいわれる。

日本もアプリ利用者の確保が課題となる。普及率6割は対話アプリのLINEと同水準でハードルは高い。国立情報学研究所の佐藤一郎教授は「政府はデータの扱われ方を丁寧に説明するなど、透明性を高める努力が必要だ」と話す。

 

 

接触歴通知→自宅待機、実効性が焦点

 

 新型コロナウイルスの感染者との接触を知らせるアプリが広がるが、通知を確実に感染拡大の防止につなげる実効性が課題になる。接触が判明した人が、積極的に自宅待機や医療機関への受診に向かうための仕組みづくりが重要だ。

 ロシアやトルコでは、接触歴を通知された人に、当局が強制力を伴う自宅待機の指示を出す場合がある。ただ他の多くの国では、まず通知対象者の健康状態を確認し、自発的な対応を求める。

 アプリの普及率が4割に上るアイスランドでは、通知された人の同意を取ったうえで、政府の「濃厚接触追跡班」の調査員が訪問。行動履歴などを聞き取って、必要に応じて自宅隔離などを促す。シンガポールは保健当局の職員が電話連絡し、健康状態などを確認。さらに医療機関での受診を勧めることもある。

 ノルウェーは、通知と同時に「周囲への感染拡大を防ぐ生活アドバイス」を記したメッセージをスマホに送る。

 日本は通知方法を検討中だが、内閣官房の幹部は「企業と協力した施策と併せて、効果を高めたい」と話す。通知を受けた人は自宅待機する社内ルールを広めてもらう取り組みなどが想定される。

 

 

 

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