遠隔授業現場では 教員の当事者意識養う
横浜創英中学・高校校長 工藤勇一
「ズーム」活用徹底/対面・オンライン併用
新型コロナウイルスの影響による休校が長期化し、オンライン授業などによる学びの保障が課題になっている。東京都千代田区立麹町中学校で学校改革を進め、現在は私立横浜創英中学・高校の校長を務める工藤勇一氏に現状を報告してもらった。
横浜創英中学・高等学校(横浜市)は中学6クラス、高校39クラス。部活動が盛んで、進学指導に力を入れる特進コースもある。生徒と教員の距離が近く、互いに学び合う校風だが、新型コロナウイルスによる休校でそれが奪われてしまった。
私は6年間校長を務めた東京都千代田区立麹町中学校を3月末に定年退職。4月1日、本校の校長に着任した。すぐに取り組んだのが全教職員でのブレインストーミングだ。生徒をウイルスから守り、学校を再開するための課題と解決策を検討した。「学校と生徒、生徒と学びをつなぐにはオンラインしかない」というのが結論だった。
本校はIT(情報技術)化が進んだ学校ではない。教員に1人1台のパソコンもなかった。だが多くの人が明日の生活にも不安を感じている今、私たちが「ITが使えない」などと言ってはいられない。教員にそう呼びかけ、テレワークと約1600人の生徒への学習課題の提示ができる環境を10日ほどで作った。
現在、日々の会議はほぼ全てビデオ会議システム「ズーム」に移行。生徒には「G Suite(ジースイート)」などで授業やメッセージ動画を配信し、相談や質問も受け付けている。できる学年・クラスから順次ズームでホームルーム(HR)も開始。HRが始まると、多くの生徒が元気になったように思う。
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ほぼ全ての生徒が家庭でズームを使えるようになるまで3週間ほどかかっただろうか。4月中にほとんどの生徒との2者面談を終えた。この間、保護者や生徒へのメッセージ動画を閲覧者限定でユーチューブに12本投稿。家庭での自律型学習や自己コントロールの方法などを伝えた。例えば「脳科学を活用した三日坊主克服法」などだ。
ダンス、吹奏楽など一部の部活もオンラインで始まった。新入生向けの部活説明会なども生徒の手で企画運営された。
5月11日から遠隔授業を本格的に始めたが、やはり移行は大変だった。説明用の動画を作ったが大型連休中、家庭からの相談窓口には「うまく接続できない」という電話が多数あった。7、8両日の試行でも、つながらない生徒がいたと聞く。
試行錯誤は今後も続くだろう。しかし、分散登校が可能になっても遠隔授業は併用し続ける予定だ。学校再開後も感染リスクを考え、家庭の判断で登校しないことがありうる。教室でも家庭でも同様の勉強ができるよう、遠隔と対面のハイブリッド型の授業を完成させなくてはならない。
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私が学校経営において以前から重視しており、非常時では特に大切だと思うことが2つある。
一つは「当事者意識」である。その欠如は組織にとって最大の問題だ。皆が誰かの指示を待ち、うまくいかないことを組織やトップのせいにする。いざ解決策を実行しようにも、多くの人ができない理由ばかり述べる。こんなことでは迅速な課題解決はできない。
今回、公立学校の多くがネット接続できない家庭があることなどを理由に紙の教材のみで自宅学習の支援をしたが、対応として不十分だと思う。できるところから遠隔での支援を始め、漏れる家庭があればフォローする方法を考えればよい。
当事者意識を高めるには透明性と情報公開が重要だ。生じている問題や解決を阻んでいる課題などを組織の構成員全員で共有する必要がある。本校が4月1日に行ったブレインストーミングがまさにそれだった。
二つ目は対話による最上位目標の明確化だ。上位にある目標から順に一つひとつ、全員で合意していくのである。
そもそも私たち教員は対話に慣れていない。問題が生じると解決策がそれぞれの立場から提案され、乱立しがちだ。利害による解決策の対立は感情の衝突を生み、解決を遅らせてしまう。そして学校でよく目にする手段の目的化が起こる。それを防ぐには上位目標を共有し、実現する手段に焦点を絞って合意を積み重ねていくことが有効だ。
コロナ休校は日本の教育のIT化の遅れを再認識させた。遠隔授業に限っても教員のIT技術の向上、生徒の評価手法の再検討、そして何より生徒の主体性を生かした授業の設計など課題は山積する。どれも迅速な対応が必要だが、本質的な課題を忘れてはならない。
学びとは本来、主体的なものだ。しかし日本の教育は子どもに手をかけすぎている。学力向上ばかりを唱え、そのためのサービスを与えることに躍起になり、結果として学習時間は伸び続け、最も大切な主体性・自律性を奪ってしまっている。サービスに慣れた子どもは次第に際限なくサービスを求めるようになる。大人の消費社会を映し出しているかのようだ。
一方で、大人の社会では働き方改革が進み、個に応じた働き方が実現しつつある。学校も知識注入型の一斉指導から、個別最適化された学習者主体の学び、実社会で必要な力の習得を目的にした学びに移行すべきだ。
休校による学習の遅れを取り戻せるかどうかが懸念されている。私は自学と協働を中心とした自律型の学習に移行できれば、今年度の教育課程を残りの期間で終えることはできると考える。
今こそ学校の本質的な目的、最上位の目標について社会全体で対話を進め、一つずつ合意しながら改革・改善を実現していく丁寧なプロセスが求められている。